根本良輔幹事長

 つばさの党がついに警察の摘発を受けた。4月に行われた衆院東京15区補欠選挙で、同党の過激な「選挙活動」は他陣営や一般の有権者の選挙の自由を侵害したと判断された。他党をやみくもに攻撃した目的は何だったのか。攻撃の対象になった政党関係者の証言から事件がもたらした課題を報告する。

 5月 17日に公選法違反(自由妨害罪)で逮捕されたのは、つばさの党代表の黒川淳彦容疑者(45)、同補選の候補者だった幹事長の根本良輔容疑者(29)、運動員の杉田勇人容疑者(39)の3人。

 つばさの党 はいつからこのような選挙妨害行為をしていたのだろうか。

 参政党は一昨年から被害にあっていたという。

 同党の幹部が今春、東京・新橋で受けた妨害行為を振り返る。 

 演説をしていると、黒川容疑者らがお祭りのやぐらを運んできた。やぐらのあちこちには拡声器が何台も取り付けられ、そこから怒号が響き渡っていたという。

「品のないことを叫びまくっていました。有刺鉄線を体に巻きつけた男が我々の近くまで走り込んできました。あらゆる妨害のデパートでした」

 「何とかしてもらいたい」

 警察には何度か掛け合ってみたが、反応は鈍かったという。当時、札幌市で安倍総理大臣の街頭演説にやじを飛ばして警察に排除された男女が賠償を求めて起こした裁判が続いていた。札幌地裁判決で、女性の勝訴が言い渡された後でもあった。

「政治への介入になってはいけないと、警察は排除してくれなかったのだと思う。警察だけでなく、メディアも全然、取り上げてくれなかったですね」

 今回の衆院東京15区補選では、主要政党全体に被害が及んだ。このことが警察の動きに影響したのではないかと幹部は推測する。

「小池百合子・都知事が『選挙妨害』を訴えて初めて警察が動いたとも言われています」 

  3人の逮捕容疑は、告示日の4月16日、JR亀戸駅前で、乙武洋匡候補(48)の演説中に、電話ボックスに上がって拡声器の大音量で演説を妨害したというもの。電話ボックス上で仁王立ちになった黒川代表の姿が繰り返し報道された。乙武陣営だけでなく、 立憲民主や国民民主など主要政党の候補者陣営から警視庁に被害届けが出ているとされる。

黒川淳彦代表

 日本維新の会から立候補した金澤結衣氏も被害に遭っていた。東京維新の会の金澤陣営担当者は「うちの陣営でも警視庁に被害届けを出し、もう受理されています」と明かす。

  同党の音喜多駿政調会長は応援演説に駆け付けた際に体験した選挙妨害の実態を話した。

 音喜多氏は、選挙カーから降りたとたんに、つばさの党のメンバーに囲まれた。

「お前、泣いてるんじゃないのか、写せ、写せ、びびってんじゃねぇよ」

 そう叫ばれたという。囲まれていた時間はおそらく10分近く。

 「ほっておけば、いつまでも(罵声が)続きそうな感じでしたね」 

 選挙には吉村洋文・大阪府知事も駆けつけ、金澤氏とともに選挙区内を練り歩いた。その現場にもつばさの党のメンバーが現れた。吉村知事らを追いかけ、接触しようとした。 

「答えろ、吉村」

「万博のカネ返せ、吉村」

「このゴキブリども」

 根本容疑者が口汚く罵りながら、2人の後をついて回った。 

 つばさの党が攻撃したのは、政党関係者だけに限らない。「青汁王子」として有名な実業家の三崎優太氏は昨年6月に被害に遭っていた。閑静な住宅街にある自宅前で、黒川容疑者らの街宣活動を受けた。黒川容疑者は拡声器マイクで、神社の神主が清めのために行う「祓詞(はらえことば)」を唱え、 その様子をYouTubeで生配信していたという。

 三崎氏は当時、「このマンションには小さい子供もいる」と隣人を気遣い、「こういうカルト的な団体を放っておくとますます被害者が増えるばかりなのでは」という趣旨の話をした。

 つばさの党の街宣は小池百合子都知事やロンドンブーツ1号2号の田村淳氏の自宅にも及んだ。

  警視庁は選挙期間中、つばさの党に1件の「警告」を出したが、逮捕が選挙後になったことに疑問の声も上がっている。 

立憲民主党の選挙活動現場に現れた根本良輔幹事長

  5月中旬の参議院総務委員会で、このことについて音喜多氏が警察庁の審議官に質した。審議官は「『警告』は行政指導と位置づけられ、違法状態の早期除去と続発防止を図るべく、各個別の県警の対応となっている」と答えたという。 

 音喜多氏は公職選挙法の改正を提案している。その内容は「公職選挙法第225条(選挙の自由妨害罪)」の罰則の強化。現行の禁錮の期間を「4年以下」から「5年以下」に引き上げること。また「選挙の自由妨害罪」の適用を具体的に明記することだ。想定しているのはどんな妨害行為なのか。 

  音喜多氏によれば「大勢で選挙事務所または自宅への押しかけ」「大音量で聴衆が演説を聞きづらくする行為」の2つだという。さらに、公職選挙法第7条にある「検察官、都道府県公安委員会の委員及び警察官は、選挙の取締に関する規定を公正に執行しなければならない」とあるが、ここに「迅速に」という文言を加えるという。 

 自民党では茂木敏充幹事長は5月13日に「必要な法改正をやっていきたい」と語っている。 

 「私たちの案が100%満点だとは思っていないので、変えられるところは変えて、与野党問わず皆で出したいなと思っています」(音喜多氏) 

 今国会中は時間的に難しく、秋以降になるのではないかと見る向きもあるが、「模倣犯が出ないよう、早めに法改正を進めるべきだと思っています」(音喜多氏)。都知事選は6月20日告示、7月7日投開票。つばさの党は都知事選でも同じように活動すると公言している。 

  改正には慎重な意見や、現行法で十分に対応が可能だという意見がある。厳罰化は、市民の表現の自由を奪ってしまうのではないか、という懸念が根底にある。 

  元テレビ朝日アナウンサーで、自民党の東京都議・川松真一朗氏も改正の必要性までは感じていないという。 

「公職選挙法はファジーなんです。警察の所轄単位で判断が変わる。改正ではなく解釈をハッキリさせることの方が重要だ」 

 やみくもに他党の選挙を妨害する目的は何なのか?そしてその資金源は?

「彼らにはバックがいるはず」

「資金源を聞いたことがあります」

  つばさの党に詳しい男性が話す。

 18年ぶりに「特別捜査本部」を設置した警視庁の捜査はどこまでメスを入れられるのか。