必勝のはずの島根1区は苦戦

 永田町では、4月28日に投開票される衆議院の3つの補欠選挙の結果次第では、岸田政権の命運もここまでとされている。が、その一方で、仮に補選で与党側が敗北しても岸田文雄首相が解散総選挙に打って出る可能性が取り沙汰されている。さらには、総選挙において与党で過半数割れとなっても岸田政権が延命するシナリオまで噂されているという。

「3つの補欠選挙と言っても、それぞれに事情があります。自民党は長崎3区での擁立を見送りました。東京15区では乙武洋匡氏への推薦を検討していましたが見送りを余儀なくされました。もっとも、選挙戦を支援することには変わりありませんが。与野党が対決するという意味では、島根1区のみということになりますね」

 と、政治部デスク。

「現時点で、乙武氏はあれだけの知名度を誇りつつも立憲民主党候補の後塵を拝しています。島根1区では与党候補のキャリア官僚が苦戦しており、逆境から脱することはできないだろうと見られています」(同)

6月の通常国会会期末のタイミングで

 島根1区は保守系がもともと守備をガチガチに固めている、金城湯池(きんじょうとうち)と評されるほどの選挙区なのに加え、細田博之前衆院議長の弔い選挙という面もある。

「ここで勝てなければどこで勝つの?」(自民党の閣僚経験者)とされるほどだ。

「東京15区の勝敗も大事ですが、それよりも島根1区での敗北は岸田政権の終わりの始まりを意味することは間違いありません。通常なら“岸田おろし”も起こりようがなく、自発的に首相辞任を選ぶはずなのですが、そう見ている人は永田町では少数派です」(同)

 どういうことなのだろうか。

「岸田首相はこれまで派閥解消や自らの政倫審への出席など、各方面への根回しなしに決めてサプライズを演出してきた経緯があり、今後もそのように振る舞う可能性が指摘されています。具体的には6月の通常国会会期末のタイミングでの解散です」(同)

 ジリジリと下がり続ける内閣支持率の数字を見るだけで、岸田首相で選挙を戦いたくないと考える与党議員は少なくない。友党である公明党でさえ、トップがそう思わせる発言を繰り返しているほどだ。

実績を国民に訴えて審判を仰ぎたい思考に

「岸田首相本人には選挙に関する情勢調査の内容がもたらされており、このまま選挙に打って出ても議席の大幅減は不可避との認識があるはずです。普通そういう実態を突きつけられれば自ら身を引くのですが、岸田首相はそうではない判断をする可能性があるとのこと。このまま9月の自民党総裁選を迎えれば立候補すら困難な状態に追い込まれることも自覚しており、それなら、これまでの実績を国民に訴えて審判を仰ぎたい思考になりそうだといった声も聞かれています」(同)

「聞く力」の面目躍如といったところなのだろうか。

「首相が“よし解散だ”と言ったとして、これを羽交締めにしてまで止められる側近は不在です。折り合いが悪くなった麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長の言葉も届かないでしょう」(同)

 いざ解散となれば大幅な議席減は避けられず、自公で過半数割れともなれば退陣は不可避のはずだが、それでもなお岸田氏が首相の座にこだわるシナリオも想定されているという。

中曽根康弘元首相時代の解散総選挙

 かなり古い話になるのだが、その岸田首相のシナリオについて、中曽根康弘元首相時代の解散総選挙が参考になるかもしれないのだという。

「中曽根氏と言うと1986年の衆参同日選での大勝が思い浮かぶかもしれませんが、今見るべきは1983年12月の総選挙です。田中角栄元首相がロッキード事件の1審判決で実刑判決を受けた後に行われた選挙で自民党は過半数割れしました。中曽根氏は“田中氏の政治的影響力の排除”を発表する一方、新自由クラブと連立を組んで危機を乗り切ろうとしました。今回、過半数割れとなれば、日本維新の会に連立を打診するプランが頭の体操レベルではあるようです」(同)

 維新は与党を過半数割れに追い込む目標を立てつつも、それが果たされれば連立入りも否定していない。

「仮に維新の馬場伸幸代表が“連立入りの条件は岸田首相”と打ち出せば、首相も生き残る道ができます。維新は特に関西の小選挙区で公明と激しくやり合うことになるわけですが、1つか2つの選挙区で維新が譲歩する姿勢を事前に見せていれば公明も維新の連立入りに全面否定はしにくいと見られています」(同)

岸田首相の思考は

 岸田首相にとって不幸中の幸いは、派閥が解体状態であることだ。

「そもそも岸田派は党内第4派閥でした。派閥そのものは政策集団的なレベルで残ってはいても、表立って活動を展開するのは国民の厳しい目もあり無理があります。つまり、各派閥が連携して岸田首相を追い込むという構図はやりづらい。党内政局を無視できるとまでは言いませんが、その圧力は以前ほど強いわけではないでしょう」(同)

 岸田首相は「自民党の支持率はそれほど下がっていない」「野党がひとかたまりになっていない」ことを理由に、総選挙で与党がそこまで追い込まれないのではないかと見ているとされる。

「自民党の支持率が下がっていないことと自民党支持層が投票に行ってくれるかというのはまた別の問題です。首相が解散権を行使するだけでも相当ハードルは高いと感じますね」(同)

 いずれにせよ、政局が動き出すまで、2週間を切ったことになる。

デイリー新潮編集部