笑顔がチャーミングな山本彩さん。山本さんにとって、2023年は「もう一度歩き始めた年」だという(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 中学生のときにバンドのギター&ボーカルとしてメジャーデビュー後、NMB48のメンバーになり、キャプテンを務めた山本彩(やまもと・さやか)さん(30)。グループ卒業後は、シンガー・ソングライターとして活躍している。アイドル時代からずっと大切にしているものがある。

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■2023年は「もう一度歩き始めた年」

 休養期間を経て、2023年は3年ぶりに4枚目のアルバム「&」をリリース、2年ぶりのツアーを行った。「もう一度歩き始めた年」だという。

「2023年はいったんリセットしてから、もう一度歩き始めた年。前半は活動を再開したことに対するプレッシャーや不安が大きかったんですが、ステージに立つことによって、いったん遠くに離れたように感じたファンの方たちとの距離をより近く感じられるようになり、絆が深まったと思いました。今はもっと楽しくなりそうだなというワクワク感が強いです。振り返ってみると、その期間があったから良かったと思えることがたくさんある。私はずっとしっかりと休むという選択肢を取ってこなかったので、心身ともに立ち止まることの重要さを身をもって実感できました」

 休養した経験は、ターニングポイントになった。

■ライブをしている姿が浮かんだ

「2021年の活動休止は、いきなりぷつんと切れてしまったような状況だったので、落ち込んで、情報をシャットアウトしていた時期がありました。でも、『またライブが見たい』という小さな気持ちから始まって、徐々に「最近はどんな音楽が聴かれてるんだろう」とか、興味が広がっていった。そうすると自分がライブをしている姿が思い浮かんだんです。『みんな待ってくれてるのかな』と思うようになって」

 きっかけは、いつも音楽だったという。

「休養期間も、ソロになる直前のタイミングも、人生のターニングポイントにはいつも音楽がありました。いろいろなお仕事をやらせてもらっていますが、私の核はやっぱり音楽。喜びを感じるのも悩むのも、音楽のことなんです。

 それが苦しくなることもありますが、それだけ自分の中で大きい存在なんだと受け止めています。普段音楽を聴いていても、 自分のメンタルの状況によって『めっちゃ良い曲やな』って思って、曲を作る後押しになることがあれば、『こんないい曲は自分には書けへんな、この人は天才やな』と思って気分が落ちてしまうこともあります。表裏一体です」

山本彩さん(撮影/写真映像部・高野楓菜 hair & make up chim styling Samu Kashiwagi costume AKIKO AOKI)

■アイドルを選んだ時点で腹を括った

 30歳を迎え、音楽活動のキャリアは約15年間に及ぶ。音楽の魅力をどう捉えているのだろうか。

「歌詞、演奏、レコーディング、楽器……どれひとつ取っても、音楽には無限の表現方法があります。

 言葉で伝えることが得意ではない自分からすると、音楽で自分の気持ちが表現できるのは助かるし、楽しい。どういう思いで書いた曲かを説明するのもあまり得意じゃないので、それを説明したとしてもしなかったとしても、聴き手が自由に受け取ることができる。双方にとって『自由なものであること』が自分にとってはちょうどいいんです」

 アイドルだった時代、音楽よりもルックスやキャラクターが注目されることもあった。今も「そう感じることは少なくない」というが、「アイドル」を選んだ時点で、腹は括っていたのだという。

「私がどんな人間だろうが、音楽を聴いてほしいという気持ちが大きいです。でも、ルックスやキャラクターから、音楽に入ってきてくれる方も少なからずいます。今の自分を形成しているのは、アイドル時代の経験がほとんど。自分の芯になっています。

『音楽をやっててくれてありがとう』とか『この曲を聴いてすごく励まされた』という声をいただくと、これまで私がやってきたことは、ちゃんと意味を生んでいたんだなと思える。こういうことを感じているのは自分だけじゃないんだと感じて、気持ちが楽になります」

■100人のうち1人に刺さる曲

 活動再開後の初のアルバム「&」に収録された、自身の劣等感がモチベーションになっていることを歌った「劣等感」には特に大きな反響があったという。

「『彩ちゃんもそんなこと思うんだね』と結構言われて、『私はみんなにどう映ってるんだろう?』って思ったこともありました(笑)。でも、そういう人間らしさで共感が得られたところもあったので、本音を出すことも大切なんだなと思いました。

メジャーアーティストとしては、万人に共感してもらえる曲を書くことも大切だと思うんですが、100人のうち99人にはよくわからないと思われても、1人に刺さる曲にも意義があると思う。そういうことも大切にしたいです」

 劣等感について、こう語った。

「劣等感にこそ、成長させてもらってきた」と話してくれた山本彩さん(撮影/写真映像部・高野楓菜 hair & make up chim styling Samu Kashiwagi costume AKIKO AOKI)

■そこでまた音楽に救われる

「グループ時代のほうが、誰かと自分を比較することは多かったはずなのに、劣等感は今のほうが強くなっているんです。約8年間をかけてアイドルとしての自信を培ったので、同じぐらいの期間をかけないと、ソロとしての自信は持てないだろうと思います。

 ソロになってから5年が経ちますが、思っていた以上に自分自身のふがいなさを感じる場面が多いんです。グループのときは周りに助けられていたのが、そういう機会が少ないので、そう感じることが多いのかもしれません。すべてが自分の責任になってくるので、つい自分を責めてしまうんです。

 ただ、そういう劣等感にこそ、生かされてきたのかな、成長させてもらってきたのかな、と思います。だから、劣等感がなくなるときは伸びしろがなくなるとき。きっと、第一線で活躍されている方もそういうところがあるに違いないと思って、自分を鼓舞しています。

 劣等感を感じる時ほど創作意欲が湧くこともあるんです。矛盾を感じながらも、そこでまた音楽に救われる。気持ちを吐きだす場所があることに、助けられているな、と感じています」

(構成/ライター・小松香里)