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 新NISA(少額投資非課税制度)で人気の「高配当株」。ただ一言で高配当株と言っても、株式市場にはたくさんの銘柄があり、迷ってしまう。これからもできるだけ長く、安定した配当が期待できそうな企業はないか。高配当株のうち、来期も好業績が期待できる銘柄を専門家に選んでもらった。

 1月の新NISAのスタートにあたり、政府は効率的な資産運用を行うため「長期・積立・分散」の投資を改めて呼びかけた。制度のメリットを十分に生かすにも、なるべくそれに沿った投資をしたほうが有利だ。

 個別株の投資にあたっても同じだ。長く保有することを想定した場合、この先も業績の安定や成長が見込める企業を選びたい。証券会社出身で経済や金融市場の動向や資産運用に詳しい経済アナリストの田島智太郎さんは言う。

「業績が安定していれば配当も得られやすいし、今後、成長性が評価されて値上がり益も狙えます」

■なくしたりする恐れ

 配当は企業が稼いだ利益の中から株主に対して配分する。その企業の戦略や方針にも左右されるが、利益を原資としているだけに、継続して一定の利益を上げていることが前提になる。業績が悪くなると配当を減らしたり、なくしたりする恐れもある。

 好業績が見込めれば、田嶋さんが言うように、市場から評価も上がって株価の上昇も期待できる。

 そこで今回、田嶋さんに、一般的にもよく知られた企業のうち、1株あたりの年間配当の額を株価で割った「配当利回り」が3%を超えていて、かつ、来期以降も業績の伸びが期待できる企業を挙げてもらった(次ページの表)。

「NISAでは高配当株として鉄鋼や製薬関連の企業も人気ですが、今回はあえて外しました。鉄鋼関連は中国経済の先行きが不透明なこともあって世界的に鉄鋼需要が鈍化していますし、製薬関連は各社の開発動向に左右され、業績に浮き沈みがあるためです。長期保有を考えている投資家にとって、より向いていると思える企業を選びました」(田嶋さん)

 また3月期決算企業だけに限らず、12月期決算や3月期決算などもバランスよく含めてもらった。

 このうちまず、コマツは言わずと知れた国内最大手の総合建機メーカーだ。足元の業績も好調に推移する。1月に発表された直近の2024年3月期第3四半期(23年4〜12月)決算は売上高が前期比10.1%増、本業のもうけを示す営業利益が同30.8%増と増収増益だった。市場では同通期は会社計画を上回ると期待されている。

■オフィス家具業界は好調

 田嶋さんによれば、ライバルの米キャタピラー社に追随した値上げ効果が浸透し、利益率が改善。北米事業が好調なほか、部品を含めた鉱山機械の需要が想定を上回って推移しており、今後も好調が続きそうだという。

 オフィス家具が主力のオカムラも、コロナ禍で広がった働き方改革の追い風を受けている。オフィスの改装需要を取り込み、今期(24年3月期)は売上高、利益とも過去最高ペースで推移する。来期(25年3月期)も引き続き好調が見込めるという。

「経済再開後に勤務形態を在宅から出社に戻す割合は増えていますが、同時にオフィスの改装や移転の需要も増え、オフィス家具業界は全体的に好調です。値上げもスムーズに進んでいるようです」(田嶋さん)

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 続いて、受注生産方式で「マウスコンピューター」ブランドのパソコンをつくるMCJは来期(25年3月期)、更新需要が期待できる国内向けが回復・伸長する見込みだ。米マイクロソフトのパソコン向け基本ソフト「ウィンドウズ10」のサポート終了時期が25年10月に控え、オフィスや家庭の入れ替えや買い替えなどが見込めるほか、21年ごろまでに小中学校で整備が進んだ政府の「GIGAスクール構想」で導入した端末の入れ替え時期が迎えるといった恩恵を受けそうだという。

「同社にとってスマホやパソコンの市況回復は、部品や製造装置関連メーカーなどに比べてより直接的な好影響が見込めます。国内向けだけでなく、電子看板などを販売する欧州や、修理事業などを手がけるインド向けの事業も拡大中です」(同)

■インバウンド需要

 自動車生産の本格回復を受けてクルマ用のガラスなどが伸びるAGCや、百貨店店舗の業績が回復し訪日外国人(インバウンド)需要が収益を押し上げる三陽商会は、配当政策の面でも注目だ。株主への配当の還元目標として「株主資本配当率(DOE)」を基準に用いているためだとしている。田嶋さんは言う。

「株主への還元目標として、1株あたりの最終利益のうち、どのくらいの割合を配当として還元するかを示す『配当性向』を用いる企業は多い。でも、それだとその年の利益によって配当の額が大きく変動する場合もあります。これに対し、株主資本配当率を基準として用いている企業は、株主資本が利益よりも大きく変わるようなことがないこともあって、安定した配当が期待できます」

 AGCは2月に配当方針を従来の配当性向40%からDOE3%程度に見直した。三陽商会は25年2月期にDOE4%をめざしている。新NISAを意識して、長期保有する株主を増やす目的でDOEを使う企業は増えているという。

 また田島さんは、足元の株価を判断するうえで参考にされることの多い投資指標についても、数字を見る上ではコツがあるという。

■「あと一息」

「一般的に、株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)は数値が低いほど、現在の株価は割安だと判断されます。しかし、ただ低いだけじゃダメ。低すぎるということは、どんなに頑張っても業績や市場の評価を引き上げる余地がないというケースもあるためです。市場全体の平均値や業界他社、自社の目標値などと比べて、少しだけ低い、『あと一息』とでも言える銘柄がちょうどいい。あと一息、あとちょっとの頑張りしだいで株価の水準が引き上げられる可能性があるからです」

 年度が切り替わると、株式市場が企業を見る目も、より先を見すえたものになる。新年度に向け気持ちを新たに自分に合った株を探してみよう。投資はくれぐれも自己判断で。

(AERA dot.編集部・池田正史)