韓国人より外国人の方が多く、日本人はまだ少ない「平沢国際市場」の通り

 韓国で今、穴場の観光スポットと言われている場所がある。外国人が多く、異国情緒あふれる街だという。一昨年の雑踏事故の影響でソウル・梨泰院(イテウォン)からにぎわいが消えた今、新たな人気観光地として注目されている。

「平沢(ピョンテク)に第2の梨泰院(イテウォン)がつくられはじめている」

 という噂を耳にした。

■梨泰院がにぎわったのは米軍基地の影響

 ソウルから南に約70キロ、地下鉄で約1時間40分ほどの場所にある京畿(キョンギ)道の平沢市のことだ。それまで梨泰院にあった米軍基地が平沢への移転を2017年から始め、徐々に米軍関係者とその家族も平沢へ移っていき、22年に移転が完了すると、街中にかつての梨泰院のような雰囲気ができつつあるというのだ。

 もともと梨泰院に多くのソウルっ子や観光客が集まってにぎわうようになったのは、近くにあった米軍基地の影響が大きい。街には軍関係者向けの店や、外国人やアメリカ系の料理店などが多かった。彼らの好み、サイズに合った衣類、生活用品、ひいては両替所などが並び、そんな需要をベースに梨泰院は増殖した。ソウルで最も外国人が多く異国情緒あふれる街、ハロウィーンといえば梨泰院、という風潮もそのなかでつくられていった。

 それが22年10月のハロウィーンの夜に起きた雑踏事故で一変した。金曜の午後から日曜の朝にかけ、ものすごい数の人でにぎわっていた街の活気は消え、それに引きずられるように観光客の足も遠ざかった。ドラマ「梨泰院クラス」に熱中した日本人も敬遠気味だという。

 梨泰院で輸入雑貨店を開くオーナー(48)は、「お客さんの数は最盛期の半分にも満たない」と天を仰ぐ。実際、撤退した店も多く、「賃貸」と書かれた店舗があちこちに目立つ。一方で、梨泰院に代わる街ができたのかというと、それも見当たらない。最近、ホットプレースとして騒がれている聖水(ソンス)や弘大(ホンデ)などは、若者が楽しめるというだけで異国情緒はない。外国のレストランが多いわけでもない。

 そうした状況のなかで、平沢の話が出てきたのだ。

■飲食店で英語は必須

 のどかな4月の最後の週、筆者は「平沢のアメリカンストリート」と呼ばれる「安亭里ロデオ通り」を訪れた。「安亭里」は地下鉄1号線「平沢」駅からバスで20分ほど。平沢駅の周りは典型的な田舎の景色だが、米軍基地である「キャンプ・ハンフリーズ」付近まで行くと、安亭里ロデオ通りが出現し、空気がまったく変わる。

平沢「安亭里ロデオ通り」。 昼間は静かだが、夜になると外国人と韓国人が集まる繁華街になる

 韓国語よりも英語の看板のほうが多い。駐車場の案内文も英語だ。アメリカ風のハンバーガーやピザ、ステーキ専門店があちこちにあり、アメリカ人に合わせた生活用品店もあった。街には韓国人より外国人のほうが多く、「米軍人専用」と書かれたパブもある。

 筆者はハンバーガー店に入り、ランチ用のセットメニューを注文した。ハンバーガーは当然アメリカ風で、メニューも英語のみ。別のテーブルでは、西洋人の女性が娘らしき女の子と一緒にメニューを見ていた。韓国人の店員は彼女に呼ばれると、流暢(りゅうちょう)な英語で注文をとる。客のほとんどが外国人なので、ここで英語は必須だ。

 こんな動きに敏感な韓国人もいて、彼らは盛んに写真を撮っていた。街を歩く外国人も、誰もが明るい顔をしていたし、街全体がきれいだった。平沢市でもこの街を観光地にしていく一環で「芸術家広場」をつくった。アメリカと韓国両方の情緒を同時に満喫できることを狙っているのだろうか。

 しかしこの安亭里ロデオ通りは、それほど華やかでも広くもない。あまり期待しすぎると「しょぼい」と感じてしまうかもしれない。それなら「平沢第3の梨泰院通り」へ行くといい。ここは、地下鉄1号線平沢駅からソウル方向に少し進んだ松炭(ソンタン)駅が最寄り駅となる。近くに「平沢国際市場」がある。

 周辺に米軍基地があり、やはりアメリカ人に合わせた街ができあがっている。街には軍服のアメリカ人など外国人が多い。街の規模も「安亭里ロデオ通り」とは比べ物にならないほど大きく、店舗も見どころも多い。韓国風の店舗とアメリカ風の店舗が一体化した街というイメージだ。飲食店だけでなく、市場という名前にふさわしく、アメリカ人が好きそうな服やカバン、生活用品が売られている。

「ミリタリールック店舗」もそのひとつ。近くに空軍基地があるので、ミリタリーファッションの店があちこちにあった。ハリウッドの戦争映画で見たことがあるようなミリタリールックは出色。やってきた韓国人の男性も店の前で足を止め、服から視線を離せずにいた。

■有名店は「ソンタンプデチゲ」

 建物の外壁に飾られた華やかな壁画にはインスタ派が集まっていた。ニューヨークやロサンゼルスの街を連想させる壁画は映える。筆者も写真を撮りながらこの街を歩いたが、あっという間に1時間が過ぎていた。夜景はさらに華やかだと、街の人が教えてくれた。

「平沢国際市場」で最も人気のある壁画通り。 アメリカのニューヨークの路地に来たような雰囲気がある

 日本人にも人気の韓国料理「プデチゲ」が、この地域を代表する食べ物らしい。有名な「ソンタンプデチゲ」という専門店もあり、韓国人はもちろん、外国人も堪能し、写真を撮っていた。ただ、平沢はソウルから少し遠いためか、日本人や中国人観光客は多くない。穴場観光地でもある。

 平沢には梨泰院をそのまま移したかのような雰囲気を感じる。外国風の街だけでなく、外国人と韓国人が楽しく歩く姿が印象的で、かつての梨泰院を思い出して少し寂しく思った。梨泰院をめぐる時代の流れや、突然に起きた悲劇……。いまはかつての名声を平沢が受け継ごうとしているかに見える。

ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト)