円相場が荒れている。一時は、1ドル=160円を突破。円安には歯止めがかからぬものと思われた。しかし、その後は1ドル=151円台まで急伸。日本の通貨当局による「覆面介入」が指摘される中、「新ミスター円」の一挙手一投足に注目が集まっている。

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 日銀は今年3月にマイナス金利を解除したものの、金融緩和策を維持。直近でも日本10年国債は0.8%〜0.9%という低金利で推移している。一方、米国の利回りは4%台。日米間の金利差ゆえに、円安傾向が続いていたのだが、

「ここ最近の円の下落は、あまりに急なものでした」

 とは経済部デスク。

「きっかけは4月26日に日銀の植田和男総裁が金融政策決定会合の記者会見で“基調的な物価上昇率に円安が今のところ大きな影響を与えているということではない”と発言したことです。市場は日銀が円安を容認したと受け止め、29日には、一時1ドル=160円まで急落したのです」

 続けて言うには、

「29日は祝日であり、市場関係者の多くが為替介入は行われないと高をくくっていました。ですが、政府・日銀はその裏をかいて5兆円規模の為替介入を実施し、円は154円台まで急騰。その後158円に迫る場面もあったのですが、5月2日、政府・日銀は再び覆面で介入して円を一気に4円ほど上昇させました。2回の介入規模は、総額で9兆円を下りません」

「高校生でマルクスを読んでいると話題に」

 電撃的な介入を主導したのは、財務省の神田眞人財務官(59)である。兵庫県の名門私立、灘中・高から東大法学部を経て1987年に大蔵省に入省。89年に英・オックスフォード大に留学し、経済学修士号を取得している。これまでに国際局長などを歴任し、2021年7月から現在の要職にある。

 神田氏はその飛び抜けて明晰な頭脳と、特異なキャラから財務省内で「宇宙人」と評されているという。

 灘中・高のさる同級生は氏について、

「成績は常にトップレベル。彼は文系のクラスでしたが、東大理三にも進学できる実力がありました。自分は東大の理系に進学したのですが、彼とはよく宇宙をテーマに、ブラックホールの性質などについて雑談をしていました」

 そう振り返る。一方、別の同級生も、

「昼休みにいつも難しそうな本を読んでいたのを覚えています。それこそ、高校生でマルクスを読んでいるとうわさになっていたくらい。あの頃から経済には興味があったんでしょうね」

 と、氏がいかに教養を培ってきたのかを証言する。

数千冊を読破

 その勉強家ぶりは本人が19年前、財務省のHPに掲載した以下の入省勧誘の文言からもうかがえよう。

〈国家危急の折には一緒に徹夜してもらうが、そうでない時には、大いに自分の趣味を楽しむとともに、仕事を離れて幅広く勉強し、鋭気を養って欲しい。(中略)私も入省以来、60カ国以上旅行できているし、数千冊を読む時間があったし、今も毎週テニスで汗を流す等、スポーツ、芸術に充実した暮らしを両立させている〉

 財務省の激務をこなしながら、数千冊を読破とはまさに「宇宙人」的である。

舛添前東京都知事も「彼は相当優秀」

 東大時代に氏が師事した国際政治学者の舛添要一前東京都知事(75)は、

「私のゼミは1週間に1冊、学生に本を読ませて勉強会をやっていましたから、厳しかったことは確か。ダメな奴は脱落するわけで、その点、彼は相当優秀です。元来はひょうきんな性格のようですから、為替介入についてノーコメントを貫かなきゃならない今の立場は、少々、苦しいかもしれませんね。健康に留意しながら、頑張ってほしいです」

 とエールを送る。

「ゆくゆくは、日銀総裁の椅子も狙える」(経済部デスク)とも評される「新ミスター円」。世界の投資機関と渡り合い、円を守り切ることができるだろうか。

「週刊新潮」2024年5月16日号 掲載