源頼朝ゆかりの古都鎌倉を代表する神社、鶴岡八幡宮が神社本庁から離脱する。トップが当代の宮司になって以降、ゴタゴタが絶えないようだが、神聖なはずの社殿の内部でいったい何が起きているのか。

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 鶴岡八幡宮は1180年、源頼朝が今の地に遷(うつ)した。正月三が日にはおよそ250万人もの参拝者数を誇る、全国屈指の著名な神社である。

 神社本庁に内容証明郵便で離脱の旨を送付したのは今月5日のことだった。翌6日と7日、当代の吉田茂穂宮司(81)が境内の直会殿に職員を集め、このたびの経緯について話をしたというのだが……。

「吉田は神社本庁から難癖をつけられたと主張していたようです。しかし、その具体例がなく、話しぶりはまるで被害妄想にとらわれていたようだったと。離脱の理由についても具体的な説明がなく、職員たちは皆、唖然としたそうです」(鶴岡八幡宮の関係者)

大量の退職者が

 現在、神社側は報道機関に対しても離脱の理由を「申し上げられない」と回答している。なぜ、このような不可思議な状況が訪れてしまったのか。

 國學院大を卒業して鶴岡八幡宮に奉職した吉田氏が1997年、先代から後継指名を受けて宮司の座について以降、神社は歯車が狂っていったという。

「吉田が就任してからだんだんと職員が辞めていったのですが、特に近年、その数が甚だしくなってきました。例えば2015年には神職が37名で巫女(みこ)が43名いたのに、これが今年の初め頃には、神職が25名で巫女が22名まで減ってしまった。さらに、この春には神職が8名、巫女が10名ほど辞めていくと」(先の関係者)

 退職者が止まらない理由は吉田宮司が恣意的に神社を運営してきたからだとか。

 さる元職員によれば、

「吉田は事務のIT化などのさまざまな改革を推し進めましたが、強引かつ計画性に乏しく、年を追うごとに職員の負担が増えていきました。その例を挙げればキリがないのですが、中でも大変なのは結婚式でした」

「休みが取れなくなった」

 以前は境内の「本宮」で行っていたのを02年から「舞殿」に移し、利益が上がる事業として力を入れていったそうだが、

「1日あたりの結婚式の数が大幅に増え、会場で生演奏を行うなど手間もかかるようになり、他の仕事をする時間が削られ、休みが取れなくなってしまいました。しかし、神職は残業や休日出勤をしても手当がつかない。神職以外の職員には手当がつくとはいえ、申請をしにくい雰囲気があります。結果、疲弊した職員が退職し、さらに仕事量が増えてしまう悪循環を繰り返していきました」(同)

 もはや神職は休みが取れないだけでなく、当直と呼ばれる泊まり勤務の日数まで増え、むごたらしい労働環境に置かれている。

告げ口して叱らせる

 また、ある女性の存在も、職員の働く意欲をそいでいったようだ。

「その女性はおよそ50歳。08年に境内のカフェ『茶寮 風の杜』のコンサルタントとしてやってきました。ほどなくして他の職員と折り合いが悪くなり神社を去っていきましたが、19年に同じく境内の『鶴岡ミュージアムカフェ&ショップ』に再びやってきた。業務はグッズのデザインなど、あくまでカフェとそこに併設する土産物屋のコンサルタントに過ぎず、神社の職員ではありません。にもかかわらず、吉田との親密な関係をかさに神社の運営にまで口を挟み出したのです」(同)

 本誌(「週刊新潮」)は21年7月15日号でこの女性について吉田宮司に聞いたところ、月に70万円の報酬を支払っていることを認めた旨を報じている。

 この女性を知る人物は、

「彼女は自分が気に入らない人物を吉田に告げ口して叱らせる、と神社の中ではもっぱらの評判です。最近はついに人事にまで介入し始め、辞めようとする職員の慰留面談まで担当しているとのことです」

気に入らない職員をつるし上げ、冷遇

 これまで、吉田宮司は周囲をイエスマンで固め、中央集権的な体制を強化し続けてきた。

「吉田は新年の報告会のたびに自身が気に入らない職員をつるし上げ、その後、冷遇することを重ねてきました。独裁的に振る舞ってきたのです。今回の離脱についても、突然、事後的に知らされたので職員たちは戸惑っています。特に神職にとっては、働いている神社が神社本庁から離脱した場合、ここでの“神職歴”が抹消されてしまい、キャリア形成における大きな損失を被る可能性が高い。離脱について事前に何の相談もないなんてあってはならない」(前出の鶴岡八幡宮の関係者)

 離脱の理由について吉田宮司を直撃すると、

「手続きが終わってから皆さんにお話しします」

 その他の問題に関しては、

「分かりません」

「お話しできません」

 と、繰り返すのみ。

 民の声は神の声――。周囲の意見に耳を傾けなければ、権威は失墜していくばかりであろう。

「週刊新潮」2024年3月28日号 掲載