3月末で事務所を退所したキンタロー。

 3月25日、キンタロー。が3月末をもって所属事務所の松竹芸能を退所し、独立することを発表した。

 キンタロー。は、デビュー直後にAKB48の前田敦子のものまねで注目され、元ダンス講師の経歴を生かしてバラエティ番組の社交ダンス企画でも活躍。テレビやSNSで破壊力抜群の新作ものまねネタを発表するたびに大反響を巻き起こしてきた。

 最近、彼女のように芸人が事務所を離れて独立するケースが増えている。『世界の果てまでイッテQ!』に出演していたANZEN漫才のみやぞんも、昨年末に浅井企画を退所した。ハリセンボンの2人も昨年末に吉本興業から独立しているし、尼神インターの誠子も3月にコンビを解散して事務所を離れた。

 通常、芸人と事務所は契約関係で成り立っている。芸人が十分な量の仕事を得られていない場合、その状況に満足できない芸人の方から離れていくこともあれば、事務所側が芸人に解雇を言い渡す場合もある。

 しかし、前述のケースでは、それなりに仕事に恵まれていて収入もあるように思われる人気芸人たちが、続々と独立を選んでいる。そのような動きが目立っているのはなぜなのか。

 大手の芸能事務所が得意としているのは、テレビやライブ中心の芸能活動のマネジメントである。一昔前までは、芸人の仕事と言えば、テレビを中心としたメディア出演と、人前に出るライブや営業の仕事だった。

■テレビの仕事への影響は?

 特に、テレビの仕事は影響力が大きいし、MCクラスになればギャラも高い。テレビの仕事で顔と名前を売ることで、営業に呼ばれる機会も増えていく。これらを軸にして活動を続ける場合には、芸能事務所に所属するメリットが大きい。

 だが、いまや芸人が活動する場は多様化している。YouTubeのような動画メディアはもちろん、SNSなどを活用した発信をすることもできる。それ以外にも、趣味や特技を生かした活動を行っている芸人は多い。

 芸人自身が本当にやりたいことを突き詰めていくと、事務所の方針とは合わないことも出てくる。芸人が自らの意志で独立を選ぶのは、そういう背景があるからだ。

 かつての芸能界では、事務所を辞めたタレントは「干される」ということがあった。所属タレントが安易に独立してしまうことを防ぐために、出演先や移籍先に圧力をかけて、出演や移籍ができないようにする、ということが半ば公然と行われていた。

 しかし、最近では、公正取引委員会が芸能事務所のそのような動きは「優越的地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するという見解をまとめたことで、業界の空気が変わってきた。少なくとも、あからさまに圧力をかけられるようなケースは減ってきている。

 一昔前の芸能界でそういう慣習がまかり通っていたのは、芸能人が有名になるための手段がテレビに出ることしかなかったからだ。テレビの影響力が圧倒的に大きい時代には、そこに出るために事務所に所属するというのが唯一の選択肢だった。

■「辞めたらテレビに出られなくなる」は過去の話

 しかし、今では芸能の才能がある人間が自分を表現するための場所がテレビ以外にもたくさんある。「事務所を辞めたらテレビに出られなくなるぞ」という脅し文句がもはや機能しなくなっている。

 もちろん、最近では既存の芸能事務所もYouTubeをはじめとする新しい形の芸能活動のサポートをしようとはしているのだが、それが一番の得意分野というわけではないので、どうしても限界はある。そういうことがきっかけで芸人たちは自らの足で歩いていくことを選ぶ。

 なかやまきんに君、みやぞん、キンタロー。など、ここ最近で独立を果たした芸人は、いずれも強烈なキャラクターと常人離れした特技を持っていて、才能にあふれた者ばかりだ。事務所を離れても彼らの未来は明るいだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)