約4年間の逃避行となると、時系列の整理が必要なようだ。岡山県に存在した「西山ファーム」を巡る投資詐欺事件で、愛知県警は3月13日、国際手配されていた元副社長の山崎裕輔容疑者を詐欺容疑で逮捕した。副社長という肩書だが、実質的な経営者だったと見られている。

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 西山ファームを巡る詐欺事件の特徴は、ネットの影響力を利用した「インフルエンサーマーケティング」を装ったことと、クレジットカード決済を利用した2点だという。まずは原点に遡ってみよう。

 民間信用調査会社の調査やメディアの取材などによると、西山ファームは2004年に創業され、15年に法人化されたという。当初は「ファーム」という名称の通り、岡山県赤磐市で観光農園を運営し、モモやイチゴを栽培していた。人気も地元を中心として、それなりにあったようだ。

 それが15年夏頃から、急速に売上を伸ばすようになった。だが、これにはカラクリがあった。「果物をクレジットカードで購入すると、引き落とし直前に購入金額の1・5%から3%を上乗せした金額を戻す」という、今となっては怪しさ全開の“マルチ商法”を始めたことが要因だったのだ。担当記者が言う。

「100万円の果物をクレジットカードで購入すると、100万円を引き落とされる直前に101万5000円とか103万円に増えて戻ってくるという触れ込みだったわけです。これだけなら信じる人は少なかったかもしれません。それが多数の被害者が出る事態に発展したのは、インフルエンサーマーケティングを装ったことと、クレジットカードさえ持っていれば、初期費用ゼロで参加できるという敷居の低さが原因でした」

明るみに出た被害

 対象商品は果物だけでなく、美容液、健康食品、サプリメントなどが加わり、「香港など海外に転売するので利益が得られる」といった虚偽の説明がなされた。また被害者の数が増えるにつれ、投資による利益は「購入額の1・5%から3%を上乗せして戻す」から、「ポイントやマイルが稼げる」に変わった。

 被害者は商品をクレジットカード決済で大量購入。商品が手元に届くことはなく、提供された商品写真などをInstagramに投稿すると、まず購入額の3割が“インフルエンサーマーケティング”の報酬として戻される。さらに商品は元値の7割で買い戻されることになっていた。

 これだけでは、いわゆる“行って来い”に過ぎない。だがクレジットカードで大量購入するので、ポイントやマイルが大量に付与されるというのが詐欺師の甘言だった。架空の投資話は20代から30代を中心に口コミで拡がり、被害者が増加していった。

 ところが18年11月頃から、被害者への支払いが滞るようになる。さらに19年2月に架空取引を疑った信販会社がカードの利用を停止したことで問題が一気に明るみに出た。消費者窓口や弁護士に相談が寄せられ、国民生活センターが注意を呼びかけた。また一部の被害者は返金を求めて西山ファームに民事訴訟を起こした。

広告塔だった紗栄子

 こうした中、週刊新潮がスクープ記事を放った。2019年の5月23日号に「『紗栄子』が桃農園『マルチ詐欺』の広告塔で払う代償」との記事を掲載したのだ。

 週刊新潮の取材で明らかになったのは、タイトルに書かれているように、モデルの紗栄子が西山ファームの広告塔を務めていたことだった。さらに山崎容疑者の知人だけでなく、本人取材にも成功した。

 まずは紗栄子の釈明からお伝えしよう。彼女は西山ファームの公式サイトに登場していた。以下に記事を引用する。

《「桃狩りのお客様」とのタイトルで、〈先日、紗栄子さんが西山ファームに来てくれました!! とってもキレイで素敵な方でした(^^)〉とある。桃の横で、ランウェイやファッション雑誌で見せる笑みを浮かべた有名モデル。2017年、岡山の大型農園「西山ファーム」のHPである》

《その翌夏、彼女のインスタグラムには、〈今年も西山ファームへ桃狩りへ〉(原文ママ)との文字とともに載せられた農園の写真。ほかにも、彼女がこの農園で楽しむ記述がいくつもある》

「詐欺的な行為など行っていません」

 週刊新潮が紗栄子の所属事務所に取材を申し込むと、以下のような説明だった。

《「仕事として西山ファームの広告に携わっていたのは事実です。ご理解いただきたいのは、西山ファームが詐欺的な行為をしていることを、我々はまったく知らなかったということ。知っていたら仕事をお受けすることはありませんでした」》

 次に山崎容疑者についてだが、週刊新潮はまず、もともと西山ファームを経営していた男性から話を聞いた。

《「(山崎容疑者は)半年ほど前に離婚した妻の連れ子。だから、血のつながっていない息子です。本当に大迷惑しとるんよ。あいつは名古屋で宝石を売ったりしてブラブラしとった。3年前に農園の仕事をやらせてみたら、いらんことしよってからに」》

 そしてご本人への取材だが、いかにも詐欺師らしく、詐欺という指摘は全く認めなかった。無実、潔白なのだと堂々と主張したのだ。開いた口がふさがらないとはこのことだろう。

《「私は詐欺的な行為など行っていません。新旧のスキームの顧客は1500人ほどいますが、現在、ほとんどの方と和解しています。西山ファームに迷惑をかけたことについては、責任を感じています」》

自転車操業が常態化

 愛知県警の捜査などによると、最終的な被害者の数は900人を超える。約133億円を集めたことが判明しており、得た金を配当に回す自転車操業が常態化していた。

「結局、配当は滞り、大半は返金されないままでした。週刊新潮の記事が出た約5か月後、西山ファームは19年10月に破産手続きに入りました。愛知県警は21年10月に元幹部など5人を詐欺容疑で逮捕しましたが、この中に山崎容疑者は含まれていませんでした。彼は20年2月に香港へ出国し、行方をくらませていたのです」

 共同通信の記事によると、山崎容疑者はその後、タイ、アラブ首長国連邦、ブルガリア、トルコを経て21年4月、空路でインドネシアに入国。「フクダ」の偽名を使い首都ジャカルタで暮らしていたという(註)。

「外務省は22年の2月、山崎容疑者のパスポートを失効させました。そのため、以後は不法滞在となりました。インドネシア当局によると、1月31日にマレーシアの国境付近で『密航者がいる』との通報があり、マレーシアに向かうボートを海上で警察が発見し、山崎容疑者を拘束しました。警察の聞き取りに『ハタナカ・ハジメ』という偽名を名乗ったそうです」(同・記者)

註:「西山ファーム」元幹部を拘束 出国4年、潜伏先インドネシアで(共同通信・2月21日)

デイリー新潮編集部