ドジャースの大谷翔平(右)と山本由伸(左)

 2023年オフ、大谷翔平(エンゼルスからFA)は10総額7億ドル(約1053億1000万円)、山本由伸(オリックスからポスティング)は12年総額3億2500万ドル(約489億1000万円)という長期の大型契約をドジャースと結んだ。

 この契約が切れる頃には大谷が39歳、山本が37歳となっており、一般的には引退をしていてもおかしくない年齢に達していることからも、ある意味では“生涯契約”と言ってもよいだろう。

 近年、メジャーリーグでは選手の獲得競争が激化しており、大谷、山本以外にも10年以上の契約を結ぶ選手が珍しくなくなってきた。オフには2人以外にもロイヤルズの若きスーパースター、ボビー・ウィットJr.内野手が11年総額2億8880万ドル(約434億4000万円)で契約。また、今季終了後にFAとなるヤンキースのフアン・ソト外野手については、現地の報道で新契約は“大谷超え”の15年7億100万ドル(約1054億4000万円)になる可能性にも言及している

 先述したように選手が10年以上の契約を結ぶことは“生涯契約”と言ってもよい長さ。このような長期契約は最近のトレンドでもあるため、結果的にどうなるかまだ分からない選手も多いが、早い段階で契約した球団を去る例も少なくない。

 過去の契約を探ると、当時としては異例の超大型契約をレンジャーズと結んだ“Aロッド”ことアレックス・ロドリゲス内野手もその一人だ。マリナーズ時代に早くから頭角を現し、2000年オフにFAとなったロドリゲスは、当時としては最高額の10年総額2億5200万ドル(約379億1000万円)でレンジャーズと契約を結び話題となった。

 ロドリゲスは移籍後も3年連続でホームラン王になるなど、お金に見合った活躍を見せていたが、チームは低迷。移籍3年目のシーズンオフに早くもヤンキースへトレードとなった。放出の理由は「高すぎる年俸」。予算を抑制すべく資金豊富な名門へ放出せざるを得なくなった。

 結果的にヤンキースに移籍となった選手としてはジャンカルロ・スタントン外野手も当てはまる。

 スタントンはマーリンズ時代の2014年オフに北米プロスポーツ史上最高額となる13年総額3億2500万ドル(約488億9000万円)で契約を延長した。だが、Aロッドと同じく契約から3シーズンが終了した2017年オフにヤンキースへトレードとなった。理由はやはり「高すぎる年俸」。特にスタントンの契約は年俸が上がっていく内容となっており、2018年には前年の1450万ドルから2500万ドルにアップ。球団の経営陣も元ヤンキースのデレク・ジーター氏らが率いるオーナーグループに代わっており、チーム再建のために放出されることとなった。

 Aロッド、スタントンよりは長くプレーしたものの、2013年オフに10年総額2億4000万ドル(約361億1000万円)でマリナーズ入りしたロビンソン・カノ内野手も5シーズン終了後にメッツへトレードされている。このタイミングでマリナーズは主力選手を多く放出する“ファイヤーセール”を行っており、カノの移籍もやはり年俸抑制が理由だった。

 一方で10年以上の契約を結び、それを最後まで全うしたのがジョーイ・ボット一塁手(前レッズ)だ。

 2012年シーズン開幕直後、リーグ屈指の一塁手として活躍していたボットは2014年から10年間で総額2億2500万ドル(約339億5000万円)で契約を延長した。契約後には自身の武器でもある選球眼の良さを生かし3度リーグトップの出塁率を記録するなど活躍したが、チームは低迷し、自身も契約6年目となった2019年以降は成績が下降。2021年シーズンにはキャリア2位タイとなる36本塁打を放つなど盛り返したが、契約の晩年はほぼ戦力になれずに苦戦が目立った。しかし、それでもチームはボットをトレードや戦力外にすることなく、最後まで手放すことはなかった。

 2023年オフに10年契約が完了し、契約時に付帯していたオプションを球団が破棄。チームを去ることになったが、メジャーデビュー以降レッズ一筋17間プレーした。退団後も現役を続行し、3月に入ってブルージェイズとマイナー契約を結んだが、長期契約を全うしたのはもちろん、近年では数少ない“フランチャイズプレイヤー”と呼んでもよいだろう。

 結果的に契約終了前に退団となったが、“惜しかった”のがアルバート・プホルス一塁手だ。2011年オフにエンゼルスと10年総額2億5400万ドル(約383億4000万円)を結び、カージナルス時代からは成績を下げたものの、長年同チームの一員としてプレー。しかし、10年目のシーズン途中にDFA(事実上の戦力外)となり、契約を全うすることなくチームを去った。エンゼルス退団後はドジャースを経て、古巣のカージナルスでプレーしている。

 10年以上の契約を勝ち取った選手については最近のものが多く、まだ契約真っただ中というケースがほとんどで、他の選手が最後まで契約を結んだチームでプレーするかは分からない。だが、チームの経営に関して方針が急遽変わることの多いメジャーリーグでは、契約を全うする選手は多くはないだろう。

 大谷も入団会見で、契約に関わったフリードマン球団社長、ウォルター球団オーナーが退団したらオプトアウト(契約の見直し)できるという条件について聞かれると、「ドジャースに入団すると同時に、メインのこのお二方と契約する形ですし、そこがもし崩れるのであれば、この契約自体も崩れることになる、そういう契約かなと思います」と状況次第でチームを出ることも示唆している。

 ドライな部分の方が目立つメジャーリーグだが、プホルスのように最後に慣れ親しんだ古巣に戻るスター選手が多いということもある。もしかすると、大谷も契約の途中でエンゼルスに戻ってプレーするということもあるかもしれない。