賀来賢人が主演

 Netflixで配信された日本ドラマシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」(デイヴ・ボイル監督)が世界的な大ヒットを記録した。日本の伝統的な忍者の世界を舞台にしたアクションドラマで、忍者の家族や一族の物語を中心に展開していく。なぜ、世界で支持されたのか、その理由に迫った。

「忍びの家」では、俳優の賀来賢人が主演し共同エグゼクティブ・プロデューサーとして製作陣にも名を連ねている。類い稀なる才能を持つ優秀な忍びでありながら、その優しさが仇となり大きなトラウマを抱える俵家の次男・晴(ハル)を魅力的に演じた。他に江口洋介、木村多江、高良健吾、蒔田彩珠、宮本信子らが家族役で出演し、政治的な陰謀や戦いに巻き込まれながらも自らの信念や絆を守ろうとする家族の姿を描いている。(※以下ネタバレあり)

 戦国時代から江戸時代まで活躍した服部半蔵の末裔である俵家が住む「忍びの家」。6年前の政治家誘拐事件に出動した長男の岳(ガク、高良)は任務の途中、敵の風魔小太郎(山田孝之)に刺されて海に落下し行方不明に。その後、俵家は忍者の任務から離れて普通の家族になろうとするが、文化庁忍者管理局の局長(田口トモロヲ)からの圧力で新興宗教の捜索や日蝕と呼ばれる日本壊滅作戦に駆り出される。

 最終的に国家を揺るがす最大危機は回避されたが、大勢の政治家が植物の猛毒によって死亡するという戦慄の結末となった。裏で糸を引いていたのは死んだと思われていた岳で、強い日本の復活のために政治的な陰謀を張り巡らせていたのだった。

「忍者」という日本の伝統的キャラクターをドラマや映画に登場させるのは常套の手法だが、エグゼクティブ・プロデューサーの佐藤善宏氏は「日本から送り出すヒーロー・ヒロインはなんなのだろうか。それはきっと忍者です。社会の裏で人知れず秘密裏に活躍し、世の平和のために尽くしている。本作品は、そんな影のヒーローとヒロインを描いていきます」と意気込みを語っていた。

引き込まれる物語

 それにしても世界的な評価が高い。アメリカ最大の映画レビューサイトRotten Tomatoesの評価は何と100%。2月中旬に公開されると75の国と地域で次々と非英語テレビ部門でトップ10入り。インドネシアでは3週にわたって4位に食い込み、香港では2週目に1位、日本でも1位が2週続いた。前評判が高かったもののNetflixの海外配信で大こけしたTBS系ドラマ「VIVANT」とは対照的な成功を収めた。

 勝因はどこにあるのだろうか。ドラマに詳しい放送ライターがこう話す。

「アクションシーンが魅力的で忍者たちの戦闘技術や緊迫感あふれる戦闘、迅速な動きが視聴者に緊張感を与えましたし、悩みや葛藤を抱える多様な登場人物も魅力的でした。視聴者はその内面や成長を見ることで感情移入し、物語に引き込まれたようです。また、物語には複雑なトリックが含まれていて次の展開がどうなるか気になるような中毒性もありました。忍者の伝統や日本の素朴な風景などは海外視聴者の興味を引いたことでしょう」

「忍びの家」の魅力を挙げれば切りがないが、従来の日本のドラマが取り上げない日本社会への独特な風刺や批判的な見方が底流にある。俵家が住む「忍びの家」は古民家のように老朽化しており、敵である風魔の忍者から憐れみを受けるほど。苦しい家計のなか母親の陽子はスーパーで万引きを繰り返し家へと持ち帰る。そんな忍者一家は文化庁忍者管理局から監視され強制的に任務を指示され、いつも命の危険にさらされている。

 メディア論を担当する大学講師がこう解説する。

「国家に支配され貧しい生活を送る俵家は今の格差社会の縮図です。万引きを繰り返すシーンは2018年に公開された是枝裕和監督の映画『万引き家族』を参考にしているようですし、国家権力に支配され忍びの人生から抜け出せない俵家は、民主主義の欠如を鋭く指摘しています。こうした現代の社会に対する自己批判的な視線はNetflixで大ヒットした韓国の『イカゲーム』や『万引き家族』で全面的に描かれていました。

『忍びの家』は表面的には家族の団結や絆を描いているようで、実は社会的な不公正を暴くという政治的なメッセージを多分に含んでいるように見えます。海外市場で人気を得たのは古い慣習や困窮、格差から抜け出せない家族のジレンマというグローバルな課題を“忍者”というユニークなキャラクターを使って発信したからではないでしょうか。音楽も1960年代に活躍したThe Zombiesの『Nothing's Changed』を効果的に使うなど実に凝っています」

 それに比べると、23年夏クール放送の「VIVANT」にはグローバルな課題がほとんど描かれていないのが分かる。放送当時はテント、別班、警視庁公安、バルカ共和国をめぐって考察合戦が盛り上がったが、SNSには「いくら架空の国とはいえ未熟で腐敗した国家を日本の素晴らしい価値観で導きますという話、正気か?」「なんかバルカの人と日本人が対等じゃない感じも気になって」などと批判する声もあった。これではグローバルに受け入れられるのは難しい。

「忍びの家」について「The Economic Times」(3月2日電子版)は「シーズン1は最初の2週間で870万回の視聴を獲得し続編の可能性が高いことを示唆した。決まれば第2シーズンは早ければ2025年末か2026年初めに公開される可能性がある」と報じている。最終話のエピソード8は家族の物語がいきなり国際的な大事件へとエスカレートする気配を見せたが、振り上げた刀をどう収めるのか、気になるところだ。

デイリー新潮編集部