ついに審議入りした「共同親権」法案。その折も折、元子役スターの間下このみ(45)が離婚訴訟の最中であることが分かった。ノンフィクション作家の西牟田靖氏がこの係争を取材。家族に関わる法の問題点を探った。

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 今国会で審議される法案の中でも目玉といえるのが、離婚後の共同親権導入を柱とした民法改正案だ。

 現行の民法では、離婚後、子どもの親権は父母のいずれか一方しか持てない。これを単独親権と呼ぶが、それを両親が持つこと(=共同親権)を可能にする法案である。

 改正の動きが出てきた理由のひとつは、夫婦間の離婚を巡るトラブルで連れ去りや片親疎外(子どもが別居親との交流を拒絶すること)の例が増え、社会問題化しているからだ。

 別居の際、もう一方の親の同意なく子どもを連れて出て囲い込む。引き離された側の親が子どもと面会交流(親子交流)を行っている割合は約3割のみ。会えたとしても月1回2時間が相場。別居親の不満は大きく、他国なみの原則共同親権を求める声が年々大きくなってきたのである。

 筆者はこれらの例を数多く取材してきた。子煩悩な親が精神的に苦しんだり、片方の親と離された子どもが生きづらさを抱えてしまったり。そうしたケースをいくつも目の当たりにした。

 悲惨なケースは他人事だと決め込むのは早計だ。

 今や3組に1組以上が離婚する時代。子や夫婦はもちろん、祖父母などの人生をも大きく左右する深刻な問題なのだ。

「暴力を振るい…」

 今回、その典型例として以下のケースを紹介する。「ガンバレ玄さん」のCMやドラマ「スクール☆ウォーズ」に出演するなど、80年代の国民的子役スターで、現在は女優・写真家として活躍している間下このみさんが抱える離婚トラブルである。彼女は現在、離婚係争中なのだ。

 2015年4月、このみさんは一人娘を連れて、夫の同意なく別居を開始した。21年には離婚と親権を求め、千葉家裁に夫を提訴。23年、東京高裁へと審議の場が移っている。これまでの判決ではいずれも離婚が認められ、長女の親権者はこのみさんという判断がなされてきた。その一方、高裁判決ではこのみさんによる夫や長女への暴力が認定された。

 現在、裁判は夫により最高裁へ上告されている。

 このみさんが結婚したのは04年。お相手は11歳年上の一般男性である。06年5月には死産を経験。3カ月後の8月に再び妊娠、07年3月に長女を出産した。胎盤の血管が詰まりやすくなり、死産や流産を繰り返す難病「抗リン脂質抗体症候群」を二人で乗り越えての出産だった。

 難病と闘った夫婦の記録は共著として書籍化され、さらにはNHKでドラマ化もされた。

 出産までの二人の関係を記したものに目を通すと、絆の強さに胸を打たれる。

「事実もないのに『浮気野郎』と連呼され…」

 ところがだ。それから17年、夫婦の関係は一変し、現在は、離婚と親権について裁判で争っている。おしどり夫婦というイメージが強かった二人の間にいったい何があったのか。

 夫が口を開いた。

「このみは子役として活躍したとは思えないぐらい自己肯定感が低いんです。夜中、壁にガンガン頭を打ちつけながら『私なんかいなくなればいい』などと大声で叫び続けることがしばしばでした。08年ごろには、乳幼児だった娘を激しく揺さぶりながら怒鳴りつけたり、大声で怒り出して寝室に閉じこもったり。私が痩せただけで浮気したと決めつけられ、事実もないのに子どもの面前で『浮気野郎』と連呼され、激しくたたいたり、蹴ったりを繰り返されました」

 感情を抑えきれないこのみさんに対し、彼は論理的に説き伏せることが常だったという。時に長女にも手を出してしまうこのみさんに、夫は一計を案じたことも。

「娘に向かっていた暴力をやめさせ、自分に向かわせるため、私、娘に言ったんです。“ママの前でパパを嫌いと言っていいよ”って。すると娘は“パパごめんね”“私のこと、嫌いにならないでね”と言ってくれました」

婚姻費用として1500万円以上支払ってきたのに…

 こうした父娘の関係は、15年4月、このみさんの実父が緊急入院したことがきっかけで壊れてしまう。近くにある実家にこのみさんが戻った際、「実母が一人で心配だから」という理由で長女も連れて行った。そして実父の退院後、二人が帰宅することはなかった。

 夫はこれまでに、婚姻費用(母子の生活費用)として毎月多額の金銭を支払っており、その合計は既に1500万円を超えている。

 にもかかわらず、彼が長女と会えるのは月1回1時間。職員が常駐するFPIC(公益社団法人家庭問題情報センター)の施設内での交流に限定されている。

「別居前、ディズニーランドの年間パスポートを買って、よく出かけていました。また長女と一緒にコンサートに行くこともありました。現状はFPICの中だけなので、そうした特別な経験を一緒に楽しむことができないんです」

このみさんによる精神的・肉体的暴力が認められたが…

 昨年10月に下された高裁判決には以下の文章が記された。

「被控訴人(このみさん)は、婚姻の前後から精神的に不安定な言動が見受けられ、長女の出生後、乳幼児である長女を怒鳴り付けたり、控訴人(夫)を罵(ののし)ったりして、両者の間では、子の養育その他日常の些細な事柄にも端を発して、諍いや夫婦喧嘩が少なからず生じていた」

 またこうも記されている。

「被控訴人(このみさん)は、控訴人(夫)との諍い等の際に、長女の面前でも、控訴人を罵り、控訴人に対し暴力を振るい、また、長女に対しても、感情的な物言いや、厳しい叱責を浴びせ、手を上げたりもしていたことが認められる」

 夫が主張する、このみさんによる精神的・肉体的暴力が認定されたのだ。にもかかわらず高裁は離婚を認容し、長女の親権はこのみさんにあると認めた。

「(夫はこのみさんの)性格等を理解した上で婚姻し、そのような諍い等が生じても、被控訴人(このみさん)をなだめその怒りの感情を受け止める意図で婚姻生活を継続していたが、被控訴人としては、口論の際に控訴人(夫)から理詰めの物言いをされたり控訴人に言い負かされたりすることが続くと、控訴人から馬鹿にされているように感じ、自身の気持ちを汲んだ対応がされているとは感じなかったため、控訴人に対する不信や不満の感情が鬱積(うっせき)していった」

 その上で、現在、長女が母との同居を望んでいることに鑑みて、大要、

「長女や控訴人(夫)への暴力はあったものの、別居後の被控訴人(このみさん)の長女の監護状況について特段の問題はうかがわれない。そのため、今後引き続き被控訴人による親権監護に委ねることが長女の福祉にかなう」

 と結論付けた。

「子どもを引き離したもの勝ちなのでしょうか」

 つまり、このみさんの性格を知りながら暮らしてきたのだから、論破するなどの対応は不適切だった。このみさんが夫や長女に暴力を振るった過去があっても、現在の監護には問題がない。だから親権を夫に認めることはしないというのだ。

 夫にも批判されるべき面はあるのかもしれない。

 しかしだ。暴力の被害者だった夫が子どもと引き離された。その上、既に1500万円を超える高額な婚姻費用負担を強いられ、長女と会うのはFPICでの月1回1時間のみ。もちろん親権は認められない。まさに気の毒としか言いようがない。

 家裁、高裁を通じて両者の尋問は行われなかった。夫は裁判官にこう言われたという。

「芸能人の尋問をすればマスコミが来ます。今回の件は影響が大きすぎる」

 夫は振り返って言う。

「やはり日本の法律の下では子どもを引き離したもの勝ちなのでしょうか」

 このみさんにも取材を申し込んだが、回答はなかった。

皆が幸せとなる枠組みを

 共同親権導入の民法改正手続きが進む中、それに懸念を示す動きも見られる。

「#STOP共同親権」と銘打ったオンライン署名が支持を集めたり、慎重派の国会議員が勉強会を開いたりしている。

 だが考えてもみてほしい。このみさんの夫のように、暴力の被害者である親が親権を奪われるという現状もあるのだ。

 3月14日、衆議院で審議が始まった民法改正案の要綱には「(離婚後も父母は)子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない」という新しい条文が設けられている。この条文にある通り、二人が子の利益を考えた協力ができていたら、前述のケースにおいてもまた違った親子の形が築けたのではないだろうか。

 無用な争いを避け、両親や子ども、皆が幸せとなる枠組み、その元となる法律を国は制定するべきだ。そのためにも国民的論議が必要だと強く思う。

西牟田 靖(にしむたやすし)
ノンフィクション作家。1970年大阪府生まれ。日本の国境、共同親権などのテーマを取材する。著書に『僕の見た「大日本帝国」』、『わが子に会えない』、『子どもを連れて、逃げました。』など。

「週刊新潮」2024年3月28日号 掲載