根尾昴の人気は別格だという

 中日は今年こそ、ファンの期待に応えられるか。

 オープン戦は10勝5敗5分でソフトバンクと並んで1位タイに。驚くのは球場の熱気だ。本拠地・バンテリンドームは右翼、一塁スタンドと多くのファンで埋まっていた。オープン戦最終カードとなったロッテ戦は22日が27444人、23日が31962人、24日が32109人。本拠地・東京ドームで楽天と対戦した巨人の観客数を見ると、22日が24981人、23日が37669人、24日が31337人。22日と24日はバンテリンドームの方が集客している。

■2年連続最下位

「中田翔、中島宏之らスター選手の加入で注目度が上がった影響はあると思いますが、田中幹也、村松開人、三好大倫ら新たなスター候補が台頭していることが大きい。高橋周平の復活も大きいです。近年は伸び悩んでいる時期が続いていたので、手厳しい声が多かったですが、中日ファンは低迷期からレギュラーで頑張っていた周平が好きなんですよ。もちろん、三塁の定位置を争う地元出身の石川昂弥も意地を見せてくれないと。高橋周、石川が活躍すれば、中田も一塁のスタメンが確約されていないのでウカウカできない。今年の中日は各ポジションで競争が熾烈なので面白いですよ」(名古屋の民放テレビ局関係者)

 チーム再建を託され、立浪和義監督が就任したが、22,23年は球団史上初の2年連続最下位。改革は一朝一夕では進まない。今年も下馬評が高いとは言えない。野球解説者の予想ではBクラスが多いなか、11年以来13年ぶりのリーグ優勝は現実的な目標と言えないだろうか。

中田翔らスター選手の加入で注目度が上がった

 スポーツ紙デスクは「とにかく得点力を上げること。中日の課題はこれに尽きる」と強調する。昨年はリーグワーストの390得点。1試合の平均得点が3点に満たない。これでは投手陣が苦しい。昨年に限った話でなく、近年の低迷期は貧打で得点が取れないストレスが続いている。

「中田、細川成也、ディカーソンがポイントゲッターとして期待されるが、彼らに依存してはいけない。小技や機動力を絡めてチームとしてどう1点を取るか。四球の数が大幅に増えて得点力が上がった阪神が良きお手本です。打線が爆発する試合は滅多にないですから」

■キーマンは…

 中日の最大の強みはディフェンス力だろう。一塁・中田、二塁・田中、三塁・高橋周、遊撃は育成入団から来日2カ月で支配下昇格を勝ち取ったクリスチャン・ロドリゲス。守備能力の高さだけで言えば、ゴールデングラブ賞を独占できるメンバーだ。外野陣はオープン戦で打撃好調だった三好、ソフトバンクから移籍した上林誠知が俊足と強肩に定評があり、右翼・細川の強肩も走者を次の塁に進めない抑止力になる。ゴールデングラブ賞を22、23年と2年連続受賞した岡林勇希は右肩炎症の影響で開幕2軍スタートとなったが、3人が外野で同時起用されたら強固な布陣となる。ディカーソン、大島洋平と打撃能力が高い選手を含め、起用法の選択肢が多い。

 投手陣は開幕ローテーションで柳裕也、小笠原慎之介、メヒア、涌井秀章、大野雄大、梅津晃大が予想される。故障明けの大野、登板間隔を空ける必要がある梅津は無理をさせられない。中日を取材するスポーツ紙記者は「優勝を目指す上でキーマンは開幕2軍スタートの高橋宏斗です」と分析する。

故障明けの大野雄大

 高橋宏は昨年WBC制覇した侍ジャパンにメンバー史上最年少で選出。シーズンは25試合登板で7勝11敗、防御率2.53だった。エース格として期待された今年だったが、投球フォームのバランスを崩して制球のばらつきが目立ち、開幕2軍スタートに。スポーツ紙記者は「優勝するチームにはスーパーエースがいる。山本由伸が象徴的な存在です。19、20年と2年連続最下位に低迷していたが、21年以降に山本が投手タイトルを独占する大活躍を続け、リーグ3連覇を達成した。15、16勝を挙げて貯金を10以上作る投手が1人いれば、チーム全体の成績がガラッと変わる。他の投手も刺激を受けて能力が引き上げられますしね。高橋宏は球界のエースになる逸材です。10勝して満足できる投手ではない、早期に1軍復帰して圧倒的な成績を残してほしいですね」と期待を込める。

■成長の跡を見せた

 投手転向3年目の根尾も開幕2軍スタートとなった。今年は春季キャンプから順調な仕上がりを見せ、実戦で好投を続けていた。オープン戦は3試合登板で防御率3.86。大崩れすることなく成長の跡を見せた。惜しくも開幕1軍の切符は勝ち取れなかったが、1軍で登板機会の可能性は十分にある。前出の名古屋テレビ局関係者は、根尾を「V奪回の救世主」に挙げる。

「根尾の人気は別格です。球場で名前がコールされるだけで大歓声が上がりますから。中日ファンだけでなく、他球団ファンも盛り上がる。影響力が強い選手が活躍すると、メディアに大きく取り上げられるので盛り上がる。昨年の阪神が村上頌樹、大竹耕太郎の活躍で首位を独走したように、新たな戦力が大ブレークすることが優勝を狙う上でポイントになる。根尾が2ケタ勝利を挙げる活躍を見せれば、頂点に届きます」

キーマンとなる高橋宏斗

 優勝するチームは、苦手球団を作らないことが重要だ。中日のポイントになるのがDeNA戦だ。昨年は8勝16敗1分と大きく負け越し。22年も6勝18敗1分とカモにされている。投手陣が序盤からDeNA打線に打ち込まれるケースが目立ち、試合の主導権を奪われる展開が目立つ。今年はオープン戦打率.434で首位打者に輝いた新人の度会隆輝が1番に入り、さらに強力な打線になっている。度会は中日もドラフト1位で指名したが、抽選で縁がなかった。立浪監督が認める非凡な打撃センスを持つ度会を抑えられるか。鬼門となっているDeNA戦の対戦成績が、チームの命運を大きく左右することになりそうだ。

■ヒリヒリするような接戦

 落合博満元監督が黄金時代を築いた04〜11年は、決して打線が強力だったわけではない。守り勝つ野球を提唱し、ロースコアで白星を積み重ねる。1-0、3-2、2-1……ヒリヒリするような接戦が続いたが、相手チームからすれば「あと1点」の本塁が遠く感じた。落合元監督が退任後はBクラスのシーズンが続いているが、今年のオープン戦では中日本来のしぶとい野球が垣間見えた。

 オープン戦20試合で50得点は12球団中9位タイ。チーム防御率1.97は12球団トップだった。3月15日以降、1分けを挟み6連勝を飾ったが、5得点以上奪った試合は1試合もない。小刻みに点を重ねて試合の主導権を握り、自慢の投手陣と強固な守備陣で失点を許さない。5試合が1点差ゲームと接戦に強かった。

 他球団のスコアラーは「中日、強いですよ。一番厄介なのは投手力が強いチームです。先発、救援陣が強固で昨年までは打線の援護がなく持ち応えられない試合が目立ちましたが、今年は走塁や進塁打の意識が高く、コツコツ得点を重ねようとする意図が見える。セリーグは阪神以外、5球団の実力が拮抗している。大混戦になれば最後にモノを言うのが投手力です。中日がダークホースになっても不思議ではない」と警戒を強める。

 中日ファンは勝利を渇望している。今年は春先から開幕ダッシュに成功し、一味違った姿を見せたい。

(今川秀悟)