ほぼ毎週末、東京・大井競馬場の駐車場で開かれているフリーマーケットに、多くの外国人が訪れている。日用品からコレクターズアイテムまで、さまざまな商品が並ぶ「Tokyo City Flea Market」は、日本最大級のフリマだ。運営会社「東京リサイクル運動市民の会」によると、出店数は約400店、1日の来場者は約4000人。そのうち3〜4割が外国人で、特に欧米人が多いという。彼らは何に魅力を感じてこの場所に集まってくるのか、現地を訪ねた。
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パソコンのパーツ、グローブ、傘、布の切れ端……。シートの上に山積みにされているガラクタのような品に、20人ほどが群がるように集まり、それぞれが熱心に何かを探している。そのなかに、白いブラウスを身に着けた外国人の女性がいた。
話を聞こうと声をかけると、
「何か日本っぽいものを探すのを手伝ってくれませんか。いいものがあれば買いたいんです」
と、逆に「お宝さがし」を頼まれた。
カトリーナさんは昨日、ポーランドから日本に到着したばかり。先ほど購入したばかりのオレンジ色の布を、うれしそうに広げた。
「触った感じが絹っぽくてすてきです。テーブルクロスとかクッションの材料に使えると思うんです」
日本の古い文化に興味があり、インターネットでフリマの存在を知った。半年前に訪れた際には、明治時代の書道の教科書を購入したという。
そんなカトリーナさんの目にとまったのは、金色に塗られた「おちょこ」。大小さまざまなおちょこが20個ほど、小さな段ボール箱に雑然と入れられていた。
「小さなものですが、見ているととても面白いです」
鶴と亀の絵柄や文字が描かれたもののなかから、カトリーナさんが「これがほしいです。この模様は天皇のしるしですよね」と取り出したものには、「菊花紋章」に似たデザインが描かれていた。
店主に値段を尋ねると、2個で400円。「買ってしまいました」とカトリーナさんは満面の笑みを浮かべた。
■本場フランスよりも「すごい」
家庭などで不用となった品物と一緒に、古美術品が並んでいる店があった。
それを目当てにやってきたのは、おしゃれな白いジャケットを身につけたフランス人のニュイさん。2週間前に来日し、慶応義塾大学で美術史を学んでいるという。
手さげ袋には、巻物のようなものが数本入っていた。
「お見せしましょう」と自慢げに広げてくれたのは、大きな太陽を背景に舞うツルが描かれた掛け軸。安いものだと千円ほどで買えるという。
フリマ、いわゆる「蚤(のみ)の市」はフランスが本場だが、これほどの規模のものはほとんどないらしい。
「フランスのフリマは、数は多いのですが、どこも値段が高すぎます。ここは品数が豊富なうえ、すべてがとても安い。だから、これも欲しい、あれも欲しいって感じで」
と、ニュイさんは興奮気味に語った。
観光客ではなく、日本で暮らす外国人も訪れる。来日して10年になるインド人のピヨシさんは、古銭のコレクションが趣味だという。
日本に来て間もないころ、職場の同僚からこのフリマを教えられて通うようになった。
「古銭だけでなく、仏像のような本格的な古美術品を購入することもあります」
ところがこの日、ピヨシさんの手に握られていたのは「スチールペイント」と書かれたチューブの箱だった。
「ははは、車の傷を修理するのに便利だと思って、たまたま目にして買ったんです。電気のコード類も非常に安く買えますよ」
■日本人と「絆」ができる場所
男性化粧品を売っていた店で、盛んに値切り交渉をしているインド人の若者グループにも出会った。彼らも日本で働いているという。
店主は「無理だよ、絶対無理。この値段で300円しか儲けが出ないんだから」と声のトーンを上げるが、彼らはまったく引かない。ただ、お互いの表情には、やさしさが感じられる。
最後に「じゃあ、またね」と店主は声をかけた。彼らの一人は常連客だという。
「今日は友だちを連れてきたんです。ぼくらにとってここはお手ごろ価格だし、品物も豊富です。それに日本人と『絆』ができる」
「えっ、絆ですか?」と記者が聞き返すと、「ええ、そうです。ここで買い物をすると、ほかの場所では体験できない多くの絆が日本人とできます」。
今日はどんな買い物をしたのか。手にしていたビニール袋を見せてもらうと、人気漫画「SPY×FAMILY」の主人公の一人、アーニャのぬいぐるみなどが出てきた。
古美術品とともにアニメグッズも外国人に人気で、店先を眺めながら「カワイイ」を連発するカナダ人女性や、小さなキャラクターグッズをたくさん手に入れたイギリス人の少年にも出会った。
並べられた古いフィルムカメラを興味深そうに眺めていたテオさんは、世界最高峰のモーターレース「F1」の日本グランプリを撮影するために、米サンフランシスコからやってきたという。
「以前、日本を訪れた友人がこのフリマのことを話してくれて、カメラ機材を見つけるのによい場所だと言っていました。実際に来てみると、クールな品物がずらりと並んでいて、想像していたよりもはるかにすばらしい。実に楽しいです」
と、ご満悦だ。
■豪州から訪れる人が多い理由
ちなみに、今回出会った外国人で最も多かったのは、これから冬を迎える豪州からの観光客。話をした5人のうち1人が、オーストラリア人だった。
彼らは「春スキーを楽しみに白馬に滞在していた」「旅行をするのによい季節なので、桜を見にあちこち行ってみたい」などと話していたが、理由はそれだけではないらしい。
「今、賢いオーストラリア人はみんな日本に来ますよ。理由は歴史的な円安です」
と、メルボルンからやってきたナイトさんは言う。
豪ドルの為替レートは約100円で、20年と比較して約35%も値上がりしている。
「なので、どの品物もすばらしく安い。私たちは王様になったような気分で買い物を楽しんでいます」
ナイトさんはこのフリマのことをユーチューブで知った。SNS、特に動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を見て来た人も多かったが、今回取材をした半数は友人などからの口コミでフリマの評判を聞いたという。
その一人、フランス人のアーノルドさんは、こう言って笑った。
「私が訪れた国のなかでは最高のフリマです。なので、あなたが記事を書いて、これ以上情報を広めてほしくありません。ここはすでに『ガイジン』でいっぱいです」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)