就任3年目で結果を出してきた新庄監督

 一過性の勢いではないだろう。日本ハムが白星を積み重ね、リーグ2位につけている。
「新庄剛志監督が就任3年目となり、選手が質の高い野球を実践できるようになってきた。各ポジションで熾烈なレギュラー争いが繰り広げられ、日替わりヒーローが誕生しているのはチーム力が上がっている証です。クライマックスシリーズはもちろん、優勝争いに最後まで食らいつけば、頂点に立つチャンスが十分にあると思います」(北海道のテレビ関係者)

 一昨年に新庄監督が就任後の日本ハムは、勢いに乗って大勝することがあっても、負けが重なると歯止めが利かなくなる脆さを抱えていた。昨年7月には1984年以来39年ぶりの13連敗を喫した。とくに接戦に弱く、7戦連続1点差負けのプロ野球ワースト記録も作った。投手陣が勝負所で踏ん張れず、打線も塁上をにぎわすが決定打が出ない。若い選手が多いチームは経験値が絶対的に足りなかった。

 だが、今年は違う。貯金5で迎えた5月6日からの首位・ソフトバンク戦で同一カード3連敗を喫した。昨年までだったら重苦しい雰囲気が漂い、このままズルズル負けていたが、その後に5連勝とはい上がる。とくに5月12日のロッテ戦は、2点ビハインドの9回裏にロッテの守護神・益田直也を打ち崩し、集中打で3点をとってサヨナラ勝ち。チームの地力が上がっていることを感じさせた。

 新庄監督のタクトも冴えわたる。11日のロッテ戦では、打撃不振の万波中正を1番に抜擢すると、万波は3回と7回の得点機にタイムリーを放ち、復調のきっかけをつかんだ。15日の西武戦ではトリックプレーで試合の流れを引き寄せた。3点リードの2回2死一、三塁。一塁走者のスティーブンソンがフライング気味にスタートを切る。西武の左腕・隅田知一郎が一塁へ牽制球を投げると、挟殺プレーの間に三塁走者・水野達稀が本塁へ生還した。西武の一塁手がルーキーの村田怜音で、1軍に昇格して間もなかったことも踏まえたサインプレー。指揮官の洞察力が貴重な得点を生み出した。

    阪神時代、サヨナラ安打を打った新庄選手(右)と握手する野村監督

■野村監督と重なる「個より組織」の戦術

 日本ハムを取材するスポーツ紙記者は、こう分析する。

「新庄監督は、ああいった走塁でのトリックプレーに就任1年目から春季キャンプで重点的に取り組んできました。ただ、選手たちの頭と能力が追い付いていない部分があった。一朝一夕でできるものではなく、経験を積むことで精度が高まり、実戦での成功率が上がっています。新庄監督は走塁と守備の緻密さを求める。個々の能力でかなわなくても、組織で相手を倒す。亡くなった野村克也監督の指導論である『弱者の兵法』と重なる部分があります」

 野村氏は南海、ヤクルト、阪神、楽天で監督を務め、歴代5位の通算1565勝をマーク。ヤクルトではデータを駆使するID野球でリーグ優勝4度、日本一3度と黄金時代を築き、阪神、楽天でも後に優勝するチームの土台を作った。若手の育成や他球団でくすぶっていた選手を覚醒させる能力に定評があり、ヤクルト時代は小早川毅彦、田畑一也、廣田浩章、阪神は遠山奨志、成本年秀、楽天では山崎武司が「野村再生工場」で花を咲かせた。

 現役時代に野村監督から薫陶を受けた指導者は多い。ヤクルトの古田敦也元監督、真中満元監督、阪神の矢野燿大元監督、楽天・石井一久元監督、西武・辻発彦元監督、渡辺久信GM、中日の与田剛元監督、日本ハムの稲葉篤紀GM、昨年のWBCを制覇した侍ジャパンの栗山英樹前監督ら、豪華な顔ぶれが選手時代に指導を受けた。現役の指揮官でも、ヤクルト・高津臣吾監督、ロッテ・吉井理人監督、そして新庄監督がいる。

 新庄監督は阪神時代の99、00年と2年間、野村監督の下でプレーしている。当時の阪神を取材したスポーツ紙記者は振り返る。

「野村さんと新庄はキャラクターが全く違うので、野村さんが監督就任前は波長が合わないのではという懸念がありました。ところが、野村さんの考える野球に新庄が積極的に取り組み、非常に良好な関係性でした。春季キャンプで新庄の強肩を生かした投手兼任プランが大々的に報じられた時、野村さんが上機嫌だったことを覚えています。新庄は華やかなイメージが強いですが、陰で誰よりも練習するタイプでした。努力家で野球観が近い2人は似た者同士だったのかもしれません」

          野村監督を「しのぶ会」に参列した新庄監督

■「天国で喜んでいると思います」

 新庄監督の指導ぶりについて、かつて野村氏から指導を受けたプロ野球OBは、「新庄監督が取り組んでいる日本ハムの野球が、野村野球に最も近いと感じます」と語る。

「野村さんは適材適所でコンバートを積極的に行っていました。その成功例がヤクルト監督時代の飯田哲也、土橋勝征です。2人はセンターラインで不可欠な選手として活躍しました。新庄監督も中日で捕手だった郡司裕也を三塁、アリエル・マルティネスを一塁で起用して重宝している。ソフトバンクでくすぶっていた田中正義を守護神で覚醒させ、鈴木健矢にアンダースローへのフォーム改造を助言して素質開花のきっかけを与えるなど、再生工場の手腕も垣間見えます。野村さんと新庄監督の共通点は、頭を使わない選手を嫌がること。走塁と守備を大事にする野球も重なります。野村さんは天国から日本ハムの野球を見て喜んでいると思いますよ」

 21年2月に野村氏をしのぶ会が神宮球場で開催された時、日本ハムの監督就任が決まった新庄監督は野村氏が愛用していた形見のジャケットを仕立て直して参列。「プロ野球のお父さん」と野村さんに敬意を表し、「ファンあってのプロ野球。そして、メディアを通して(チームを)コントロールするという考えは、なるほどなあ、と。僕も今、監督として選手とファンを意識しながら発信しています」と語っていた。

 新庄監督が就任した22年は主力選手が退団し、戦力を見ると他球団に大きく見劣りしていた。チーム再建を託され、就任1年目は借金22、2年目の昨年も借金22で2年連続最下位に沈んだ。だが、若手が試合を重ねて成長するその戦いぶりはファンの心をつかんでいた。万波は昨季25本塁打でブレークし、今季は水野、田宮裕涼が台頭。投手陣は北山亘基、金村尚真、河野竜生が次々に頭角を現している。

「チームの伸びしろを考えた時、12球団で一番可能性を感じるのが日本ハムです。新庄監督の長期政権で黄金時代を築く可能性を感じます。今後は他球団のマークが厳しくなる中で真価を問われる。どのような野球を見せてくれるか楽しみですね」(スポーツ紙デスク)

 日本ハムの野球は面白い。パリーグの台風の目にとどまらず、主役になれるか。その戦いぶりが注目される。

(今川秀悟)