青森山田の「187cm右腕」

 今年の選抜高校野球は、3月25日までに全出場校が初戦を終えた。12球団のスカウト陣は、連日、甲子園のグラウンドで躍動するドラフト候補に熱い視線を送った。筆者も記者席で各選手のデータを収集し、取材を進めてきた。今回は、スポーツ新聞などで報道が少ないものの、スカウト陣の評価が高かった4選手をピックアップして、その実力に迫る。【西尾典文/野球ライター】

 1人目は、青森山田の187cm右腕、関浩一郎だ。初戦の京都国際戦で先発し、8回を投げて被安打7、3奪三振、3失点で降板している(※試合は青森山田が4対3でサヨナラ勝ち)。球場のスピードガン表示によると、ストレートの最速は143キロ。スカウト陣のスピードガンによる計測もそれほどスピードは変わらなかったという。球速だけ見ると、他の投手に比べて突出しているわけではない。しかしながら、京都国際戦の24個のアウトのうち、15個がフライアウトだった。これは、相手打者の感覚よりも、関が投じたボールが高く浮いてくる、いわゆる“ホップ成分”が強いことを示している。

 パ・リーグ球団のスカウトは、関について、以下のように話している。

「昨秋の神宮大会で、関が投げている姿を見て『楽しみだな』と思っていました。(選抜でも)やはり良いですね。フォームに悪いところがない。あれだけの長身にもかかわらず、バランスが本当にいいですよ。今はまだ体の強さが足りないから(球速が)140キロ程度ですけど、今後、絶対に良くなると思います。(ドラフト候補として注目度が高い八戸学院光星のエース)洗平比呂もよかったですが、先々のことを考えれば、関の方が面白いと思いました。(青森山田と八戸学院光星は同じ青森県なので)夏の甲子園は、どちらかしか出場できないのは残念ですけどね……」

 今大会の前に行われた練習試合で147キロをマークしたという関。夏の大会までにもう少し出力が上がってくれば、一気にスカウト陣の評価を上げる可能性がありそうだ。

四国大会で注目を集めた「高知のエース」

 2人目は、高知のエース平悠真。昨年の選抜は、3試合にリリーフで登板。当時のストレートは130キロ台後半で、スカウト陣の注目度は高いとは言えなかったが、昨秋の四国大会で最速146キロをマークして、急成長を見せた。今大会は、初戦の広陵戦に2番手で登板し、チームは1対3で敗れたものの、5回を1失点に抑える好投を見せた。

「ストレートの球速は140キロくらいが多かったですけど、ボールの質が良いですね。去年の選抜は、長身(身長183cm)を生かし切れていない様子でしたが、リリースする時に、だいぶボールに指がかかってきたように見えます。(対戦した広陵のエースで、プロ注目の右腕)高尾響と比べても、良い時のストレートの勢いは、平に分があるように感じました。今後、どこかのタイミングで驚くようなボールを投げるのではないかと期待して、視察を続けたいと考えています」(セ・リーグ球団スカウト)

 昨秋の明治神宮大会を含めると、全国大会で計5試合に登板している平。いずれもリリーフで起用され、勝ち投手にはなっていない。夏には“不動のエース”として、甲子園に帰ってきて、初勝利を挙げてほしいところだ。

飛躍が期待される「北海のショート」

 3人目は、北海のショート、幌村魅影である。幌村は、入学直後からショートのレギュラーを掴んだ。昨年の夏の甲子園は、3試合で4打数3安打と結果を残している。今大会の北海は、大阪桐蔭に1対7で敗れて、幌村自身も4打数ノーヒット、2三振。ただ、第1打席はファーストライナーに終わるも、大阪桐蔭の大型右腕、平嶋桂知が投じた144キロのストレートを痛烈に弾き返している。

「早くから試合で使われているので、持っている能力は高いと思うのですが、去年までは少し軽率なプレーが目立ちました。今大会は、捕球や送球に丁寧さが出てきましたね。それに加えて、プレーにスピードもあります。冬の間に、かなり守備を鍛えてきたと感じました。(身長は176cm、体重は76kgで)体は細いですけど、打撃ではリストの強さが目立ちます。(高校からプロ入りするのはなく)大学に進学して、体が大きくなれば、一気に伸びるかもしれませんね」(セ・リーグ球団スカウト)

 今大会、2つのゴロを軽快にさばいた幌村。4回には、4-6-3の併殺打を完成させ、落ち着いたプレーを見せてくれた。北海といえば、中日のルーキーでショートを守る辻本倫太郎(2023年ドラフト3位)が卒業後に仙台大へ進学し、大きくレベルアップして、ドラフト指名を勝ち取っている。幌村も辻本に続くような飛躍を期待したい。

モイセエフと並び称される「阿南光の大型スラッガー」

 最後は、阿南光のセンターで3番バッターの福田修盛だ。阿南光は、初戦の豊川と11対4で破り、続く2回戦は熊本国府に3対0で勝利した。福田は、豊川戦で6打数1安打、熊本国府戦は4打数1安打1打点で、1回に先制のタイムリースリーベースを放つなど、持ち前のパワーを見せつけた。

 スカウト陣からは、プロ注目の外野手、豊川のモイセエフ・ニキータと比較して、福田を高く評価する声が聞かれた。

「体つきは、モイセエフ(181cm、85kg)と比べて、福田(180cm、89kg)のほうが立派ですし、パワーも負けてないと思います。(今大会は)少し力みがあって、ミスショットが目立ちましたけど、対応力があります。センターからの返球は、モイセエフより間違いなく強いですよ」(セ・リーグ球団スカウト)

 4選手のなかで、ドラフト指名を勝ち取るのは誰なのか。引き続き、チェックを続けていきたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部