長年バラエティー番組から重宝され続け、いまや無双状態ともいえるタレントの島崎和歌子。数多くのバラエティータレントがブレイクしては消えていくなか、なぜ彼女は生き残り続けることが可能なのか――ライターの冨士海ネコ氏が“意外な理由”を分析。

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 島崎和歌子さんが好きだ。そういう視聴者や共演者は多いのではないだろうか。あの小泉純一郎元首相も島崎さんのファンだという。よくある「上司にしたいランキング」とか「一緒に飲みたいランキング」上位に名前が出ないのが不思議なくらいである。

 芸歴35年、「オールスター感謝祭」(TBS系)の顔として知られる島崎さん。マツコ・デラックスさんをして「無駄に美人」と言わしめた美貌と豪快な語り口は、バラエティーで無双状態だ。酒豪ぶりはあの和田アキ子さんをしのぐほどともいわれ、さまざまな芸能人から「ワッコさん」の「被害報告」も上がっている。

 ただあくまで個人の感覚だが、島崎さんがここまで持ち上げられるようになったのは、ここ数年ではないだろうか。私は「魔法少女ちゅうかないぱねま!」を見ていたが、それ以降で島崎さんの姿を見るのは「オールスター感謝祭」くらいだった。アイドル歌手としてのヒット曲も知らないし、バラドルというくくりの中でも、森口博子さんや松本明子さんを見ることの方が多かったように記憶している。

 今でこそ美人と誰もが認めるものの、ふっくらした体つきを揶揄されることもあった。90年代は安室ちゃんやコギャルブーム、2000年代はエビちゃんなどをまねる「めちゃモテ」OLが席巻。普通ならここで腐っていってもおかしくない。しかし島崎さんは金や薬のスキャンダルに見舞われることもなく、バラドルにありがちな「不思議ちゃん」などのキャラ付けで迷走することもなかった。

 おそらくここに彼女の魅力があるのかなと思う。無闇に爪痕を残そうとしない、「一番になろうとしない」というスタンスである。

井森美幸の再ブレイクも影響か 芸人からの信頼の厚さを誇る「受けの技術」

 同じような立ち位置としては、井森美幸さんをおいて語れない。島崎さんと同じく80年代にデビューし、いまだにバラドルとして息の長い活躍を続けている。ヒット曲やヒット作にこれといって思い浮かぶタイトルはないというのも似ているが、「ヒット作はモンダミン」「ホリプロオーディション時の変なダンス」で30年間いじられ続けられていること自体が驚きである。

 それはお笑い芸人からの信頼の厚さにも通じるのではないだろうか。2023年には「アメトーーク」(テレビ朝日)で「井森美幸大好き芸人」が組まれたほどだ。もちろん例のダンスも披露され、スタジオは大盛り上がり。芸歴が下の芸人が相手であろうと、気取ることなく受け答えをする井森さんを見て、大好き度が増した芸人や視聴者は多いことだろう。

 やはり井森さんにも、「一番になろうとしない」という姿勢を感じる。芸人主体のトークバラエティーなのだから、自分はその材料に過ぎないという達観した視線があるようだ。

 バラエティーで切り返しが絶賛される女性タレントは少なくないが、行き過ぎると批判を受ける。「あたし笑いが分かってます、って感じで鼻持ちならない」という、かつてベッキーさんや小島瑠璃子さんが受けた批判である。また、場合によっては奇麗どころとして呼ばれている女子アナや女優にかみ付くことで、「分かってる女」感を出す場合もあるが、島崎さんや井森さんにそうした小細工の気配はない。

 島崎さんも、有吉弘行さんや明石家さんまさん、出川哲郎さんら芸人にいじられることは多々あるが、いつものガハハ笑いでいなしている。美人だけど気取っていない。乱暴に突っ込んでも怒らない。場合によっては自分がボケるし回しもできる。でもトークのラリーには乗るが、最後のアタックは芸人に決めさせるという役割分担を強く意識しているように思うのだ。それゆえ、芸人のトーク番組が増加した平成後期あたりから、島崎さんらの優秀さが再評価されるようになったのではないか。数多くのバラドルが、ブレイクしては消え世代交代していく中で、島崎さんと井森さんの安定感は変わることがなかった。マツコさんも以前、「島崎さんと井森さんに最近のバラエティーは頼りすぎ」と苦言を呈したほどである。

これだけ人気でもいまだにSNSアカウント無し テレビオワコン時代に光る「テレビ一本」という男気

 テレビがオワコンと言われる時代に、島崎さんが重宝される理由。それは彼女の、「テレビ一本」という男気あふれる姿勢が一番大きいのではないだろうか。これだけSNSが大流行していても、YouTubeはおろかXもInstagramもやっていない。島崎さんの肉声が聞けるのはテレビだけだ。だからこそテレビに対する思いの強さがうかがえる。

 この春の「オールスター感謝祭」では、若手人気俳優の高橋文哉さんのチャレンジ時に、声援を飛ばした大勢の「女性スタッフ」に怒り競技を中断させた。「アッコにおまかせ!」では、海外を拠点にしてたまに帰国して番組出演をすると言ったフワちゃんに、「すごいナメた仕事してるね」とも発言。テレビ制作現場の空気のよどみや緩みを見過ごせない、という島崎さんの矜持が伝わるエピソードではないだろうか。「あちこちオードリー」でも、スマホでの撮影や見たこともないメーカーのお茶が出てくることを挙げ、最近のテレビ業界の苦境ぶりを嘆いていた。

 SMAPが「ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン」と歌ったのは2002年だが、島崎さんはまさにオンリーワンの存在感で芸能界を走り続けてきている人だ。でもテレビとは、もともと何かのナンバーワンだけが出られる場所だった。歌や話芸、美貌に学問、特殊な技能。おそらく島崎さんは、共演者やスタッフがナンバーワンになろうとしているか、ナンバーワンたる何かを持っているかを見つめ続ける、最後のテレビ人なのではないだろうか。いわば彼女はテレビ界ナンバーワンの見届け人であり、その姿勢こそがずっと出演枠を失わない最たる理由にも思うのである。

 島崎さんはただの「無駄に美人」ではない。「無駄にテレビの将来を考えすぎている美人」でもあるのだろう。でもその真面目さや責任感の強さが、島崎さんが愛される理由に違いない。「オールスター」の打ち上げでは、率先してお酒と氷を手に飲み物を作っているという話を有吉さんが明かしていたこともある。私の推論が正解かどうかは分からないが、この先も島崎さんの「アンサーチェック!」のかけ声は聞き続けたい。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部