東京都の小池百合子知事の定例記者会見が閉鎖的だ。記者クラブに非加盟の記者に対してはより顕著だ。AERA dot.が調べたところ、年に40回以上ある定例記者会見で、非加盟の記者が質問できた機会は少ない。都のホームページでは、全国自治体の「模範的存在」と紹介されていたが、会見については疑問符がつく。記者を選別するのは“排除の論理”では。
3月上旬、筆者は東京都の政策に関する取材で小池百合子都知事に質問しようと、記者会見に参加することにした。
小池知事の定例会見は、毎週金曜日の午後2時から開かれている。主催は都庁記者クラブで、参加できるのは原則、加盟社に限る。非加盟の記者も事前に申請すれば参加できる。非加盟は、出版社の雑誌や業界紙、海外メディア、webメディアの記者、組織に属さないフリーの記者――など。
■会見場から立ち去った小池知事
ただ、現在は非加盟の記者は会見場に入れず、オンラインでの参加になっていた。2022年1月から記者会見室の工事を理由に「加盟社は1社1人、非加盟はオンライン」になったという。用意できた部屋が会見室より狭く、テレビ局の撮影や中継などに必要な機材などが入ると広さに余裕がないため、現在も継続されているという。
ということで、3月8日の金曜日、会見に出席するため、報道課が発行するURLから入室した。この日は筆者を含め計3人の非加盟の記者がオンラインで会見に出ていた。
オンラインの場合、小池知事に指されるまではミュートを解除できず、勝手に発言することはできない。また、質問があるときは挙手ボタンを押し、質問の意思を表明するルールになっている。
会見が始まると、前半は都のとりくみについて小池知事による説明があり、その後、加盟社による質問が数社からあった。そして、最後に非加盟の記者による質問時間が設けられる――はずだった。
しかし、加盟社の質問が終わると、オンライン参加の非加盟の記者3人が全員手を挙げていたのにもかかわらず、小池知事は会見場から去ってしまった。会見の時間は原則1時間とされている。このときはまだ15〜20分くらいは残っていたのに、非加盟1人も質問できないというのはどういうことなのだろうか。
よく会見に参加しているという非加盟の記者に聞くと、
「私の場合は手を上げているにもかかわらず、質問できないことが多かった時期もあります。長いときは3〜4カ月あてられなかったこともありました。最近は1カ月に1〜2回指されます」
と話した。
また、ある非加盟の記者はこう語る。
「非加盟の記者は指されないことが多いです。質問したいので挙手しているんですけどね。小池知事は無視して立ち去ってしまうのです。ほぼ毎回、手は挙がっています」
加盟社との“格差”に驚いたが、非加盟が質問できないのはなぜなのか。都の報道課に取材すると、
「どの社を指す、指さないは、小池知事の判断によるものです」
と説明するだけだった。すべては小池知事の気分次第ということか。
■一度も指されなかった月が2カ月あったり、1カ月に1回しか質問できなかったり
実際、非加盟がどのくらい質問させてもらえていないのか調べてみた。
東京都の公式YouTubeチャンネルには、これまでの定例会見の様子が公開されている。AERA dot.は、22、23の両年度で、非加盟が質問できた回数を計算した。つまり、手を挙げて小池知事に指された数だ。
結果を見て驚いたが、22年度の定例会見は計45回あり、非加盟が指されたのは6回だけ。23年度(3月22日まで)は計42回で質問できたのは18回に増えた。それでも一度も指されなかった月が2カ月あったり、1カ月に1回しか質問できなかったりするケースがたびたびあった。
関係者によると、23年度に指された回数が増えたのは、
「22年度に非加盟が指された回数があまりに少なかったことで、記者クラブ側から非公式に抗議があったんです」
とのこと。23年度は増えたとはいえ、それでも少なすぎる回数ではある。
前出の非加盟の記者が続ける。
「非常におかしい事態です。私たちとしても何度も報道課と記者クラブ側に抗議と是正の要請をしていますが、一向に改善されません」
■加盟社の動きも鈍く
一方、定例会見に参加できるのが1社1人という現在の記者会見のあり方について、加盟社はどう思っているのだろうか。
都庁には広い会議室は多くあり、今の部屋以外の選択肢があったはずという指摘もあるが、報道課の担当者は、
「記者クラブ側から、部屋の広さに対し、改善してほしいといった要望は入っていません」
と話した。
定例会見の主催は記者クラブであり、参加人数に不満があるのであれば、現状を変更するよう要望しないのだろうか。
記者クラブ側に取材すると、
「加盟社で開かれる記者クラブの総会で、現状のやり方を変更するなどの要望が議題に上がったことがない」
ということだった。要望しない理由について、別の記者がこう語った。
「そこまで重要なこととは感じていないのと、現状をそれほど不満と感じていないからだと思う。そう感じていたら記者が個人でも都に抗議する」
「加盟社は1社1人」という人数に文句が出ないことについては、
「メディアが今、都政にそこまで人数を割くほど関心を持っていない、という面があると思う」
と付け加えた。
■「排除します」発言が今も……
記者クラブの問題について、昨年から疑義を唱えてきた立憲民主党の五十嵐えり都議は、
「国民の知る権利に関わる重要な問題です。知事は、『情報公開は一丁目一番地』と言いながら、現実には非加盟の記者はあまり質問ができていない。今の方式を変更し、開かれた都庁にするように改善すべきです」
と話す。
別のベテラン都議は、17年の衆院選前にあった会見が、小池知事が非加盟を避けるようになったきっかけではないかとみる。
小池知事は当時、希望の党を結党し、民進党との合流を進めていたが、民進党のリベラル派が加わることは認めていなかった。
「会見でそのことを非加盟のフリーの記者から質問され、小池知事は『排除します』と言ってしまった。その発言がきっかけで希望の党は大敗してしまった。彼女にとっては大きな痛手だったでしょう。その経験があるので、なるべく理由をつけて非加盟を排除したいのでは」(前出・ベテラン都議)
都のホームページの職員採用の項目を見ると、
「約1400万人の都民を抱え、令和3年度当初予算額は7兆4250億円と一国の財政に匹敵する規模をもつ日本の首都東京」
「東京都は全国に先駆けた都市づくりや新しい制度の導入など、模範的な存在としての役割も担っています」
と紹介している。
自治体の“トップ”であることを自負しているのであれば、その長たる知事は非加盟の記者の質問にも堂々と答え、範を示してもらいたい。
■行政トップの力量
「記者会見・記者室の完全開放を求める会」の世話人を新聞記者時代に務めるなど、記者クラブ問題の解決に言及・行動してきた、東京都市大学教授(ジャーナリズム)の高田昌幸さんは、
「すべての質問に答えようとしないのは、小池知事の自信の無さの表れ。事前に把握できない質問や厳しい質問であっても、きちんと応答して、鮮やかに回答して見せるのが行政トップの力量」
と小池知事の会見の姿勢を批判する。
一方、非加盟から抗議がきているのに主催の記者クラブが問題視していないことについては、
「全く理解できない。『自分たちが重要だと感じないから問題ではない』というのは、『裏金は問題と感じないから問題でない』と主張する自民党と一緒。そんな記者たちに国民は何の期待もしないでしょう」
と指摘し、こう続けた。
「報道機関の重要な役割は国民に代わって権力者に質問すること。そして権力をチェックすること。それをできない報道機関は存在意義がありません」
(AERA dot.編集部・板垣聡旨)