来年4月開幕の大阪・関西万博まで1年を切る中、「建設費・運営費の上振れ」「海外パビリオンの建設の遅れ」など、万博開催への不安や批判の声が相次いでいますが、「交通渋滞」という私たちの生活に直結する重大な課題が浮上しています。取材を進めると、会場となる人工島「夢洲」特有の問題が浮かび上がり、関係者からは「20年以上前から指摘しているのに、なぜここに誘致したのか」という怒りの声も聞かれました。

■予想来場者はディズニーランド・シーの約2倍 最大6000両の車両が会場に…

読売テレビニュース

 会場となるのは、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲ですが、万博の開催期間中には最大23万人近くが来場すると想定されています。1日あたりの平均来場者数は約15万人と見込まれ、これは2023年度の東京ディズニーランドとディズニーシーを合わせた1日あたりの平均来場者数の約2倍にあたります。

 しかし、夢洲につながっている道路は北側の夢舞大橋と、東側の夢咲トンネルの2つだけ。鉄道で夢洲に入ることができるのは、夢咲トンネルの車線と並走する形で延伸工事が進められている大阪メトロ中央線の1路線のみです。

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 その代わりに用意されるのが「シャトルバス」で、JR大阪駅や新大阪・なんば・天王寺などの主要駅のほか、尼崎や堺など3か所に設けられる専用駐車場などから毎日、多くのシャトルバスが運行されます。

 シャトルバスなどが会場に出入りできるルートは2つしかなく、万博会場に近い北側の夢洲にある高速の出口あたりから、渋滞が発生することが懸念されています。

 さらに、万博の期間中には、カジノを含む統合型リゾート=「IR」の工事も本格化する見込みで、1日に最大で6000台もの車両が夢洲に殺到する可能性があるのです。

■会場そばに物流拠点のコンテナターミナル 港湾関係者は怒り「20年前から指摘」

大阪港湾労働組合協議会 三宅肇 事務局長

 万博による「交通の混乱」に怒りをあらわにするのが、港湾関係者です。

 大阪港湾労働組合協議会 三宅肇事務局長

「なんでここに誘致したのか。渋滞の問題は今に始まるということではなくて、20年前から我々は指摘して対策を申し上げたのに。とにかく道路が狭い。(夢洲には)2本しかルートがない。迷惑をこうむっているのはそこで働く港湾労働者とそれに関わる人たちだ」

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 会場のすぐそばには、甲子園球場約15個分にも及ぶ広大なコンテナターミナルが広がっています。ここは関西の主要な物流拠点の1つで、食料や日用品なども取り扱っています。

 渋滞が頻発すれば、私たちの生活に影響を及ぼしかねないのです。

 三宅事務局長は、「開催期間が半年間あり、台風シーズンも重なり、事故が起こったらどうするのか。万博をどうしてもやりたいんだったら、今、我々が抱えている港湾の物流に対して、きっちりともう少し真剣に対応を考えて頂きたい」と訴えます。

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 会場建設を担う事業者も、渋滞はさらなる工期の遅れにつながりかねないと警戒します。

 ある工事関係者は、「内装工事や展示物の搬入が10月くらいが一番ピークになると予想される。コンテナターミナルの車が今も昼間に多く走っている中、そことの兼ね合いが心配なところ」と打ち明けました。

■阪神高速の渋滞も懸念…期間中は時差出勤・テレワークの協力要請も

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 渋滞が懸念されるのは、会場付近だけではありません。

 湾岸部と大阪市中心部、東大阪市を結ぶ阪神高速・東大阪線では、すでに朝のラッシュ時は、平均で5キロ程度の渋滞が発生しています。ここに、万博会場に向かう車両が加わることで渋滞の深刻化が懸念されているのです。

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 大阪府などは、交通の混雑を緩和させるため、万博の期間中、企業に対して時差出勤やテレワークへの協力を要請する方針です。

 ただ、街の人に聞くと、「個人的には無理です。お客さんとの兼ね合いもある」「万博だからねという気持ちにはなるのかもしれないですけど…」などといった不安の声が聞かれました。万博のために企業の協力がどこまで得られるかは不透明です。

 こうした懸念に対して、大阪府の吉村洋文知事は「どの時点でどの時間帯にどういう場所が混雑するのかという予測を詳細に立てて、その対策を打つことが重要。万博で多くの方がいらっしゃることと社会の活動は両立できると考えています」と強調していますが、万博の成功には、私たちの日常生活とを両立させるための有効な対策が求められています。

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※5月6日に後編として「万博開催の課題:通行止めで“孤立”の懸念…災害への備えは」を配信予定です。