海外大学への合格実績が高い広尾学園中学校・高等学校

 都市部を中心に人気が続く中学受験。首都圏の受験率は2024年、過去最高を更新しました。中学入試や中高一貫校の最新トピックを紹介するAERA with Kids+の連載。今回は、海外大学への合格状況について。中学受験情報誌「進学レーダー」前編集長の井上修さん(現・日能研入試情報室室長)が解説します。

■大学実績評価の多様化

 日能研では、私学(私立中高一貫校)の大学合格実績を毎年集計して発表しています。その実績は、A率、B率という独自のランキングを作成し公表していました。まずA率は、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学の現役合格率、B率は東京理科大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学の現役合格率でした。近年、このA率、B率を取り巻く環境は大きく変化しています。そのうちの一つが理系率の上昇です。B率から東京理科大学を外しMARCHだけとし、東京工業大学、東京農工大学に、前述の東京理科大学、さらに芝浦工業大学、東京農業大学を加えて、その現役合格率であるS率を新たに作成しました。S率のSはSCIENCEのSです。

■首都圏の中高一貫校の25%が海外大学合格の時代

 そして、これらの指標とはまた別に、近年台頭している大学実績のカテゴリーがあります。それが海外大学の実績です。

 日能研では2021年から、海外大学の合格実績をまとめて報告し始めました。データを取っていると、特に22年から23年にかけて、私学の海外大学の合格実績が非常に高まっているのに気がつきました。

 というのも、21年、22年までは、各中高一貫校の現役合格者2人以上でデータを作成していたのですが、23年に表を作成したところ、2人以上だと約100校になり、改めて3人以上でまとめなおしたところ、それでも73校となりました。首都圏にある私立・国立・公立中高一貫校が300校弱ですから、全体の約25%の中高一貫校が海外大学に3名以上合格しているということになります。これほどまでに海外大学志向は進行しているのです。

■国際バカロレア教育が結実

 さて、今回は首都圏の中高一貫校について、卒業生数に対する海外大学現役合格率ベスト5を紹介します(別表、2023年のデータ)。トップは広尾学園(東京)で、次に茗溪学園(茨城)が続きます。東京大学や早慶上智のランキングとはまったく違う顔ぶれです。

首都圏の中高一貫校のデータ。数値は日能研調べ

 ちなみに、ランキングからは外れましたが、中堅の女子校でも海外大学に目覚ましい実績を出すケースがあります。21.2%の北豊島(東京)、16.0%の麹町学園女子(東京)などがその好例です。両校とも丁寧な進路サポートが特徴ですが、その成果が海外大学でも発揮されたというところでしょう。

 さて、話をベスト5に戻すと、いずれも国際理解教育を重視している私立・国立大学附属ですが、際立った特徴がみられます。5校のうち、茗溪学園、東京学芸大学附属国際、開智日本橋学園の3校が、IBDP (国際バカロレア・ディプロマプログラム)の認定校だということです。

 国際バカロレアとは、ごく簡単に言えば、他文化を理解し、敬意を抱くことで、平和な社会を実現できるような若者を育成することを目的とする教育です。現在、インターナショナルスクールでも実践校が急拡大しています。

 そのうちディプロマプログラム(DP)とは、日本の高校段階(主に高2〜高3)で実践するプログラムで、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格「国際バカロレア資格」を取得できるのです。先の3校はその成果が実ったと言えるでしょう。

 2024年の実績では、茗溪学園がスタンフォード大学など、開智日本橋学園がブリティッシュコロンビア大学など、そして東京学芸大学附属国際でアーラム大学などで合格者を出しています。

■海外大学はより身近に

 ちなみにIBDP校として実績を積んでいくと、実際に海外大学に進学した生徒からリアルな情報がより寄せられるようになり、さらに実績が続いていくという側面があります。特にコロナ以降、日本だけではなく世界中でZoomなどのテレビ会議システムが普及しました。メールなどだけではなく、ライブ中継やSNSなどを経由した動画がいつでも気軽に手に入るようになり、海外大学のリアルな情報が、以前とはまったく違った豊かさで押し寄せてくるようになり、それが海外大学志向をより高めているというのもあります。

 またテレビ会議システムでつながるだけではなく、海外大学に進学した卒業生がYouTubeを開設して情報発信するケースもみられます。

 今後、海外大学進学者のリアルな情報がより入手しやすくなると、より進路は多様化し、東大や早慶といった国内の難関大学を目指すという進路も、相対化していくのではないでしょうか。

(文/井上修)