指名打者で出場する大谷翔平

 メジャー開幕戦となるドジャースとパドレスの一戦が、きょう20日に韓国・ソウルで開催される。ドジャースは指名打者で出場する大谷翔平、開幕2戦目に先発予定の山本由伸、パドレスは開幕投手を務めるダルビッシュ有、セットアッパーの松井裕樹と日本球界を代表する選手が名を連ねるだけに、日本国内でも注目度が高い。

 韓国で取材するスポーツ紙記者は、現地の雰囲気に驚いたという。

「大谷の注目度が群を抜いています。想像を超えていましたね。真美子夫人とともに仁川空港に姿を現した映像はテレビで何度も流れ、新聞でも大きく扱われました。まるでハリウッドスターです。韓国でこれほど大人気だった日本人アスリートは記憶にありません。公式グッズ売り場でも大谷がダントツで一番人気。国籍関係なく、メジャーを代表するスーパースターとして評価されていることなのでしょう」

■MLBの思惑

 そもそも、なぜ韓国で史上初となるメジャーの開幕戦が開催されることになったのか。米国に駐在する通信員が解説する。

「野球ファンの裾野を世界中に広げたいというMLBの思惑があります。米国では各球団の観客動員数が07年を境に下降線をたどっており、現状も大きく回復していません。NFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)に次ぐ3番目に人気のスポーツという認識で、野球に興味のない層が多い。米国で人気回復に苦心しているなか、メジャーで活躍している中南米やアジア、欧州系の選手が増えているので、海外で野球というコンテンツの魅力を発信するのは自然な流れでしょう。韓国は米国、日本に次いで野球の市場が3番目に大きい国です。一時は低迷していた観客動員数も近年は伸びてきている。パドレスとドジャースを選んだのもMLBの意向と言われています。両球団は韓国になじみがあります」

大谷のグッズが一番人気

 パドレスはキム・ハソンが在籍。俊足と強肩を武器に華麗な守備が魅力で内野ならどこでも守れる。打撃も成長の跡を見せ、昨季は152試合出場で打率.260、17本塁打、60打点、38盗塁と自己最高の成績をマーク。チームに不可欠な存在だ。ドジャースにはかつて、パク・チャンホ、リュ・ヒョンジンとエース格で活躍した投手たちが在籍。韓国ではドジャースの人気が最も高いという。

■「大谷のおかげです」

 韓国でメジャー開幕が発表されたのは昨年7月12日。実はこの時は大きな盛り上がりは見せなかったという。

「発表されたことを知らない人が多かったと思いますよ。メディアの扱いも大きくなかった。ドジャースのムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンとスターたちはいますが、野球ファン以外は彼らを知らないのが実情です。キム・ハソンはもちろん一番の注目選手ですけど、韓国の国内リーグ(KBO)のほうが盛り上がっていたかな。流れが大きく変わったのは、大谷翔平が昨年オフにエンゼルスからドジャースに移籍することが決まってからです。投打の二刀流で異次元の活躍を見せる大谷は『アジアの誇り』と絶大な人気です。日本と同様に、韓国でも大谷に憧れて二刀流でプレーする子供も多い。大谷は花巻東高校在学中に韓国を訪れたことがあり、『韓国は好きな国の一つです』『韓国でプレーできるのが楽しみ』と発言したことが報じられて韓国人の好感度がさらに上がりました。大きなサプライズは真美子夫人の存在を公式に発表して初のお披露目の場所となったのが、仁川空港だったことです。韓国のメディアでは真美子夫人を『目立たないように歩く謙虚なたたずまいで美しい』『大谷翔平が生涯の伴侶に選んだ女性は上品な上に親しみやすいオーラがある』と絶賛されています。韓国でメジャー開幕戦が一気に盛り上がったのは、大谷のおかげです」(韓国に駐在する日本人通訳)

開幕2戦目に先発予定の山本由伸

 韓国では開幕2試合が行われる。気になるのは、今後日本でのメジャーの開催予定だ。歴史を紐解くと、00年のメッツ―カブス戦を皮切りに、メジャーの開幕戦が日本国内で5回開催されている。最も印象深いのが、イチロー(現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が試合後に現役引退を発表した19年3月開催のマリナーズ―アスレチックス戦だろう。試合後に東京ドームを一周すると、観客が総立ちとなり大きな拍手が鳴りやまなかった。ちなみに、エンゼルス在籍2年目の大谷は前年にトミー・ジョン手術を受けたため、19年は打者に専念。106試合出場で打率.286、18本塁打、62打点、12盗塁をマークしている。この時点でメジャーでは二刀流で実績を残していなかったため、「打者に専念すべき」と主張する専門家の声が少なくなかった。あれから5年の月日を経て、投打でメジャーのトッププレイヤーにのぼりつめた。

■経済効果はすごいことに

 スポーツ紙デスクは「来年以降に日本でメジャーの開幕戦を行う可能性は十分に考えられる。当然、日本で一番人気のドジャースは最有力候補になるでしょう。今年の活躍やチーム成績に左右される部分がありますが、大谷、山本由伸のプレーを見られる観戦チケットはプレミア化する。グッズも飛ぶように売れるでしょう。2試合の短期間ですが、経済効果はすごいことになる。MLBも日本のマーケットを重要視していますし、早ければ来年にも開催される可能性は十分にある。その場合は東京ドームが最有力とみられています」と話す。

 2度目の右ひじの手術を受けた大谷は慎重にリハビリを行っており、投手として実戦復帰する時期は不透明だが、コンディションが整えば来年の開幕2連戦のマウンドに立つことが考えられる。投打の二刀流で完全復活する姿を見られるか。

メジャーで日本人最多の4度目の開幕投手を務めるダルビッシュ

 日本ハム時代から大谷を取材する記者は「来年に日本でドジャース戦の開幕戦が見られるなら、日本人対決が見たいですね。同学年の鈴木誠也(カブス)、侍ジャパンで共に打線の軸を担った吉田正尚(レッドソックス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)をどう抑えるか見たいし、花巻東の先輩の菊池雄星(ブルージェイズ)や、千賀昂大(メッツ)、今永昇太(カブス)に対して打者としてどうアプローチするかも興味深い。大谷に憧れて、メジャーを目指す選手がさらに増えると思いますが、これは仕方ないです。それだけ日本球界のレベルが上がっている証ですから」

 韓国で開催される開幕カードは大谷が大きくフォーカスされているが、他にも注目点は多い。メジャーで日本人最多の4度目の開幕投手を務めるダルビッシュはドジャースの強力打線相手に、どのような投球を見せるか。ダルビッシュから松井の継投策が実現するか。オープン戦では不安を残した山本は開幕2戦目の先発登板で、幸先良いスタートを切れるか…。歴史に残る開幕2連戦がきょう20日から始まる。

(今川秀悟)