文芸春秋との裁判が始まった松本人志

 お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(60)が、女性に性的行為を強要したとする「週刊文春」の報道で名誉を毀損(きそん)されたとして、発行元の文芸春秋と週刊文春編集長に5億5000万円の慰謝料などを求めた訴訟の第1回口頭弁論が28日、東京地裁で行われた。

 松本と「文春」を巡っては、2023年12月27日に「週刊文春」が松本による女性への性加害疑惑を報道。同日に吉本興業は報道を否定して法的措置を検討する意向を示した。さらに翌28日には松本本人もX(旧Twitter)で「いつ辞めても良いと思ってたんやけど…やる気が出てきたなぁ」と投稿し、徹底抗戦の構えを見せた。

 今年の1月8日には「裁判に注力したい」との理由で松本が活動を休止することを吉本興業が発表し、同月22日に松本の代理人は「性的行為やそれらを強要した事実はなく、およそ『性加害』に該当するような事実はない」と主張し、「文春」発行元の文芸春秋と同誌編集長に対して5.5億円の損害賠償と訂正記事を求める訴訟を東京地裁に起こした。また今月3日には、セクシー女優の霜月るなが自身のSNSで松本との飲み会に参加した過去を明かし、一部報道内容を否定するなど松本側に“加勢”する動きもあった。

 一方、「文春」サイドは松本からの訴訟に対し、「一連の記事には十分に自信を持っています」などと応戦。後輩芸人たちによる松本への“SEX上納システム”の存在や元女性タレントの実名&顔出しよる告発、マッサージ店の元女性従業員が松本に性行為強要をされたとする告発記事など“続報”を誌面で展開してきた。

松本人志の勝算は?(写真:INSTARimages/アフロ)

■松本が求めた被害者の“詳細情報”

 初公判が迫るなか、3月25日には松本本人が76日ぶりにXを更新。「人を笑わせることを志してきました。たくさんの人が自分の事で笑えなくなり、何ひとつ罪の無い後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです。世間に真実が伝わり、一日も早く、お笑いがしたいです」と心情を投稿して世間の大きな注目を集めた。

 他方、「文春」サイドは第1回口頭弁論の当日にあたる28日発売の最新号で「A子」さんの新証言となる手記を公開する一手に出たが、この日、東京地裁に松本本人の姿はなく、わずか5分ほどで閉廷となった。

 民放テレビ局の情報番組スタッフは語る。

「法廷には双方の代理人弁護士が出廷。『文春』サイドは報道内容は事実として請求棄却を求めました。松本さんが出廷しないのは大方の予想通りでしたね。ただ、準備書面の確認が行われた結果、松本さんサイドが記事内容の事実関係については認否を明らかにせず、誌面で被害を訴えた『A子』、『B子』を特定するための個人情報の提出を要求していることが明らかになりました。閉廷後に取材に応じた『文春』サイドの代理人である喜田村洋一弁護士が『そんなアホなことがあるかいな』とあきれていたのが印象的でした」

 報道などによると、松本サイドは記憶喚起のために、「A子」「B子」の名前や住所、生年月日、携帯電話番号、LINEアカウント、容姿の分かる写真などの提出を求め、「これを提出しないと認否ができない」と主張しているという。

文春側の喜田村洋一弁護士

■「文春」弁護士は強気のコメント

 これに対し、喜田村弁護士は「こんなことを言ってきたのは初めて」とし、「原告(松本)が“書かれているようなことは1回もやったことがない”のであれば全部否認で、Aさん、Bさんが誰であろうと関係ないですよね」と反論。「何も言わないんだったら、全部こちらで立証しますよ」と語ったという。

 ただ、SNSなどでは「松本さんが『A子』や『B子』の情報を求めるのは別におかしなことではないのでは?」といった意見も散見される。

 そもそも、今回の裁判では「A子」や「B子」が出廷し、記事の内容について証言するのかが重要なポイントになることは当初から予想されていた。

 不倫ネタをはじめ、“文春砲”と言われる数多くの芸能スキャンダルを掲載してきた「文春」だが、過去には裁判で敗訴したケースも少なくない。

 たとえば、2010年にアイドルグループ「AKB48」のマネジメント会社「AKS」の社長(※当時)がメンバーの女性と不適切な関係を持っていると報じた記事に対し、「AKS」の社長が名誉を毀損されたとして発行元の文芸春秋に約1億1000万円の損害賠償や謝罪広告の掲載を求めた裁判。13年9月の判決では「不適切な関係があったと推認することは難しい。問題になった部分のほとんどは真実ではなく、真実と信じる理由もない」との判決理由により、文芸春秋は東京地裁から165万円を支払うように命じられた。

 また記憶に新しいところでは、ネット上で女性に不適切な行為をしたとする「文春オンライン」の20年6月の記事で名誉を傷つけられたとして、お笑いコンビ「霜降り明星」のせいやらが文芸春秋などを相手に、約7500万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて訴訟。

 22年12月、東京地裁は文芸春秋に対し、330万円の支払いを命じている。

東京地裁

■「A子」「B子」の出廷が最重要ポイント

 バラエティー番組を手掛ける放送作家はこう振り返る。

「どちらの裁判も記事掲載から2年以上の歳月が流れていますが、『文春』が一審で敗訴しています。せいやさんの記事は『Zoom』を使った既婚の女性ファンの女性とのオンライン飲み会の際、せいやさんが女性の意に反して一方的に自分の局部を映し、自慰行為をする様子を見せつけたといった記事の内容でしたが、今回の松本さんの裁判と同様、被害者とされる女性が証人として出廷し、証言するのかが注目を集めました」

 せいやサイドは裁判で、オンライン飲み会の際には2人ともお互いを恋愛対象として見ていて女性の方から乳房を見せてきたことや、相手も自慰行為をしていたなどと主張。

 これに対して被害者とされる女性が証人として出廷し、せいやサイドの主張に反論するのかが焦点となったわけだが、結局、この女性は出廷はしなかった。

 結果的に、裁判所は「女性の意思に反してこのような行為に至ったということは真実とは認められず、ハラスメントとも評価できない」と認定。また、その行為の際のキャプチャ画像や言動を記事に掲載した点に関しても、せいやの「性的羞恥心を強く害したものでありプライバシーを違法に侵害する」との判断を示した。

 今回の松本の裁判も2〜3年の長期戦が予想されるが、現状では、松本側の代理人を務める田代政弘弁護士らは「本人(松本)が出廷を拒否することはないと思います」とコメントし、一連の記事に関わる芸人仲間らによる証人としての出廷の可能性に関しても「裁判の進み方を見て、必要あれば必要な証人に出廷してもらう」と話しているという。

 それに対し、「文春」サイドは「A子」、「B子」の出廷については今のところ明言を避けている。ただ「A子」は最新の「文春」の告発記事で、裁判で証言台に立つつもりでいると話している。裁判のゆくえはどうなるのか。

「過去に裁判になったケースや、松本サイドの『A子』、『B子』の身元特定要求に対し、『文春』サイドが不快感を示しているスタンスを見ると、2人とも証人尋問には出廷しない可能性が高いのではと見る向きもあります。ただ、そうなると『文春』サイドはかなり不利な戦いになるのではないでしょうか」(前出の情報番組スタッフ)

 次回期日は6月5日となるが、新たな展開を迎えることになるのか。

(立花茂)