“セレブ”だけの世界ではなくなったとはいえ、情報があまり出回らず、ブラックボックス化している「小学校受験」。実際に学校側は、子どもや保護者のどこを見て、どう評価しているのか。元私立小学校の教員が内情を明かす。

 ***

 首都圏の小学校受験人気は、ここ数年で上昇傾向にあった。公立小学校の教育環境に不安を感じたり、中学受験の競争を避けるためという理由で受験者が増えていたのである。直近、24年度入学の入試では受験者数が減少に転じ、“過熱状態”に落ち着きが見られつつあるものの、慶應義塾幼稚舎は10.6倍、慶應義塾横浜初等部は13.2倍、早稲田実業学校初等部は8.9倍と、誰もが知る人気校は依然として高倍率になっている。

 一方、小学校受験に臨もうと考える家庭にとって大きなハードルとなるのが、受験に関する「情報の少なさ」だ。それゆえに、受験経験者の情報が集まる幼児教室への入会は必須とされ、またインターネット上では、経験者が特定の小学校の対策記事を数万円単位で販売している実情がある。学校側が入試問題や評価基準を公にしていないことが多いため、このような事情が生じているのである。

「絵が上手だから受かる」ではない

 だからこそ気になるのは、「名門校にはどんな子が受かるのか」「名門校は何を求めているのか」という“たしかな”情報だろう。東京都内の個人塾・慶楓会で講師を務める松下健太氏は、過去に私立小学校の教員として考査の作問にも携わった経験から、こう明かす。

「例えば、慶應幼稚舎をはじめとして多くの小学校で出題される『絵画制作』について考えてみます。“どこか行きたいところに持って行くものを描いてみましょう”という課題に対して、子どもがお弁当の絵を描いたとします。それの見栄えが良いから素晴らしいということにはなりません。お弁当の中にお友達と分け合えるおかずや家で自ら育てた野菜が入っているなど、生活を通じて培われる人間性豊かな価値観がその絵に反映されていることが求められます」

 絵が上手だから受かるというものではないのだ。

「絵はその子の内面が浮き彫りになるので、描画スキルより、むしろ何をどのような意図で描いているのか、人に説明できる言語能力も問われます。何を描いているのかを問われても、子どもは自分の世界観から突拍子もないことを話してしまいがち。きちんと話を組み立てて、相手に伝わるように説明できる力も重要だということです」

本質的な資質や能力

 うわべのスキルではない、本質的な力が必要だと言えそうだ。

「“絵はこういう順番で描く”“こういうことを描くと合格に近づく”といったテクニカルな話ではなく、それ以前の発想力や想像力、それらを支える具体的な生活経験が大事なんです。こうした力は普段の生活の中の家庭教育により身に付けていくものです。その意味では、学校側の“特別な対策は必要ない”という言葉は真実と言えます」

 そしてこう付け加える。

「慶應幼稚舎ではいわゆる『ペーパー試験』が受験科目にないので、よく“勉強はいらいみたいだし、うちの子はお絵描きが上手だから受かるかも”と考える方もいらっしゃるのですが、そう簡単な話ではありません。『壁を押す絵』なら、力がどのようにかかって、どういう体勢になるのかということまで考えなければなりませんし、『木に成る実の絵』という課題で、木に成るはずのないイチゴを無邪気に描いてしまってはいけない。ペーパー試験がなくとも、それだけ本質的な資質や能力が測られているのです」

 例えば願書では、「貴校の理念に共感しました」などという言葉は使ってはいけないという松下氏。有料記事「難関校合格の保護者と個人教室の先生が明かす ベールに包まれた『小学校受験』のウラ」では、このような松下氏による小学校受験対策の具体的な解説のほか、「教室選び」などのポイント、挫折を乗り越えて難関校に合格した漫画家一家のメソッドなど、ブラックボックスと化している小学校受験の実態と“勝ち筋”について詳報している。

デイリー新潮編集部