ようやくパワハラを認め謝罪

 宝塚歌劇団・宙(そら)組娘役のAさんが、昨年9月に25歳の若さで自ら命を絶ってから半年。この間、宝塚歌劇団はかたくなに上級生らのパワハラを否定してきたが、先ごろ遺族側との“合意”に至り、問題は幕引きとなったかに見えた。しかし、内部では生徒から悲痛な訴えが続出していたのだ。【前後編の前編】

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 宝塚歌劇団のパワハラ問題に関して、先月末から今月頭にかけて大きな動きがあった。

 まず宝塚側が3月28日、大阪市内のホテルで緊急記者会見を開催。劇団の親会社にあたる阪急阪神ホールディングスの角(すみ)和夫会長(74)がその日の午前中にAさんの遺族側と面会し、直接謝罪するとともに、合意書を結んだことを公表したのである。

 社会部デスクが言う。

「村上浩爾(こうじ)専務理事(現・理事長)は、昨年11月の会見ではパワハラについて、“確認できなかった”と主張していました。ですが今回、宝塚側はそのパワハラに関して、14項目にわたり認める合意書を遺族側と締結。宙組の上級生がヘアアイロンでAさんの髪を巻こうとして、その額に痕が残るほどのやけどを負わせた挙句、謝罪しなかったことなどを、パワハラだったと認めました」

 同日、遺族側代理人を務める川人(かわひと)博弁護士も都内で会見を開き、

「宝塚側がパワハラの加害者と認定した10名のうち、宙組の幹部上級生2名を含む合計6名の謝罪文を遺族に提出したと明らかにしたのです」(同)

パワハラの主導者とみられる団員は退団せず

 この会見から3日後、宝塚の関係者やヅカファンたちにさらなる衝撃が走る。

 31日付で宙組の生徒2名の退団が発表されたのだ。

「一人は彩妃花(あやひはな)で、自殺したAさんとは同期の103期で娘役。また、もう一人もやはり娘役の葉咲(はさき)うららで、こちらは106期でした。二人が電撃退団した理由ですが、パワハラの主導者とみられるBが宙組に残ったからと劇団内ではささやかれています。うちの娘も、“私が宙組だったら絶対に辞めている”と言っていますから」(現役劇団員の親)

 つまり宝塚は遺族側と合意し、騒動の幕引きを図ったかに見えたが、根本的な問題は解決していなかったということになる。実際、宝塚も生徒たちの動揺を見て取ったのか4月1日、内部で説明会を実施しているのだが、劇団関係者によると、

「説明会は、まず宙組だけを対象に午前10時から開催されました。その後、午前11時から、宙組以外の組とスタッフを対象にした説明会も開かれた。時間は質疑応答も含めれば、それぞれ1時間ほど。冒頭、生徒の体調悪化に備えて、ナースが待機している旨が生徒らに告げられました」

 そう打ち明けるのだ。

「正直、公演再開が怖い」

 以下は、複数の説明会参加者の証言などをもとに、当日の様子を再現したものである。

村上理事長 まず昨年9月に大変悲しい事件が起こったことに関して、謹んで哀悼の意を表したい。遺族の方々には心からおわびを申し上げます。また、皆さんにも半年間、不安な状況の中でもしっかりとレッスンに励んでいただいて、心から感謝をしております。

〈村上理事長はあいさつに続いて、公演スケジュールが過密になった結果、劇団員の負担が増したことなどに関して謝罪。さらに、劇団員とコミュニケーションを図る機会を増やしていくと決意を語ったのだった。理事長の説明は約20分間に及んだが、基本的には前向きな話に終始した。しかし、生徒との質疑応答に移った途端、窮地に追いやられていく。〉

生徒C (Aさんの自殺から)半年間も時間が空いた。昨年11月の会見で理事長が「(パワハラの)証拠となるものをお見せいただきたい」と言ったから、ご遺族と合意を結ぶまでに時間がかかったのではないか。生徒もほったらかしの状態です。同じ宙組の生徒のことなのに、ご遺族との話し合いの内容すら教えていただけないのですか。

理事長 本当に申し訳ない。ただ、合意するにあたって、ご遺族と約束をしているので、私からはどうしてもこれ以上のことをお伝えできない。なんとか理解をしてほしいと思います。

生徒C 正直、公演再開が怖いです。劇団は“発表を待ってください”と言うばかりで、これからどう過ごしていったらいいのかわからない。(彩妃など)辞めていった生徒は、こうした状況に耐えられなくて辞めていきました。これからはみんなをもっと、守っていってほしいです。

 後編では、「みんなでAさんを死に追いやってしまった気がする」「(Aさんが亡くなってから)すべての時が止まってしまった」など生徒たちから噴出した悲痛な叫びや、パワハラを主導したとされる生徒が説明会の間に見せた驚きの態度ついて詳報している。

「週刊新潮」2024年4月18日号 掲載