権威ある漫画賞・米国アイズナー賞を4度受賞するなど、日本のみならず世界中から支持されているホラー漫画の巨匠・伊藤潤二さんの漫画原稿(原画)や描き下ろし作品が鑑賞できる「伊藤潤二展 誘惑 JUNJI ITO EXHIBITION:ENCHATMENT」が、東京都の世田谷文学館で開催中だ(9月1日まで)。

■怖くて怖くて仕方なくなる

©伊藤潤二 
第1話 うずまきマニア(その一)漫画原稿 1998週刊ビックコミックスピリッツ第7号 小学館(撮影 写真映像部・松永卓也)

 伊藤作品の唯一無二の特徴といえば、誰もが一度は遭遇する「なさそうで、実はよくある」シチュエーションに、怪しい「美女」や「美男子」が現れて、あっという間に恐ろしい異世界へ引きずり込まれてしまう世界観にある。600点にものぼる作品の展示は「美醜」「日常に潜む恐怖」「怪画」「伊藤潤二」の4章に分けて構成されている。

🄫伊藤潤二 製作:藤本圭紀
「富江」コラボレーション・スタチュー 本展覧会のために藤本圭紀氏が製作し伊藤潤二さんが彩色した新作フィギュア(撮影 写真映像部・松永卓也)

「第1章 美醜」では、連載誌の表紙や単行本のカバーのために描かれた色鮮やかなカラー作品が並ぶ。代表作『富江』をはじめ、作品に登場する美女たちの美しさに感嘆していると、「第2章 日常に潜む世界」では、肝を冷やすことになる。ネタバレになるので、詳細は直接足を運んで確かめていただければと思うが……特に「木造の怪」の原画が凄い。これを見たら「当分、温泉旅館には泊まれない」ことを断言する。和風建築にある「あるもの」が怖くて怖くて仕方なくなるはずだ。

■恐怖は細部に宿る

会場の世田谷文学館では、Tシャツやハンドタオルなどの展覧会オリジナルグッズの販売も。ここでしか買えないものも多数用意されている。       (撮影 写真映像部・松永卓也)

「第3章 怪画」では、『双一』シリーズの主人公である双一が描かれた原画が、「第4章 伊藤潤二」では、漫画家・伊藤潤二自身が登場する作品の原画が並び、その迫力と世界観に圧倒される。

 本展覧会を鑑賞してつくづく感じるのは「恐怖は細部に宿る」ということ。伊藤潤二によって描かれた眼球、頭、血管、皮膚といった人の器官があまりにリアルすぎて、見つめていると二日酔いの日の朝のような気分になってくる。そして人間は本来、非常にグロテスクなものの集合体なんだと気づかされる。伊藤潤二ファンはもちろんのこと、猛暑が予想される今夏、背筋の凍る思いを敢えて体感したい方にもおすすめの展覧会だ。

展覧会開催にあたり取材に応じた伊藤潤二さん。「描き下ろしの作品や『富江』のフィギュアなど、ここで初めて公開するものもあります。展覧会グッズもとても充実しているのでぜひ足を運んでください」(撮影 写真映像部・松永卓也)

◎伊藤潤二(いとう・じゅんじ)

1963年、岐阜県中津川市生まれ。漫画家。 歯科技工士として勤務する傍ら、雑誌「月刊ハロウィン」に初投稿した『富江』が「楳図賞」にて佳作を受賞しデビュー。以来、『首吊り気球』『死びとの恋わずらい』『うずまき』ほか発表。2019年『フランケンシュタイン』でアイズナー賞「最優秀コミカライズ作品賞」を受賞し、2021年『地獄星レミナ』にて「最優秀アジア作品賞」、同作と『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』が「Best Writer / Artist部門」を同時受賞、2022年『死びとの恋わずらい』にて通算4度目の同賞受賞。2023年、アングレーム国際漫画祭にて「特別栄誉賞」受賞。その他、受賞多数。国内外問わず読者から絶大な支持を得ている。

「伊藤潤二展 誘惑 JUNJI ITO EXHIBITION:ENCHATMENT」

2024年4月27日(土)〜9月1日(日)

会場名:世田谷文学館2階展示室

https://jhorrorpj.exhibit.jp/jiee/

(取材・文 工藤早春)

*AERAオンライン限定記事