パリ五輪への予選が始まった。U-23アジアカップ・カタール大会だ。この大会で3位以内に入れば日本はパリ五輪の出場権を獲得できる。16日の初戦の相手は中国。ここ数年はラフプレーで名を馳せてしまったが、伝統的に守備の堅いチームでもある。そんな中国との大事な初戦を迎えた日本だったが……。

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「不用意にもほどがある」とはこのことを言うのだろう。前半17分のCB西尾隆矢のプレーである。試合中のプレーとは関係なく、中国選手に背中からぶつかられた。そのまま倒れても良かったが、西尾が選択したのは左エルボーでの報復だった。これが相手の顔面をヒットし、小柄な相手は倒れ込んでしまう。オーストラリア人の女性主審はOFR(オンフィールドレビュー)の結果、西尾にレッドカードを提示した。

 競り合いでの手を使ったプレーならともかく、ボールのないところでの報復行為。それもエルボーによる「乱暴な行為」は、どんな大会でも退場処分である(JリーグならS2で一発退場)。西尾はJリーグでもそれなりの出場経験がある選手だ。まして今大会はVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が入っている。しかも試合は始まったばかり。中国選手はラフプレーが多くなる傾向も事前に知っていただろう。

 そうした情報がありながら軽率なプレーで日本を窮地に陥らせるプレーをしたということは、感情をコントロールできない選手と見なされても仕方がない。次のUAE(アラブ首長国連邦)戦は自動的に出場停止となるが、今大会は準決勝まで勝ち上がらないとパリ五輪の切符は見えてこない。

窮地に追い込まれた日本

 このため今回の招集メンバーではJの出場経験が多い西尾だが、今後も使い続けることはリスキーと言わざるを得ない。ここらあたり、大岩剛監督の起用法にも注目したい。

 試合は立ち上がりから総合力に勝る日本が押し気味に進めた。左FWの平河悠が2本のクロスを放てば、右FW山田楓喜もMF松木玖生へのアシストを演じるなど日本の攻勢が続く。そして前半8分、攻撃参加した右SB関根大輝の戻しを受けた山田のクロスから、マークを外した松木がフリーとなってボレーシュートを決めて日本が先制した。

 立ち上がりからボールポゼッションで優位に立った日本が、早い時間帯での先制点によりリードを奪った。当然、その後も中国を圧倒し、追加点を奪うのは時間の問題だと思った。国際大会でのグループリーグ初戦は勝点3がマストである。そして、その後の展開を考えれば、大量点を奪っておくことも重要だ。実際、4−0や5−0のスコアも想定した。

 ところが前述したように、西尾の不用意な反則からの退場で日本は窮地に追い込まれた。4−4−1から2列のブロックを敷いて守備を固める。

 幸いだったのは、中国が90分間を通してクロス攻撃とそのこぼれ球からのシュートという単調な攻撃を繰り返してくれたことだ。

小久保の安定感

 0−1とリードされていること、長身選手が多いことも、手数をかけずにクロスから活路を見出そうとしたのかもしれない。

 ただ、こうした攻撃に日本もたびたびピンチに見舞われた。そこで存在感を発揮したのがGK小久保玲央ブライアンだった。前半42分のベイヘラム・アブドゥワイリ(9番)のヘディングシュートはパンチングでクリア。前半45+1分のジュー・ユエ(5番)のロングシュートは両手でサイドへ逃げた。後半1分にはカウンターからGKと1対1の決定的なピンチを迎えたものの、シュートを左足でストップしてからキャッチして日本を救った。

 小久保は移籍したベンフィカでは出場機会が少ないことから、U-23日本代表では鈴木彩艶の控え選手だった。しかし、この日のプレーを見ると前述したファインセーブだけでなく、鈴木にはない安定感もあった。

 例えばパンチングの技術だ。前半45+1分のロングシュートは両手の平で確実にサイドへ逃げた。中国のアーリークロスに飛び出したシーンでは、フィスティングで遠くに弾き飛ばすなど、プレーの選択に迷いがない。後半4分にはカウンターに対して躊躇うことなくペナルティーエリアから飛び出してクリアした。

次戦も不安

 1月のアジアカップでは中途半端なパンチングから失点を繰り返し、相手のスルーパスに独走状態になりながら、前進しそうでバックステップを踏んで飛び出すのが遅れて冷やっとしたシーンの多かった鈴木。バックステップはホームの北朝鮮戦でも見られただけに、癖になっているかもしれないと思った。

 しかしながら小久保は、パンチングにしてもペナルティーエリアを飛び出すプレーにも迷いは見られない。見ていてこの安心感は鈴木にはないものだし、たとえ失点したとしてもチームメイトも納得できるものではないだろうか。

 パリへの戦いは始まったばかり。大岩ジャパンの収穫はまず初戦で勝点3を獲得できたことに尽きる。そしてGK小久保が日本を救ったこと。10人対11人の劣勢になりながら、スタメンの選手はもちろん交代で起用されたCB木村誠二や前線のMF藤尾翔太、MF佐藤恵允らも与えられた仕事を遂行したと思う。

 ただ、まだ1試合が終わったに過ぎないのも事実。19日にはUAE戦が控えている。短期決戦での、1人少ない試合の消耗度は計り知れない。そうした意味でも西尾の軽率なプレーは責任重大である。それをどこまでチームとして取り戻せるのか。好材料はキックオフ時間が中国戦とは2時間30分ほど遅いことだろう。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

デイリー新潮編集部