NHK連続テレビ小説「虎に翼」で主人公の猪爪寅子を演じる伊藤沙莉

 NHK連続テレビ小説「虎に翼」(NHK総合・月曜〜土曜午前8時)が好調だ。本作は、日本初の女性弁護士で、後に裁判官を務めた三淵嘉子さん(1914〜84年)の人生をモデルとしたオリジナルストーリー。主人公の猪爪寅子を俳優の伊藤沙莉が演じている。好調の理由は、あるキャッチャーな決めゼリフにあるという。

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 4月1日から始まった朝ドラ「虎に翼」、注目の第1週「女賢しくて牛売り損なう?」(4月1〜5日)の週間平均視聴率(世帯)は16.2%(ビデオリサーチ調べから算出、関東地区)だった。

 直近の朝ドラの視聴率を振り返ると、趣里主演の「ブギウギ」(2023年度後期)の16.0%、神木隆之介・浜辺美波が夫婦を演じた「らんまん」(2023年前期)の15.4%、福原遥主演の「舞いあがれ!」(2022年後期)の15.9%を上回る数字をはじき出し、好スタートを切っている。

■従来の朝ドラと異なる点

 物語は伊藤沙莉演じる主人公・猪爪寅子の女学校生時代から始まるが、今回の朝ドラ、主人公の子どものころを演じる子役がいない展開だ。ドラマウオッチャーの中村裕一氏は、「子役がいないことによる『スピーディーな展開』が視聴率好調の理由のひとつにあるのでは」と推察する。

「主人公の幼少期から描くことが多かった従来の朝ドラと異なり、初回から成長した主人公が登場してドラマが進んでいくスピーディーな展開が、多くの視聴者に新鮮に受け取られたのではないでしょうか」

 過去の朝ドラ、例えば「ちむどんどん」(2022年度前期)では、黒島結菜、川口春奈、竜星涼、上白石萌歌の兄妹4人の子ども時代を、4人の子役たちが演じていた。どの子役たちも、成長したのちの登場人物の演者たちに絶妙に似ていて、子役時代はそれはそれで楽しめるのだが、確かに、子役のいない「虎に翼」はテンポがいい。

 その魅力は、オープニングのアニメーション映像にもあると中村氏は話す。

「シシヤマザキさんによるオープニングも魅力的です。寅子が生涯をかけて追求していくであろう法の『精神』と、シシさんの表現する『身体性』が混ざり合い、人の“温もり”が感じられるアニメーションが朝の雰囲気にマッチしており、ドラマの盛り上がりを予感させます」

 シシヤマザキさんによるオープニングのアニメーションは、「ロトスコープアニメーション」という技法で、実際に動いている映像を水彩画のように仕上げるものだそう。米津玄師の主題歌「さよーならまたいつか!」と共に、とても軽快で明るい。「虎に翼」の世界観に、そんなところからも引き込まれる人が多いのだろう。

■主人公・寅子の人気の理由

 第1週目にして、すでに流行語の呼び声高い、主人公・寅子の「はて?」も大きな魅力のひとつと中村氏は分析する。

 寅子が疑問に感じたり、納得のいかない事象に対し、「はて?」と言う。伊藤沙莉の独特のハスキーな声での「はて?」はいい。

「寅子の『はて?』というセリフもキャッチーです。“男はこうあるべき、女はこうあるべき“といった、それまで当たり前のように蔓延していたいびつな価値観を、ドラマを見る人も一歩立ち止まって考えさせる効果がある、非常に優秀なセリフだと思います」

 好調な「虎に翼」だが、まだまだ始まったばかり。そんな中、第2週から登場した寅子の同級生・山田よねから「目が離せない」と中村氏はいう。

映画「CHAIN」の舞台挨拶のときの女優・土居志央梨(写真左)。朝ドラ「虎に翼」では背広にネクタイ姿だ=21年10月21日、京都市左京区京都芸術大学内の京都・春秋座

「まだ序盤ではありますが、寅子の同級生・山田よね役の土居志央梨さんが、非常に気になります。男性のように背広にネクタイというファッションに身を包み、クラスの誰とも交わらない一匹狼的なキャラクター。そのクセの強さに、登場した瞬間から釘づけです。

 どんなバックグラウンドを持っているのか、ドラマの中でどういう役割を果たし、どんな道を歩んでいくのか非常に楽しみです」

 確かに、山田よねは登場からキャラ濃いめだ。そのほか、中村氏があげる注目キャストは2人。

「これから登場してくるキャラクターでは、法曹界の重鎮の父を持つ裁判官・星航一を演じる岡田将生さん、のちに寅子の上司となり家庭裁判所の設立準備にまい進する多岐川幸四郎役の滝藤賢一さんが気になります。二人とも確かな演技力と表現力でさまざまなドラマを支える俳優なので、伊藤沙莉さんとどんな芝居を見せてくれるのか、今から注目しています」

 最後に、中村氏に今後の展開で「虎に翼」に期待するところを聞いた。

「この作品は昭和初期を舞台に、男尊女卑の社会や価値観に疑問を投げかけ、立ち向かう寅子の姿を通じて“普通”とは何か、“幸せ”とは何かという、私たち人間にとって根源的な問いを提示しているように思います。なので、フェミニズムの観点で見ることはもちろんですが、思想・良心の自由、言論の自由といった、男女問わず考えるべきテーマ、そして私たち一人一人の生き方にまで思いを馳せることによって、より広がりと深みのあるドラマとして心に刻まれることに期待したいです」

 まだ始まったばかりの「虎に翼」。すでに勢いを感じるのは、「はて?」と言い困難に立ち向かう寅子に毎朝元気をもらっているからかもしれない。「はて?」はきっと、翼を与える魔法なのだ。

(AERA dot.編集部・太田裕子)