高島屋が子ども服ブランド「オークレール デュ ラ リュンヌ」とコラボして作った通学用リュック=東京都内、米倉昭仁撮影

 入学式のシーズンだ。しかし、来年に入学する小学1年生に向けたランドセル商戦は、すでに始まっている。販売店やメーカーは、子どもの体にかかる負担を減らしたいという親たちの声に応え、「軽さ重視」のラインアップの充実に力を入れている。さらに、これまでとは異なる素材で作られた「ランドセル型のリュック」を扱う店も増えている。

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 東京・高島屋日本橋店のフロアには、約200種類のランドセルがずらり並ぶ。さらにオンラインストアでは、約700種の商品を揃える。

 今年の特徴は、さまざまな工夫を凝らして重量の軽減を目指した商品だ。

「今、軽いランドセルのニーズがすごく高まっています。『一番軽いのはどれ?』と来店されるお客様がとても多いので、目立つ位置に軽量の商品を並べています」

 と、高島屋のランドセル担当バイヤー、大内優奈さんは説明する。
 

 たとえば、同社がフレンチスタイルの子ども服ブランド「オークレール デュ ラ リュンヌ」とコラボした「おしゃれで軽い通学用リュック」。撥水加工を施したナイロン製で、重さは約980グラムだ。内部のタブレット端末ケースは取り外しが可能で、価格は6万4900円。

 一方、「かぶせ」と呼ばれるふたに、耐久性に定評のある人工皮革を使い、主素材にナイロンを採用した高島屋オリジナルの通学用リュックもある。こちらは約880グラムで、価格は5万2800円。

 ほかにも真鍮製の金具をプラスチックに変更するなど、さまざまな工夫が施された商品が並んでいるが、いずれも遠目には普通のランドセルに見えるのがポイントだという。

「素材だけでなく、見た目が変わってしまうと、学校で悪目立ちしてしまうのではと心配される保護者の方が多いので、ランドセルと同じような形の商品を揃えています」
 

「かぶせ」と呼ばれるふたに人工皮革が使用し、主素材にナイロンを採用した高島屋オリジナルの通学用リュック=東京都内、米倉昭仁撮影

■ランドセルで腰痛に

 高島屋が、軽量な素材で作った「通学用リュック」を初めて発売したのは2022年。腰の痛みを訴える小さな子どもが増え、ランドセルの重さを気にする保護者が増えてきたのだという。

 同年、学校用品を企画販売するフットマーク社が、1200名の小学1〜3年生とその保護者を対象に「ランドセルの重さに関する意識調査」を実施。約9割の子どもが「通学時のランドセルが重い」と感じていたことがわかった。

 教科書のページ数や副教材が増えただけでなく、タブレット端末、暑い時期は熱中症予防のために水筒も持ち運ぶことになる。

 この調査では、登下校時に持っている荷物の平均重量は4.28キロにのぼり、7割の子どもが3キロ以上の荷物を背負っていたことも明らかになった。
 

 子どもに関する消費ビジネスを研究する大正大学の白土健教授は、小さな体で3キロ以上の荷物を背負って通学を続けると、筋肉痛や腰痛など身体的影響に加え、心身の不調を訴える「ランドセル症候群」になってしまうことがあると訴える。

 日本鞄協会・ランドセル工業会によると、一般的なランドセルの重量は天然皮革のものが1400グラム前後、人工皮革製は1200グラム前後。それに教科書などを入れると6キロあまりになる。

 そのため、「少しでも軽いランドセルがほしい」というニーズが高まっているのだ。
 

イオンのランドセル型リュック「かるすぽ ラクルスタイル」(780グラム)=千葉県船橋市、米倉昭仁撮影

■リュック型が廃番になった理由

 20年以上前からランドセルを手掛けてきた流通大手イオン(千葉市)も、昨年から特に軽さを追求した「ラクルスタイル」シリーズをラインアップに加えた。

 従来製品は人工皮革で作られているのに対して、ラクルスタイルは環境に配慮した再生ポリエステルの生地を使用することで1キロ以下の重量を実現した。
 

昨年、イオンが発売した「ラクルスタイル ベーシックリュック」(現在は廃番)=千葉県船橋市、米倉昭仁撮影

 当初、ラクルスタイルは3モデルがあった。しかし、今年からは一般的なリュック型はなくなり、一番人気があった「ランドセル型リュック」のみを販売している。

 ランドセル型リュックに人気が集まった理由について、「ランドセルの形に近いほうが、使用イメージが湧きやすく、周囲とのなじみもよいと考える方が多かったのではないか」と同社は推察する。

 人工皮革だった「かぶせ」部分も再生ポリエステルにし、さらなる軽量化を図った最新モデルの重量は780グラム。価格は2万7500円だ。

 生地には撥水加工が施され、雨水などが染み込まないようにしてある。ただ、ポリエステルの耐久性は人工皮革より劣る部分があるという。
 

■手を挙げたモンベル

 ランドセルの重さとともに懸念されていたのが、「高価格化」だ。

 日本鞄協会・ランドセル工業会によると、23年のランドセルの平均購入金額は5万9138円。18年と比較して約8千円も増えた。

 ランドセルの価格上昇が気になっていた富山県立山町の舟橋貴之町長は、新入生に通学用リュックを無償配布する方針を決定。

 通学用リュックを開発・製造する業者を公募したところ、17年から同町と包括連携協定を結んでいたアウトドア用品大手のモンベル(大阪市)が手を挙げ、審査の結果、同社に決まった。

 そしてモンベルは2年前、通学用リュック「わんパック」を開発。重さは930グラム。一般販売価格は1万4850円だ。
 

モンベルの「わんパック」。容量は14、15、16リットルの3種類がある。カラーは各4色=東京都内、米倉昭仁撮影

 町が求めたのは、ランドセルと同等の機能と耐久性。これに対して、モンベル広報部の黒瀬美保係長は、

「われわれは、登山用品の開発で培ったものづくりの技術のなかで、素材や機能を熟知しています。そのなかで、リュックとしての耐久性と軽量性、価格面でのバランスが難しかった」

 と振り返る。

モンベルの「わんパック」。上部はダブルジッパーで、ランドセルと同様に大きく開く=東京都内、米倉昭仁撮影

 生地の強度は、糸の素材や太さ(デニール数)によって変わってくる。

 例えば、防弾ベストなどにも使われるケブラー繊維をナイロンの生地に織り込めば、薄くても丈夫な製品ができるが、高価なものになってしまう。単純にナイロンの糸を太くすれば、強度は増すが、重量は増える。

 軽さと強度、コストのバランスを考えて生地を決め、さらにスマホケースなどに使われるウレタン樹脂をコーティングして、耐久性と耐水性を確保した。レインカバーも標準装備だ。

 そして、中のものを出し入れしやすいランドセルの利点を継承し、リュックの上部に2本のジッパーをつけて、ワンアクションでフルオープンできるようにした。

 ショルダーベルトも子どもの体にかかる負担が減るように、本体への取り付け方や形状、中のクッションの材質や厚み、それを覆う生地の縫い合わせ方まで工夫。

 登山用ザックの開発で培った技術が生かされたという。
 

■「高い」「重い」イメージは変わるか

 22年10月に同町での「完成お披露目」が報じられると、全国から問い合わせがあった。

 山形県村山市や長野県駒ケ根市なども同社の通学用リュックを採用し、翌春には新1年生に配布されたという。

 立山町教委によると、保護者から「軽くて使い勝手がいい」という好評だという。
 

 今年6月には、作業服で知られるワークマン(群馬県伊勢崎市)もランドセル型リュック「ESスチューデントデイパック」を発売する予定にしている。ナイロン製で、価格は8800円だ。

 このような製品が広まれば、「高くて重い」というランドセルのイメージは変わっていくのかもしれない。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)