植田和男日銀総裁はマイナス金利政策の解除に動くか

 日本銀行が3月18〜19日に開く金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除するとの見方が強まっている。実際にマイナス金利が解除されると、株式相場はどうなるか。値上がりが期待できる銘柄を専門家に聞いた。

 労働組合の中央組織・連合によると、傘下にある組織の今年の春闘での賃上げ要求の平均は5.85%で、前の年を1.36ポイント上回った。5%を超えるのは1994年以来30年ぶりだ。

 多くの大企業が労働組合の賃上げ要求に答える3月13日の集中回答日には、トヨタ自動車をはじめ経営側から満額回答が相次いだ。中には組合の要求を上回る回答をした企業もあった。15日に発表された連合の初回集計結果では、ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた賃上げ率は平均5.28%で、連合が目標とする「5%以上」を上回っている。

 日本銀行は政策変更の判断材料として、今春闘を重視しているとされる。経営側から高水準の回答が相次いだことで、市場でも日銀が政策転換に踏み切る環境は整ったとする見方が強まった。

■物価上昇率が底堅く推移

 アイザワ証券投資顧問部ファンドマネージャーの三井郁男さんは言う。

「少なくても3月か4月の金融政策決定会合のどちらかに解除するでしょう」

 一時より落ち着きつつあるとはいえ、物価上昇率が底堅く推移していることや、賃上げの動きが今回の春闘だけにとどまらず、今後も続くと考えられるためだという。

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「値上げによって、原材料の値上がり分や人件費の増加分を商品やサービスの価格に反映しても、消費者離れが意外と起きないことが分かり、価格決定権を取り戻すことができた企業が多い印象です。その結果、社員や給料を増やしたり、生産設備を増強したり、配当など株主への還元に回したりするのに必要な原資を稼げる体制になってきました。あとは、こうした動きが大企業から、中小企業までどこまですそ野が広がるか。日銀はいろいろなデータをみて、もっと広がると判断すれば政策転換に踏み切るでしょう」(三井さん)

■『脱デフレ』を宣言

 株式市場ではマイナス金利解除の観測は、先週(15日までの週)、足元の株式市場ではネガティブに反応した。3月初めに1ドル=150円台だったドル・円相場は11日に同146円台まで円高が進んだ。15日には同148円台まで値を戻したものの、円高や金融引き締めへの警戒感から株は売られ、一時は4万円台に達していた日経平均株価は3万8千円台まで下がった。

 しかし三井さんは、日銀の政策転換は本来、ポジティブに受け止めていいのではないかと指摘する。

「マイナス金利の解除は『脱デフレ』を宣言するようなもの。いよいよ物価が上がる通常の世界に戻っていくということです。今までの日本は異常な状態でした。『インフレの時代になる』というと、今はまだ消費者は不安が先に立つと思います。でも値上がりするのはモノやサービスの値段ばかりではなく、給料だって同じ。収入が増え、今までよりもたくさん買い物ができるようになれば、企業の売り上げや利益はさらに増えます。利益の裏付けがある限り、それが支えとなって株価の上昇トレンドは続いていくでしょう」

 日銀の政策修正に対する見方がより強まった週明け18日は、株式市場は反発。日経平均は3万9千円台を回復している。

 では、マイナス金利の解除が追い風になるのはどんな銘柄か上の表を見てほしい。三井さんはまず、メガバンクをはじめとした銀行株を挙げる。金利の上昇により、本業である預貸業務の貸出金利と預金金利の差で得られる「利ざや」が改善し、収益の向上が期待できるためだ。

「今までのような利ざやがほとんどない状況から、今後は拡大基調に入ります。確かに、銀行株は日銀の政策変更への思惑などから、これまでにもすでに買われてきました。でも現時点ではまだ、数字として表れていない段階です。株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)といった投資指標をみても、株価はなお割安なので十分買っていいと思います」(三井さん)

■円高が進む可能性

 国内では海外の生産拠点を戻したり、古くなった設備を改修・拡充したりする動きも目立つ。また半導体受託製造大手、台湾積体電路製造(TSMC)は2月に日本での初めての生産拠点、熊本工場(熊本県菊陽町)を開所した。同社工場はもちろん、関連企業の進出や地域インフラの整備など、周辺では大きな資金需要が見込める。こうした地域特有の需要や成長が見込めるところに地盤を置く地銀株なども狙い目という。

 円高のメリットがある銘柄にも注目だ。日銀の政策転換を引き金として円高が進む可能性があるためだ。円高で海外から調達する燃料代が減る航空会社はその一つ。海外旅行にも行きやすくなるため、経済再開後に回復基調が続く国際線需要がさらに押し上げられると期待される。

 原料であるパルプを輸入する紙・パルプメーカーも、円高は業績改善を後押しする。

 反対に、マイナス金利の解除が逆風となりそうなのは、不動産や電力、海運会社など。資産や借入金が多い企業は、金利が上がると返済などの負担がかさみやすい。海運会社はドル建ての決済の割合が大きく、円高局面では業績への影響が懸念されることが多い。

「とはいえ、いずれの会社も為替リスクへの対応は進めています。また、マイナス金利を解除したとしても、植田和男総裁をはじめ日銀執行部は『緩和的な金融環境を維持していく』と強調してきました。ですから円高が過度に進むことは考えにくい。デメリットも限られるでしょう」(同)

(AERA dot.編集部・池田正史)