違法賭博に関与したとして解雇された水原一平氏

 韓国・ソウルで開催されたメジャー開幕戦の興奮が冷めないなか、衝撃的なニュースが入ってきた。ドジャースが大谷翔平の通訳を務めている水原一平氏を違法賭博に関与したとして解雇したことを、現地時間20日に発表した。

 現地で取材する記者は驚きを隠せない。

「寝耳に水でした。大谷が試合中に水原通訳と普段通りコミュニケーションを交わしていました。SNS上で『水谷さんの顔が疲れている』という指摘がありましたが、そこまで違和感はありませんでした。MLBの規則本に、違法ブックメーカーを介しての賭けはコミッショナー判断で処罰の対象になると明記されています。水原さんはなぜそんな危険なギャンブルに手を染めたのか……」

■マシュー・ボウヤー氏

 水原氏はこの問題が公になる前日の19日、米スポーツ局「ESPN」の取材に応じている。インタビューのなかで、ギャンブルにのめり込んだ経緯を明かしている。2021年にサンディエゴでポーカーゲームをしている時、違法賭博で連邦捜査の対象となっているマシュー・ボウヤー氏と会い、“つけ”で賭け始めたという。賭けの対象はサッカー、NBA、NFL、大学フットボールなど。野球賭博については全否定している。借金がふくらみ続けたが歯止めが利かなくなり、首が回らない事態に。借金の肩代わりを大谷に依頼すると合意したという。大谷の口座から450万ドル(約6億8000万円)が違法ブックメーカーに電信送金されたことを明かしている。記事によると、水原氏は「みなさんに知っていただきたい。翔平は賭博には一切かかわっていませんでした。私は、これが違法だと知らなかったということも皆さんに知っていただきたい」と強調したという。水原氏は肩代わりしてくれたお金を大谷に返済すると伝えたという。

水原氏は大谷にとって不可欠な相棒だった

 ところが、電撃解雇が発表された後に水原氏は一連の発言を撤回する。自身が賭博していたこと、巨額の借金があったことについて、大谷が「知らなかった」と主張。大谷サイドの弁護士も「翔平が大規模な窃盗の被害に遭っていることが判明したため、当局に問題を引き渡している」と大谷が送金に同意していない趣旨のコメントを発表した。

 米国でも人気度が高い水原氏の電撃解雇はインパクトが大きく、ニュースが繰り返されて報じられているという。

■プライベートでも時間を共有

「米国で注目されているのは、大谷が送金に関与していたかということです。色々な報道が出ていますが、確認された事実は大谷名義の口座から巨額が送金されているということ。本当に何も知らず、口座の管理を任せられた水原氏が独断で送金したのか。それとも、大谷は水原さんを助けたいと思い、自身が肩代わりすることに同意したのか。米国は不正なマネーロータリングに厳しい。今後、刑事事件で水原さんへの捜査が行われる可能性が高いですが、大谷も捜査機関が事情聴取するかもしれない。野球に集中するのが難しい環境なので心配です」(米国駐在の通信員)

 水原氏は日本ハムで通訳を務め、大谷が18年にエンゼルスに移籍した際、専属通訳に。その役割は通訳にとどまらず、キャッチボールや球場への行き帰りの車の運転など身の回りのサポートを行い、プライベートでも時間を共有。大谷にとって不可欠な相棒だった。ESPNの取材によると、水原氏はインタビューの中で自身の1年間の給料が、30万ドル(4500万円)から50万ドル(7500万円)であることを明かしている。通訳としては破格の額で、何一つ不自由ない充実した生活を送っているように見えた。

観戦する大谷の妻、真美子さん(中央)

 なぜ、ギャンブルに手を染めて、7億円近い借金を背負ってしまったのか――。

 米国で日本人メジャーリーガーの通訳を務めた経験がある関係者は、複雑な表情を浮かべる。

「メジャーの通訳は非常にハードな仕事です。選手のことを最優先に考え、生活を送る。他のチームメートと良好な関係を築く架け橋になることもあります。充実した仕事ですが精神はすり減る。何年経っても慣れた感覚にはならないですね。水原さんは『世界一有名な通訳』と言われ、日本でも米国でも人気ですが、普段はおっとりとした性格で目立つことを好まない。数年前にお会いした時に『水原さんも有名人ですね』と声を掛けたら、『いやいや、凄いのは翔平ですから』と否定していました。通訳という枠組みを超えて、どんどん有名になる自分に葛藤があったのかもしれない。張り詰めた日常の中で、気分転換でギャンブルに手を出したんですかね。違法のブックメーカーに膨大な借金を積み重ねることは想像できませんでしたが……。大谷に迷惑をかけたら本末転倒です。一番後悔しているのは水原さん自身でしょう」

■借金の取り立てが来ることも

 アスリートがギャンブルにハマって、借金が返せなくなる事態に追い込まれるケースは過去にもあった。

「『選手が借りた金を返さない』と球団に借金の取り立てが来ることもありました。事情聴取すると、『良い結果を残せないストレスで、ギャンブルにどんどんのめり込んだ』と。ギャンブル中毒になると正常な判断ができなくなるので、1人で立ち直るのは無理です。水原さんはギャンブルが昔から好きだったのか分かりませんが、大谷に迷惑をかけているという負い目はあったと思います。だから、巨額の借金が積み重なるまで言い出せなかったのでしょう」(スポーツ紙デスク)

 家族が受けたショックは計り知れない。大谷はメジャー開幕前に自身のインスタグラムで、妻の真美子さんと映った写真を公開している。その隣には水原氏と水原氏の妻の姿が。ソウルで開催された開幕戦では、スタンドで真美子さんと水原氏の妻が試合を見守る姿が見られた。

「精神的なショックが心配されるのは大谷だけではありません。水原さんの夫人の心理的ケアが必要です。大谷との結婚が発表された真美子さんにとっても米国で初めて暮らすなか、水原さんは頼りになる存在だったでしょう。結婚が公表されてから一気に時の人になり、精神的に疲れている部分はあると思います。大谷と米国で穏やかに生活できる日常が1日も早く戻ることを願うばかりです」(民放テレビ局関係者)

 ドジャースに移籍し、結婚を発表し、開幕戦を終えた翌日に水原通訳が違法賭博に関与したとして電撃解任……。激動の幕開けとなったなか、大谷はどのようなパフォーマンスを見せられるか。心の整理をつけるのは難しいが、試合はやってくる。目標に掲げるワールドチャンピオンに向け、戦い続ける。

(今川秀悟)