額面だけをみれば確実にお得だが……

 円安の時代、海外旅行の強い味方がLCCである。移動中の快適さを求めない人であれば、一般的な航空会社の運賃との間に発生する差額を、現地での充実した食事や宿泊に充てると判断することもあるだろう。

 筆者は今年4月末から5月初頭までタイ・バンコクとラオス・ルアンパバーンへ友人夫妻と一緒に行ってきた。旅の最中は彼らと航空談義に花が咲いたが、LCCについては二人とも一家言あるようだ。そこで、「LCCで注意すべき点」について彼らの発言と私の実感を報告する。

 そもそもどれぐらい安いのかといえば、5月22日(水)に成田空港出発で、27日(月)にバンコク発という往復便をHISのサイトで見てみた。航空運賃はJALが11万3640円で、タイ国際航空が10万3620円。一方、LCCのベトジェットエアは5万9470円、タイ・エアアジアXが6万2280円となっている。

 額面だけを見れば、LCCは約半額と間違いなくお得である。しかし、それだけで喜んではならない。色々とその後に面倒なことがあるのである。

 たとえば、預け入れ荷物があれば、LCC利用者の場合は40ドルの追加料金が必要だ。預け入れ荷物は20kgまで、手荷物は7kgまでの制限があり、それを超えると追加料金がかかる。筆者も以前、手荷物が7kgを超えたことがあったが、その時はジャケットやジーンズのポケットにPCのアダプターやら携帯型ゲーム機などを入れて、なんとか7kg以下にしたこともある。とはいっても「7kg台ならばOK」といった緩い判断をする担当者もいる。

初めての時はヤバかった

 また、荷物の預け入れをするには事前にネットで申請をしておく必要があるのだが、実は今回、ルアンパバーンからバンコクに戻る際、事前申請を忘れてしまった。すると、荷物一つあたり66ドルをその場で支払う必要があった。1ドル=155円で計算すると1万230円である。

 ちなみに、友人夫妻は別財布で、夫がLCCを好きな一方、妻は普通のエアラインが好き。しかも妻はマイレージでビジネスクラスにアップグレードをしたりもする。そんな対照的な夫婦だが、夫は頻繁に海外へLCCで旅行する。彼によると、LCCで最大の困ったことは、同じ国内の乗り継ぎであっても一度入国手続きをしたうえで、外に出ないといけないということだ。

「今はそういうものだって分かってるからいいけど、初めての時はヤバかったよ! 普通、同じ国であれば、そのまま乗り継げると思うじゃない。荷物だって自動的に乗り継ぎ便に移されていると思う。でも、違うんだよ、コレが!」(夫)

 通常、国際空港の通路は「到着口」「乗り継ぎ」に途中で分かれ、乗り継ぎたい人はそちらへ行き、所定の搭乗口へ向かえばいい。しかし、LCCの場合、大半はここで一旦入国手続きをしなくてはならないのだ。そして、預け入れ荷物があった場合は、入国手続き後、あの回転寿司のようなベルトがグルグル回るレーンまで行き、荷物を回収しなくてはならない。回収したところで今度は航空会社のカウンターに行き、再度、預け入れ手続きをしなくてはならない。

搭乗前にもトラップが

 そこから再び手荷物検査と出国手続きをし、乗り継ぎ便の搭乗口にようやく行けることになるのだ。通常のエアラインと比べるととんでもなく手間と時間がかかる。さらに、夫が言うのは精神的な悪影響だ。

「初めて訪れる空港だとテンパるんだよね。何しろどこに何があるか分からないから迷うし、入国手続きと出国手続きで大行列があると、乗り継ぎ便に間に合わないのでは、とドキドキしてしまう。乗り継ぐ場合はいっそのこと翌日にしてしまうってのも手かもしれない」

 となると、タクシーの往復移動代とホテル代が一泊分かかるわけで、こうなると安いんだか高いんだかよく分からなくなる。

 さて、彼の妻がなぜLCCがイヤなのかというと、「とにかく席が狭いから」だという。LCCは「3席×2」の場合が多いが、通常の航空機のジャンボ便の場合は「3・4・3」で、席の幅はLCCよりも広い。

 それでも、一度くらいは乗っても良いかな、と最前列の脚を伸ばせる席に夫と一緒にアップグレードしてみた。この時は「フットレスト(脚置き)」を準備していたのだが、これは前列の席の背についたテーブルにひっかけるもの。だが、なまじっか広い席にしてしまったため、ひっかける場所がなく、使うことができなかった。脚がキツいため、シートベルトサインが消えた後、妻は床に座って椅子に腕と顔を乗せて寝たのだという。

とにかく寒い機内

 さらに、飛行機に乗る前もトラップがある。何しろ突然、搭乗口が変わってしまうことがあるのだ。待合室で会話に没頭していたら周囲の人々が一斉に立ち上がり動き始める。一瞬、何があったか分からない状態に陥るが、ガラリとなった待合室に「〇〇便は13番搭乗口から6番搭乗口に変更になりました」なんてアナウンスが鳴り響く。そして、新しい搭乗口は直接タラップ経由で飛行機に乗れるわけではなく、5分ほどバスに乗って飛行機まで行くことになったりもする。

 最後に私の話になるが、とにかくエアアジア機内は寒かった! 上は長袖シャツとジャケットを着ていたが、下は短パン。乾燥した客室内も相まって約5時間後、福岡空港に着いた時はすっかり喉をやられていた。1500円を払ってブランケット・ネックピロー・アイマスクのセットを買っておくのだった……と後悔したのである。

 このようにLCCの旅はサービスを削ぎ落とし、多少の不便に甘んじる客を対象に安く移動手段を提供しているわけだ。だから「サービスが悪い!」などとネットのクチコミサイトに書いたりするのはいかがなものか、とも思う。客は割り切って利用すべきタイプの航空会社なのである。定時に運行し、追加料金が取られなかったら大満足、といったぐらいの期待値で丁度良い。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部