「広島1−7阪神」(30日、マツダスタジアム)

 阪神・村上頌樹投手(25)が先頭打者アーチを浴びながら尻上がりに状態を上げて7安打6奪三振1失点、今季チーム初の9回完投勝利を挙げた。阪神はこれで3、4月は15勝9敗3分け、昨季を上回る今季最多の貯金6で終えた。デイリースポーツ評論家の西山秀二氏は村上をリードした坂本を「完投勝利に導いた巧みなリード」と称賛した。

  ◇  ◇

 坂本がバットでいい働きを見せたが、それ以上に価値があったのは村上を完投勝利に導いた巧みなリードだった。

 初回、村上は秋山に先頭打者アーチを浴び、さらに野間の中前打、中野の失策で無死一、二塁のピンチを招いた。いずれもストレートを打たれ、バタバタしかけた村上を落ち着かせたのが、配球面の切り替えだった。

 まだエンジンがかかりきらない村上に対して、ストレートは無理に内角に要求せず、投げやすい外角低め、しかも投げやすいカウントで要求。いつもより変化球の比重を高めたリードに徹した。

 経験の少ない捕手というのは、えてして、こういう苦しい局面では内角への球を要求して打者を抑えにかかろうとしがちだが、逆にボール球が増えたり、甘く入ったりして傷口を広げたりするもの。だが、坂本は村上の状態が上がってくるまで無理をせず、内角にストレートを要求したのも五回、秋山を右飛に打ち取った球が初めてだった。村上がいい感覚を取り戻すのを焦らずに待ち続けた。

 「捕手冥利(みょうり)に尽きる」という言葉がある。崩れそうな投手を立ち直らせ、勝ちに導いた時に最も感じるものだが、この夜の坂本もそんな思いを味わったことだろう。