「みんなでAさんを死に追いやってしまった気がして…」

 宝塚歌劇団・宙(そら)組娘役のAさんが、昨年9月に25歳の若さで自ら命を絶ってから半年。この間、宝塚歌劇団はかたくなに上級生らのパワハラを否定してきたが、先ごろ遺族側との“合意”に至り、問題は幕引きとなったかに見えた。しかし、内部では生徒から悲痛な訴えが続出していたのだ。【前後編の後編】

 ***

〈4月1日に実施された宝塚内部の説明会で、悲鳴にも似た涙ながらの訴えが続出する。〉

生徒D 公演をしたい、舞台に立ちたいという気持ちはあります。でも、その前に宙組としてどうするのか、話をするのがすごく怖い。でも、怖いからといって、逃げるわけにはいきません。話し合う場を、劇団に設けていただきたいと思っています。

生徒E 私はAさんの下級生ですが、彼女のそばにずっといました。だから、ご遺族の方には謝りたい。上級生だけではなく、下級生の中にも謝りたいという気持ちはあると思う。Aさんと一緒に舞台を作ってきた仲間として……(おえつ)。みんなでAさんを死に追いやってしまった気がして……(再び、おえつ)。亡くなった方は二度と戻ってはこないけど、せめてご遺族に真摯に向き合って、自分たちの気持ちを伝えていきたい。

生徒F 私も話し合いをすべきだとは思っていますが、(自殺から)半年がたっているのに(理事長が)“どうやって話し合えばいいのか、もう一回考えてみます”と(今さら)言うのはあまりにも信じられない。全員に聞くのは無理だと言いますが、いつまでそんな言い訳を言っているのかと思う。本当に、取り返しのつかないことをしてしまった。私もご遺族には謝りたいという気持ちがある。

「すべての時が止まってしまった」

〈生徒たちの人生を懸けた必死の訴えである。対する村上浩爾(こうじ)理事長は、こう釈明するばかりだった。〉

理事長 昨年、個別にプロデューサーと面談してもらった際にも、皆さんからは意見はもらっています。一人一人で問題の受け止め方は異なるし、状況も違うと理解はした。少なくとも、こういう集会の場で全員に話を聞くのは難しいと思っています。

〈無論、この理事長の弁明に生徒たちが納得することはなかった。〉

生徒G 例えば今この場で、大勢でお話ししたい生徒と、少人数でお話ししたい生徒に分けてみたらいいのでは。もう、無駄な時間は過ごしたくない。怖がって動かなければ、一切なにも変わらない。考えます、と言うだけではなくて、具体的に行動してほしい。

〈劇団の無策に、生徒たちが強いフラストレーションを感じてきたことがうかがえる。一気に不満が噴出したのも、至極当然だろう。〉

生徒H (Aさんが亡くなってから)すべての時が止まってしまった。自分でなすべきことを考えて、頑張っている生徒たちはいっぱいいるのに。劇団はあれから私たちの時が止まったままだというのを理解してほしい。意見を聞くことはとても大切だと思いますが、一方で、私たちの時間は限られている。(舞台再開に向けて)焦ってほしいです。お願いします。

生徒I 劇団はカウンセリング室を作ってくれましたが、もっと生徒のメンタル面のケアはしてほしい。これまで、あまりにも個人に任せ過ぎだったのではないか。みんな今、メンタルが不健康な感じだと思う。

渦中の生徒は“氷の微笑”

 このようにおえつ、悲憤、号泣で悲愴感に包まれた説明会となったのであるが、なかでもひと際、参加者の目を引く人物がいた。

 劇団関係者が声をひそめて言う。

「(パワハラの主導者とみられる)渦中のBさんは質疑応答の間、涙ながらに話をする生徒の方に一度も目を向けることなく、何も言わずにただ微笑を浮かべて、前をじっと見据えていました。それはまさに、“氷の微笑”という感じで、異様というほかありませんでした」

 この不気味な冷笑は何を意味するのか。Bは長らく謝罪する気など毛頭ないという態度を崩してこなかった。今回、遺族に対しては「謝罪の手紙を提出した」(同)というが、それは心からの贖罪に基づくものだったのだろうか。

「説明会の最後、組長の松風輝(まつかぜあきら)から“みんなにいろんな思いをさせてしまったのは申し訳なく思っている”などと言葉があったものの、上級生からの反省の言葉はそれだけ。理事長以下、劇団がきちんと問題に向き合っているとは到底いえません」(同)

 Aさんの母親は宝塚との合意締結を受けて、「訴え」と題する文面を公表した。以下はその一部である。

〈娘は決して弱かったわけでも、我慢が足りなかったわけでもありません。過酷な労働環境と、酷いパワハラの中でも、全力で、笑顔で舞台に立っていました。(中略)娘に会いたい、生きていてほしかったです〉

 依然、宙組の全公演は中止されたままだ。村上理事長は「今後、一定の時期をみて、(宙組公演の)予定については発表したい」としているが、説明会でのBの姿を目の当たりにした下級生たちの慄(おのの)きたるやいかばかりか。公演が再開できるとは考え難いのだ。

 前編では、生徒から遺族との話し合い内容について聞かれても「これ以上のことをお伝えできない」などの回答に終始した劇団側の対応などについて報じている。

「週刊新潮」2024年4月18日号 掲載