「誰も立ち止まらず、この車を見ない」

 自動車大国として知られる日本だが、海外から見ると、ユニークに映ることもある。アメリカ人のハリウッド映画監督ドン・ハリスさんは日本の公道を走行中、車内から驚きの声を上げた。「なぜ、彼らはこの車に興味を示さないんだ!」。いったい、アメリカとは何が違うのか。詳しい話を聞いた。

 米ロサンゼルス在住のハリスさんは現在自身3作目の映画『The Mad Batter』(邦題は未定)を制作中。公道での自動車レースの危険性を訴える内容で、クランクインの準備を進めている。

 そんなハリスさんは、4月17日まで日本に滞在した。観光の目的は桜だ。今年は開花が遅れたことから、ちょうどベストシーズンに重なり、千鳥ヶ淵や日本銀行前などの名所で満開の桜を楽しんだ。

 ほかにも、大好きなハーレー・ダビッドソンのショップを見学するなど、愛好家ならではの時間を過ごした。月島でもんじゃ焼きやお好み焼きに舌鼓を打ち、映画制作への英気を養った。

 来日は3回目というハリスさん。日米の文化的な違いには、毎回さまざまな気づきがあり、日本から学ぶ点も多いと話す。

 今回、「本当にアメージングだよ」と話したのは、ハリスさんが車での移動中のことだった。

「なぜ、みんなこの車に注目しないんだ? この車はとても非常に珍しいはずなのに。誰も立ち止まらず、この車を見ない」

 乗っていたのは、全長5メートル72センチの巨大な車。1959年式キャデラック・デビルだった。航空機をデザインしたド迫力のボディーは、公道で圧倒的な存在感を放っている……ように見えた。

 しかし、助手席から歩行者や隣を走る他のドライバーを見る限り、車に目をやったり、手を振る人は見当たらない。これが、不思議でならないという。

「もしこれがアメリカならみんなこの車を見て、『クールカー!(かっこいい車)』と言うでしょう。これは、59年式のキャデラックです。日本では見向きもされません。それは私にとって驚くべきことです」

 アメリカ、ドイツと並ぶ世界有数の自動車大国だ。自動車ファンが多く、国内外の車種に精通する人が多いのはハリスさんも知っている。それだけに、「なぜこのような人々がこの車の素晴らしさを知らないのか分かりません」と苦笑した。確かに、自動車イベントでもない限り、それが有名国産スポーツカーであっても、多くの人は関心を寄せないかもしれない。

ロサンゼルスで集まる車への注目

 一方で、アメリカではひとたび価値の高い車が公道を走り出すと、瞬く間に熱い視線を集めるという。

「(愛車の)バラクーダコンバーチブルのようなクラシックカーを運転すると、人々は関心を持ち、『クールカーだね』と毎回声をかけてくれる。少なくとも4〜5人からは反応があります。特に私と同世代のような人々はこの車を覚えている。ほとんどは男性で女性は少ないけれど、それでも『クールカー』と言ってくれます」

 ウインドー越しにドライバー同士が手を振ったり、気軽に言葉を交わすのも、アメリカの特徴だ。

 ハリスさんは、「日本ではキャデラックだけではないかもしれません。私は黒いポンティアックにも乗りましたが、人々は無関心でした。先日フェラーリとアメリカンマッスルカーのダッジ・チャージャーを見ましたが、人々はそれらの車にも興味を持っていないと思います」と信じられないような表情を浮かべた。

 そして、その理由を次のように考察している。

「日本の人々は目的地に到達することだけに集中していると思います。彼らは早く目的地に到達したいのです」

「アメリカはスムーズではありません」

 ハリスさんは公道で自動車、歩行者、自転車、バイク、電動キックボードなどがぶつかることなく、整然と動く様子にも驚く。

「アメリカはスムーズではありません。歩行者は話しながら歩いています。日本では老人はゆっくりと歩きますが、若い人や労働者は非常に速く歩きます。そして彼らが向かっている場所に素早く到着します」と結んだ。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム