獲得はDeNAではなく巨人──。スポニチアネックスは4月10日、「筒香 米国から帰国 ジャイアンツを退団、巨人が獲得決定的に」との記事を配信した。筒香嘉智はMLBのジャイアンツとマイナー契約を結んでいたが、3月21日付けで自由契約となった。日本球界に復帰するとの報道が飛び交い、どのNPBチームが獲得するのか注目を集めていた。

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 巨人の吉村禎章・編成本部長は7日に記者団の取材に応じ、筒香について「能力、実績は素晴らしい」と絶賛。阿部慎之助監督も「調査はしていただいているみたいだから」と獲得に動いていることを認めた。

 ただしスポーツ報知は8日に配信した記事(註1)で巨人だけではなく、古巣のDeNAも「筒香の動向に注目している」と言及していた。一方、スポニチアネックスは同じ8日に配信した記事で、巨人の筒香獲得は《決定的》と断言していた(註2)。担当記者が言う。

「筒香選手は1991年11月生まれの32歳。名門の横浜高校で活躍し、2009年のドラフト会議では横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)から1位指名を受けて入団しました。たちまち日本球界を代表するスラッガーに成長し、19年のオフにポスティングシステムを利用してMLBのレイズに移籍したのです。ところがMLBでは精彩を欠き、ドジャース、独立リーグなど米11球団を渡り歩いても芽が出なかったという予想外の結末で終わりました。そのため巨人やDeNAのファンから『果たしてNPBで通用するのだろうか?』という疑問の声も上がっているのです」

 NPBとMLBの打撃成績を比較してみると、不安の声が多いのは頷ける。筒香は2010年からの10年間、DeNAに在籍。平均打率2割8分5厘、平均出塁率3割8分2厘、通算ホームラン205本という立派な成績を残している。

福留孝介氏の成績

 MLBに在籍したのは2020年からの3年間だったが、平均打率1割9分7厘、出塁率2割9分1厘、そして通算ホームランは18本だった。DeNA時代に比べると、相当に見劣りすると言わざるを得ない。

 このためXでは「筒香がアメリカに行っている間、NPBの投手は球速など飛躍的な進歩を遂げた。帰国したとしても、以前のように通用するとは思えない」という投稿が非常に目立つ。

 過去を振り返っても、MLBから戻ってきた日本人野手で、打撃成績が下がった選手はかなりの数に達する。例えば中日、カブス、インディアンズ、ホワイトソックスで活躍した後、帰国して阪神と中日でプレーした福留孝介氏だ。

「福留さんのキャリアハイを見てみると、打率3割5分1里、出塁率4割3分8厘、長打率6割5分3厘、ホームラン34本という記録はいずれも、1999年から2007年までの中日時代に達成したものです。一方、MLBの5年間では平均打率が2割6分台、平均出塁率が3割4分台、ホームランは通算42本で、やはりメジャーの野球に苦労したことが分かります」(同・記者)

 福留氏は2012年7月にヤンキースとマイナー契約を結んだが、9月3日に自由契約となった。そして12月に阪神と入団について合意したことが発表された。

MLBとNPBの違い

「阪神時代の福留さんは、いかにもベテランらしい、勝負強いバッティングでファンを魅了しました。とはいえ、数字は正直です。打率が2割を切ったり、ホームラン数が一桁だったり、というシーズンも珍しくなかったのです。率直に言って、“メジャー帰りのスラッガー”という期待に答えた成績だとは言えませんでした」(同・記者)

 他にも帰国してしばらくの間は日本野球に苦しめられたバッターとして、OBなら中村紀洋、岩村明憲の両氏。現役ならヤクルトの青木宣親や中日の中島裕之といった名が浮かぶ。

 つまり、「日本の投手陣が飛躍的な進歩を遂げる」以前から、帰国してバッティングの低迷に苦しんだ日本人野手は少なくなかったのだ。

 もちろん年齢の要素は大きいだろう。20代をNPBとMLBで過ごし、再びNPBに戻ってきた時は30代になっている。だが、野球評論家の広澤克実氏は「日本とアメリカの野球が全く違うということも大きいのではないでしょうか」と指摘する。

「MLBは全162試合で、移動、移動、また移動という日々です。アメリカの国土は広大で、時差ボケに悩まされる選手さえ出ます。試合日程は苛酷で、体調管理と練習時間の確保に苦労します。おまけにバッターにとっては、大半のピッチャーが初対戦と言っても過言ではありません。今年3月に行われたMLBの開幕戦で大谷選手はダルビッシュ投手と対戦しましたが、次の対戦はいつなのか見当も付かないほどです。ところがNPBの場合、以上の要素が全て逆転してしまいます」

NPBは狭い社会

 セ・リーグだと北海道、東北、九州にチームがない。さらに巨人、ヤクルト、DeNAは首都圏が本拠地のため、この3球団の選手なら自宅から相手チームの球場に向かうことができる。交流戦を除くと遠征は愛知県、兵庫県、そして広島県だけだ。

「パ・リーグは北海道や九州にチームがあるとはいえ、それでもMLBに比べると移動距離は格段に短いと言えます。時差ボケなどありませんし、巨人、ヤクルト、DeNAの選手はシーズンの半分以上を自宅で過ごすことができます。規則正しい生活を送ることが容易で、体調は維持しやすいですし、猛練習を積み重ねて試合に出ます。対戦相手のピッチャーは顔見知りが大半ですから、データ分析というレベルではなく、実体験として相手のことを知り抜いています。もちろん相手ピッチャーも自分のことを熟知しているので、互いに“裏の裏をかく”といったことは日常茶飯事です」(同・広澤氏)

 MLBのシーズンをNPBに当てはめると「毎日がオールスター」という状態のようだ。常に初対面の相手と真っ向勝負を挑むというのも、選手にとっては大変だろう。一方、NPBは互いのことをよく知っているという狭い社会での対戦になる。その中で毎日、切磋琢磨を積み重ねる。こちらも大変なのは言うまでもない。

筒香に必要な「時間」

「MLBから帰ってきたばかりの日本人野手は、NPBの感覚では一般的に練習不足の状態ですし、何より対戦ピッチャーに対する実体験が少ないという大問題があります。MLBのことを忘れ、NPBの野球に順応するのも実は大変なのです。その結果、帰国してからしばらくは日本のピッチャーに抑えこまれてしまいます」(同・広澤氏)

 つまりMLBからNPBに移籍した日本人野手は、日本野球に適応するため時間を必要とするわけだ。となると、巨人が筒香に何を求めるかによって、彼の野球人生が変化する可能性があるという。

「もし巨人が筒香くんに“即戦力の大砲”を期待しているなら、筒香くんは低迷してしまうかもしれません。彼はMLBのピッチャーにも対応できなかったこともあり、バッティングフォームがかなり崩れている印象を持っています。一度、全てをリセットして、新しいフォームを構築する必要があるのではないでしょうか。巨人が数年のスパンで筒香くんの再生を待つことができれば、あれだけの実績を残したバッターです、必ずもうひと花咲かせることができるでしょう。しかし巨人が焦り、成績が低迷しているにもかかわらず、スタメンの起用を続けたりすると、ますます筒香くんのフォームが崩れてしまう可能性があります」(同・広澤氏)

註1:筒香嘉智内野手を巨人が調査 右翼手候補のオドーアが開幕3日前退団で助っ人野手不足…DeNAも注視(スポーツ報知:4月8日)

註2:筒香 巨人入り決定的に!V奪還へ「左の強打者」補強 5年ぶり日本復帰決断も古巣DeNAではなく…(スポニチアネックス:4月8日)

デイリー新潮編集部