突きつけられた“対中国”という課題

 7月26日に開幕するパリ五輪まで残り100日を切り、各競技が本大会に向けて仕上げの時期に入っている。そんななかでも、五輪でのメダル獲得が期待されるのが卓球だろう。2月に韓国・釜山で開催された「世界卓球2024 団体戦」では、日本女子チームが最大の敵である“卓球王国”中国をあと一歩まで追い詰める奮闘を見せ、今夏の金メダルへ期待を抱かせる内容で銀メダルを獲得した。【井本佳孝/編集者・ライター】

 女子の団体メンバーに名を連ねるのが早田ひな(23)、平野美宇(24)の“黄金世代コンビ”で、両者はシングルスの代表としてもメダルを狙える立場にいる。

 そして、団体戦3人目のメンバーとして初出場を果たすのが張本美和(15)。五輪2大会連続メダリストで、前回東京五輪では混合ダブルス(水谷隼とのペア)で金メダルに輝いた、伊藤美誠(23)を退けての代表入りを果たしている。すでに金メダルを視界に入れるパリ五輪の女子チームにあって、日進月歩で成長を遂げている張本がカギを握るのは間違いない。

 張本は2月の世界卓球で銀メダル獲得に貢献したものの、1番手を任された中国との決勝では世界女王の孫穎莎に敗れた。さらに、早田、平野が勝利し、2−2で金メダルをかけて回ってきた5番手では、東京五輪シングルス金の陳夢に敗れている。試合後は悔し涙を見せるなど、“対中国”が現実の課題として突きつけられた。

 張本は攻守にバランスがよく、両ハンドドライブにサービスも種類が豊富で、オールラウンドな能力が魅力の選手。しかし、自身の現状の課題については「相手により圧力をかけるための武器がなく、ひとつの技術で相手を倒すというものがない。そこは五輪までにやっていかないといけない」と夏に向けて語っていた。パリでの飛躍のための課題を明らかにした上で、その後の日々を過ごしてきた。

 張本が所属するTリーグ、木下アビエル神奈川を率いる中澤鋭監督は「(世界女王の)孫穎莎選手にいいプレーはできるけど、下には空洞がまだまだある」とポテンシャルを認めながら課題はまだあるとし、「これからは少しずつ埋めていきたいし、彼女にはそのことを知るように指導しているので期待はまだできる」と言及していた。シニアの世界で2023年から今年にかけて能力を開花させてきた彼女。周囲もそのレベルアップを見守る姿勢をみせてきた。

世界3位に完勝

 そんな取り組みは実を結び、4月15日からマカオで行われた「ITTF男女ワールドカップ2024」で張本は“リベンジ”を果たすことになる。順調な滑り出しでグループステージを突破すると、迎えた決勝トーナメント1回戦では、大会前の時点で世界3位の王芸迪と対決した。

 第1ゲームから真っ向勝負を挑み、デュースをものにして12−10で先取。第2ゲームこそ奪われたものの、その後はラリーの攻防で一歩も引かず、得意のバックハンドが冴える。成長期を迎え、身長も166cmに伸びた張本は、王芸迪にもパワーでまったく引けを取らず、コースもフォア、ミドル、バック側を巧みに打ち分ける技術と戦術眼を見せた。王手をかけて迎えた第5ゲームでは相手の粘りにも耐えて16−14でものにし、試合には4−1で完勝。悲願の“中国超え”を果たすことになった。

 さらに、準々決勝でも同10位のアドリアーナ・ディアス(プエルトリコ)に快勝してメダル確定。20日の準決勝では今大会2度目の中国トップ勢で、世界2位の王曼昱と対戦した。

 王曼昱は176cmの身長を活かしたプレーが特徴で、強烈な両ハンドドライブを放つ相手で、準々決勝では日本のエース、早田ひなに完勝していた難敵。張本は序盤、王曼昱と打ち合いながらも要所では押される場面も見られ、2ゲームを先取される苦しい展開で始まった。

15歳でのW杯メダル獲得は史上最年少

 それでも、このままで終わらないのが今の張本の成長と、大器たる所以。第3ゲームでは力強い両ハンドドライブで押し込み11−6でものにすると、第5ゲームも王手をかけられながらも前後左右に王曼昱を動かす巧みなラリーを披露。また、点差を徐々に縮められ、プレッシャーを受けながらも11−9で取り切ったなかに張本のメンタル的な強さも垣間見えた。

 その後、第6ゲームを失い2−4で敗れたものの、日本勢の前に立ちはだかってきた王曼昱相手に堂々たる戦いぶりで銅メダル。なお、15歳でのW杯メダル獲得は史上最年少であり、この大会では男子の張本智和も3位に入り、史上初の兄妹メダリストの誕生となった。

 世界卓球では中国勢に勝利していた早田、平野が今大会では敗れ、ベスト8で姿を消すなかで、世界卓球で悔しい思いを味わった張本が飛躍を遂げた。1試合1試合が成長の場となっている、伸び盛りの張本が経験値を高めただけでなく、「世界3位撃破&銅メダル獲得」と結果も残した。自信を深めたであろう張本の存在で、パリ五輪に向けた女子チームの総合力は高まったと言えるだろう。

 夏のパリ五輪に向けた最後の強化期間となっている国際大会。世界卓球であと一歩のところまで中国を追い詰め、期待を抱かせた日本女子チームの面々がそれぞれの試合で奮闘を続けている。そのなかでも、金獲得のラストピースとして加わった張本の成長には引き続き期待が高まる。

井本佳孝(いもと・よしたか)
編集者・ライター。2015年にWebライターとして活動開始。サッカー、スポーツ総合、音楽メディアなどで記事執筆、編集、Web運営を経験。2021年には東京オリンピック・パラリンピック組織委員会にてWebサイト運用・編集・記事執筆に携わった。

デイリー新潮編集部