今月10日、経団連の十倉雅和会長が、選択的夫婦別姓の早期導入を求める提言を取りまとめたことを明らかにした。一見、経済活動とは関係なさそうなのだが、何が背景にあるのか。

なぜ経団連が「夫婦別姓」?

「夫婦別姓に向けた動きは1996年、法制審議会が旧姓を選択できる改正案を答申したことから活発化しましたが、当時の経団連はあまり熱心ではありませんでした。しかし、2018年、IT企業サイボウズの社長が国を憲法違反で提訴すると、経団連現副会長でディー・エヌ・エー会長の南場智子氏らが別姓を支持する声明を発表。この頃から積極的に法改正を求めるようになったのです」(経団連担当記者)

 最高裁はこの訴えを棄却。その一方で、旧姓を通称として使用することを認めるケースは増えており、国務大臣の旧姓使用やマイナンバーカードでの旧姓併記も可能になっている。

 そこで経団連に聞くと、

「私たちの調査では88%の女性役員が“旧姓の通称使用”が可能であっても何らかの不便、不都合、不利益が生じると思うと答えています。女性経営者の活躍という面からも夫婦別姓に取り組むべきだと考えているわけです」(広報担当者)

神道政治連盟は“反対”

 こうした動きは政界にも広がっており、野党や公明党も選択的夫婦別姓に向けた法改正を要求している。3月15日の参院予算委員会では日本共産党の小池晃書記局長が「経団連の十倉会長と小池が同じことを言っている。皆既日食みたいなものだ。こんなことは滅多にない」と大絶賛した。

 一方、自民党に影響力を持つ神道政治連盟は、選択的夫婦別姓に反対だ。同連盟の政策委員で麗澤大学教授の八木秀次氏が言う。

「法改正しなくても通称使用でほとんどの不都合が解消しているのが現実です。そもそも夫婦別姓とは社会主義的なイデオロギーからきている考えです。土着的な共同体を解体するためにファミリーネーム(姓)を否定する。その手段が夫婦別姓です。欧州のリベラル系のエスタブリッシュメントにはこうした考えの人が多く、企業経営者を介して日本の経済界にも伝わってきたのでしょう」

 そんなわけで“不倶戴天の敵”にも褒められてしまった十倉会長だが、最近、憲法改正にあまり言及しなくなったのは気のせいか。

「週刊新潮」2024年6月27日号 掲載