好調なチームから取り残された男

 中日ドラゴンズが首位戦線で熱い戦いを続けている。オープン戦は首位だったが、開幕前の順位予想では決して高評価ではなかった。しかし、開幕第2節の巨人3連戦に勝ち越すと、次の広島戦から引き分けを挟んで6連勝を飾るなど、投打ともに好調さを見せ付けている。

「中日はセ・リーグ5球団全てとぶつかり、14試合中10試合で先取点を挙げています。去年までとは比べものにならないくらい、ベンチの雰囲気も明るいです。二軍監督だった片岡篤史ヘッドコーチ(54)が一軍担当となりました。PL学園時代からの同級生同士なので息も合うのでしょう。片岡ヘッドが控え選手の代打準備を指示したり、ミスをした選手を叱ったりしています。ヘッドコーチが叱責すれば、それでお終い。去年までは立浪和義監督(54)が選手に直接注意し、ベンチのムードが重くなるときもあったんですが」(球団関係者)

 一方で、気になる情報も。ファームで調整中のビシエド(35)に“熱視線”を送っている球団がいくつかあるという。ビシエドは家庭の事情で一時帰国していたため、調整が遅れている。いや、それ以上に一塁のレギュラーを争う中田翔(35)が打撃好調で、若手に助言を送るなど、チームにも打ち解けている。一塁のレギュラー争いで敗れたビシエドの打撃力を惜しんで、トレードを検討している球団が現れたのだ。これは見方を変えれば、今の中日の選手層が厚いということでもある。

「投打もかみ合っていると思います。立浪監督からも『3点あれば勝てる』といった趣旨のコメントも聞かれるようになりました。二軍も12勝6敗1分けで2位です(15日現在)」(地元メディア関係者)

 そんな好調なチームから取り残されてしまったのが、投手転向3年目を迎えた根尾昂(24)である。今季も開幕一軍メンバーに残れなかった。近況を探ると、「次回登板は、もうしばらく先になりそう」(前出・同)と嘆く声が聞こえてきた。

厳しい評価

 話は4月2日まで遡る。根尾は鳴尾浜球場で行われたウエスタン・リーグの阪神戦に先発登板したものの、コントロールが定まらず、2回途中での降板となった。

「初回から、今日はダメという雰囲気でした。2者連続での四球もあり、2回はいきなり長打を浴び、2イニング続けて満塁のピンチを背負ってしまいました。ヒット、内野ゴロの間にまた1点、さらに四球を出して長打。井上一樹二軍監督(52)が限界と判断し、投手交代を告げました」(前出・同)

 1回と3分の1を投げ、被安打5、与四球4、失点4。与四球の多さからも分かる通り、2イニングを投了する前に57球も投げており、守っている野手たちの集中力も切れ掛かっていた。

 根尾は、「気持ちが先にいったところは正直ありましたが、言い訳にはならない。そこもコントロールできるようにしないと。しっかり修正します」とコメントしたが、以後、登板のチャンスは与えてもらっていない。この“四球自滅”となった4月2日の前の登板となると、3月17日まで遡ることになる。

「好不調の波が大きいと二軍首脳陣は見ており、調子が悪いなら悪いなりにピッチングをまとめ、長いイニングを投げられるようにと指示されていました。2日の試合でも2回はコントロールを意識しすぎてしまい、かつ変化球でストライクが取れないので、球速が落ちた直球を狙い打ちされていた印象です。投手として、かなり厳しい評価をされているんだと思います」(在阪記者)

 そこへ不運も重なった。

 ドラゴンズのお膝元・CBCテレビの情報番組「チャント!」で、東海3県出身の若手選手のプライベートを紹介するコーナーがスタートした。そこで岐阜県飛騨市出身の根尾が取り上げられ、中学時代にスキーで全国優勝した経歴などが紹介され、

「温泉が出るところにスキー場があるので、いろんなスキー場の温泉につかりに行くのが好きでした」

 と、本人のコメントも伝えられた。さらに、郷里に近い温泉施設からオススメの地元グルメまで根尾が紹介した。郷土愛は大切だが、タイミングが悪すぎた。ファームでノックアウトを食らった日が放送日だったのである。ファンは「温泉よりも一軍マウンドへ!」の心境だろう。

先発よりも救援向き?

「春のキャンプでは、今より調子が良かったと思います。キャンプ中の実戦では、7イニングを投げ、失点1でした。オープン戦では3試合の登板チャンスをもらいましたが、失点8。立浪監督は、根尾を先発起用したいという考えがあり、先発6人枠を争わせるスタンスでした。オープン戦で結果を残せなかったので開幕一軍メンバーには残れませんでしたが、監督が根尾の先発起用に固執していることについては賛否両論があります」(前出・関係者)

 根尾は投手に専念して3年目。最初の年の22年シーズンは危うい局面もあったものの、一軍戦25試合に登板して防御率3.41の成績を残している。翌年からファーム暮らしが始まったが、それは立浪監督の「先発案」が言い渡されたタイミングでもあり、同時に制球難も指摘されるようになった。

「実はチーム内では、根尾は救援のほうが合っているんじゃないか、という声もあるんです。開幕戦で勝ちゲームでのセットアッパーとして予定されていた松山晋也(23)が打ち込まれ、救援投手不足が懸念されました。立浪監督は勝野昌慶(26)と入れ替え、救援陣を立て直しましたが、この時、根尾の名前が一軍首脳陣のなかで挙がっていました」(前出・同)

 だが、立浪監督は根尾の救援再転向案に興味を示さなかったという。全力投球で力投型の根尾に「6、7割の力でキレのあるボールを投げ、変化球でかわすテクニックも習得させる」という監督の方針は、今からでは遅いのかもしれない。

「とにかく練習はマジメ。居残り練習でネット投球をほぼ毎日続けていますし、その努力は二軍首脳陣も認めています」(前出・地元メディア関係者)

 中日の開幕ローテーションは、柳裕也(29)、涌井秀章(37)、メヒア(27)、小笠原慎之介(26)、大野雄大(35)、梅津晃大(27)の6人。リーグトップのチーム防御率1.84と強固だが、「再編は必須」との見方もされている。

 大野は4月3日の巨人戦で復帰し、勝利投手になったが、翌日には一軍登録を抹消されている。その後、大野の次回登板日だった10日の先発マウンドには松葉貴大(33)があがっており、その松葉も翌11日には登録を抹消されてしまった。昨年、左肘にメスを入れた大野はまだ万全ではなく、勝利投手になった松葉も6回途中で降板している。つまり、6人目の枠は空いており、根尾の今後の奮闘次第ではそれを争うことも十分可能なのだ。

「柳、涌井は好調ですが、同時にいつ不調に陥ってもおかしくない。高橋宏斗(21)は出遅れてしまい、ファームで調整中です。味方野手のエラーで投球リズムを崩すなど不運なところもありましたが、二軍首脳陣は高橋には高いレベルを求めており、一軍昇格するときはローテーションを任せるつもりです」(前出・同)

 先発陣の好調さが「3点取れば勝てる」という立浪監督の強気発言につながったが、セパ交流戦の変則日程や夏場の連戦を迎えれば、ブルペン陣を総動員させる試合も出てくるだろう。

 その根尾が、16日に行われた、くふうハヤテとの3回戦で先発した。3回に1失点したものの6回3分の1を投げ、被安打3、与四球0、奪三振6の好投を見せたが、打者の打球を腹部に受け、アウトにした後、負傷降板した。ファームで根尾が巻き返し、一軍昇格を勝ち取るのは並大抵なことではない。だが、努力が報われるより前に、心が折れてしまわないか心配だ。

デイリー新潮編集部