“4番の後釜”のメド立たなくても

 プロ野球巨人の岡本和真内野手(27)が今オフにポスティングシステムを利用し、米大リーグに挑戦する事態に備え、メジャー各球団は調査に余念がないという。その可能性はロッテの佐々木朗希投手のメジャー移籍に勝るとも劣らずで、米球界関係者の間では「公然の秘密」となっている。

 一方で巨人にとって主砲の流出は大きな痛手となる。筒香嘉智外野手の争奪戦はDeNAに敗れ、4番の後釜にメドは立っていない。それでも、巨人には岡本のポスティング移籍を容認せざるを得ない事情があるようだ。

 岡本は昨春、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で米国との決勝では村上宗隆内野手(ヤクルト)とアベック本塁打を放ち、日本代表の世界一に貢献した。大谷翔平(当時エンゼルス、現ドジャース)らとともに野球の本場である米国でプレーしたことで、一段とメジャー志向が強まった。WBC制覇後の帰国会見では「野球ってこんなに楽しかったんだなって思いました」と語っている。

 実際、昨季終盤にはポスティング移籍の可能性が表面化した。MLBネットワークの敏腕記者ジョン・モロシ氏が9月、複数のメジャー球団が岡本の2023年オフの移籍に準備し、身辺調査を行っているとSNSでつづったのだ。

 さる米大手マネジメント会社の代理人が証言する。

「WBCをきっかけに、岡本のメジャーに行きたい気持ちが増したことはMLB関係者の中では、よく知られています。岡本がFA(フリーエージェント)権を取るまで(渡米を)待たないという見方がほとんどです。大きな故障や極度の不振でもない限り、今オフのポスティングによるメジャー挑戦は既定路線と言えるのではないでしょうか」

 岡本は、最短で26年オフにメジャー挑戦が可能になる海外FA権を取得する。しかし、27年の開幕時は30歳になっている。メジャーでは30歳を過ぎると、好条件での契約が望めなくなる傾向があるだけに、岡本の一刻も早い渡米に懸ける思いは並大抵のものではないはずだ。

優勝がポスティング容認の条件ではない

 巨人のチーム関係者が言葉をつなぐ。

「特に原(辰徳)前監督の権限が強かった昨季までは相手投手だけではなく、ベンチと闘うことがあり、閉塞感を味わっていたことでしょう。それだけに、WBCで野球をする楽しさを全身で表現していた大谷に受けた影響は大きかったようです。大谷に倣って、それまで熱心ではなかったウエートトレーニングを本格的に始めたぐらいですから。WBCを境にメジャーへの思いは抑えられなくなったんだと思います」

 ポスティングによるメジャー移籍が実現すれば、巨人の生え抜き選手としては初めてのケースとなる。

「昨季に続き、主将を務める今季、4番の役割を果たし、チームが優勝すれば球団は認めるしかないでしょう。優勝できなくても本塁打や打点のタイトルとか、個人として一定の成績をクリアすれば、これも認める流れになるでしょう。そうしなければならない事情を抱えていますから……」(同関係者)

 かつて巨人で海を渡った選手は当初、松井秀喜外野手、上原浩治、高橋尚成両投手のようにFA権を行使してのものだった。それが19年オフ、生え抜き選手でなかった山口俊投手の契約書に盛り込まれていたとはいえ、ポスティング移籍を容認したことで流れが変わった。

菅野にポスティングを容認した過去

 20年、巨人一筋のエース、菅野智之投手に対し、生え抜きとしては初めてポスティング移籍を認めた。最終的に交渉が不調に終わり、菅野はメジャー挑戦を断念したものの、この時、球団が下した決断は現在に至るまで重い事実として球団の歴史に残っている。

「菅野に認めているのに、岡本には認めないというわけにはいかないでしょう。岡本が納得するはずがありません。山口で終わっていれば、生え抜きではないからという理由を付けられたかもしれませんが……。岡本以外でも今後、生え抜きでメジャーを希望する選手が出てくれば、ポスティングの容認は避けられなくなっています」(同前)

 岡本はメジャー挑戦に向けたモチベーションの高さの表れか、開幕から主要打撃3部門で好成績を残している。「岡本は今季のテーマに打点を掲げています。首脳陣に求められたということ以上に、チームの勝利に直結するような活躍をしてメジャーに行くんだという気持ちがにじみ出ているとみています」(元NPB球団監督)

 今季、シーズン30本塁打以上をマークすれば王貞治、野村克也らNPBで過去5人しかいない7年連続の快挙となる。昨季まで本塁打王に3度、打点王には2度輝いている。セ・リーグ制覇も19、20年と2度経験した。

鈴木や吉田に匹敵するメジャー契約も?

 過去の他球団のポスティング移籍の選手と比較しても、個人タイトルとともに最早、NPBでやり残したことはないだろう。

「今季は、原監督が続投し、中田(翔=中日)が残っていたなら中田が一塁で、岡本が左翼に就く構想がありました。実現はしませんでしたが、岡本が一、三塁以外に外野を守れるということはメジャー球団との交渉時に有利に働くと思います。打撃面では、上位打線が難しくても6、7番に入って得点源になる役割なら需要があります。今なら鈴木(誠也外野手=カブス)や吉田(正尚外野手=レッドソックス)に近い契約も可能でしょう」(前出の代理人)

 有終の美を飾り、念願のメジャー行きの切符を手にできるのか。今季の巨人では阿部慎之助新監督の下でV奪回を目指すチームとともに、主砲の動向から目が離せなくなりそうだ。

デイリー新潮編集部