第74回全国植樹祭に出席したおふたり。陛下は著書『テムズとともに』のあとがきで、「雅子とともにイギリスの地へーー」と思いをつづっていた=2024年5月26日、岡山市北区、JMPA

 国賓として22日から英国を公式訪問中の天皇、皇后両陛下。注目されているのが、陛下と雅子さまがそれぞれ留学していたオックスフォード大学への訪問だ。陛下は著書『テムズとともに』で留学当時の思い出をつづり、結婚30年の節目にあたって昨年に復刊された際には、あとがきに「遠くない将来、同じオックスフォード大学で学んだ雅子とともに、イギリスの地を再び訪れることができることを願っている」と書き足していた。その陛下の思いが今回、実現することになった。

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「オックスフォードの2年間は、私たち二人にとって、本当にいろいろなことがあって、一言ではとても表現できないような日々でした。オックスフォードでのそれぞれの学生生活について、楽しかったこととか、研究の話、あるいはどういった方々とお会いしてどのようなことをしたかとか、そういった話をすることがあります」

 英国訪問に先立つ19日、記者会見に臨んだ陛下は、雅子さまと交わす「思い出話」について明かした。

 同じオックスフォード大でも、陛下の留学先はマートン・カレッジ、雅子さまはベイリオル・カレッジと異なるものの、当時を楽しく振り返っているようだ。

「雅子からは早朝に起きてボートの練習に参加した話などを聞くことがありますし、私自身も回数は限られていますけれども、テムズ川でマートン・コレッジのボート部の人たちと一緒に練習をしたことがあり、そういった共通の話題もあります」
 

■英国とのチャンネルを築く「役目」

 浩宮時代の陛下は学習院大を卒業した後、23歳だった1983年から85年までの2年4カ月をオックスフォードで過ごした。

 平成の天皇の侍従として皇室に仕え、駐英公使として英国での勤務経験もある多賀敏行・中京大学客員教授は、こう話す。

「英王室はいまだ欧州王室のなかで絶対的な存在です。そして、日本の皇室がお手本としてきた英王室とチャンネルをつくるのは、皇位継承者として大切な役目のひとつでもありました」
 

留学先の英オックスフォード大周辺で自転車に乗る浩宮時代の天皇陛下=1985年9月30日、英国

 陛下は記者会見で、自身の著書『テムズとともに』についても触れた。

 著書で陛下は、故エリザベス女王をはじめとする英王室のメンバーとの交流や、英国の歴史を背景にした国民性や生活習慣への考察、ライフワークとなった水の研究に至る過程、大学での講義などについてつづっている。
 

■ディスコの「ドレスコード」でNG

 また、学生仲間と夜の街に繰り出した際の失敗談など、陛下らしい述懐も見つけることができる。

私はいかにもディスコが好きそうなMCR(※編集部注:ミドル・コモン・ルームの略)のある男性と一緒にとあるディスコに入ろうとして、入り口で差し止められてしまった。理由を聞くと、ティーシャツやジーンズではその晩は入れない由である。ちなみに、私がジーンズ、友達がティーシャツ姿であった

 この話には、きちんと「オチ」もついている。

さらにその人は私たちの後方にいた警護官を指差し、「あなたは結構です」と言った。彼はネクタイこそしめていなかったが、ブレザー姿であったから許可されたのであろう

 陛下らしいユーモアに満ちた失敗談だけに、読んでいて笑顔になってしまう。
 

 ドレスコードで入れなかったディスコには、後日きちんと「リベンジ」を果たしたようだ。

二度目は、MCRの女子学生も含む男女混合のメンバーで、平日に前回とは違うディスコへ行った。生まれて初めて入るディスコのこと、内部の騒音は聞きしにまさるものと思った。(略)私もまったく自己流のステップで踊りの仲間入りをし、MCRの女学生と向かい合って踊ったりしたので、退屈するようなこともなかった

 陛下がディスコを後にしたとき、すでに夜中の2時を回っていた。

私にとって生涯最初で最後のディスコであったかも知れない

外務省在外研修のため渡英し、オックスフォード大学ベイリオル・カレッジに入学した小和田雅子さん(現・皇后さま)=1988年10月撮影

■「ウッソー!」の反応に困った陛下

 2年に及ぶ滞在中には、日本人観光客と遭遇することもあったようだ。

外出時には、できる限りジーンズなどのラフなスタイルで歩くようにしていた。私と顔を合わせた日本からの観光客も最初は目を疑ったらしい。若い女性から目の前で「ウッソー!」と言われたときは、「ウッソー!」の本義を知らず、どう反応していいか迷った

 

 また、記者会見で陛下は、雅子さまとは「蜂蜜色の石の建物などが非常に印象的」なコッツウォルズや、クライスト・チャーチ・メドーを散策した話を、おふたりの間でよくしていると話した。

 さまざまな出来事があった英国での生活。若き日々を、おふたりが懐かしく思い出されている様子がうかがえる。
 

 陛下は、「私にとっての青春の記憶である」とした著書『テムズとともに』のあとがきを、こう結んでいる。

遠くない将来、同じオックスフォード大学で学んだ雅子とともに、イギリスの地を再び訪れることができることを願っている

 願いがかなったオックスフォード訪問では、おふたりで一緒に新しい思い出を作ることになるのだろう。

(AERA dot.編集部・永井貴子)