今夏に全国ツアー『シャリとキリギリンス』を開催

 お笑いコンビ・銀シャリ(橋本直、鰻和弘)が、今夏に全国ツアー『シャリとキリギリンス』を開催する。同コンビで過去最大規模の動員1万人動員を目指し、5月4日の静岡公演から全国11都市で13公演を展開する。直立不動でしゃべり倒す昔ながらの漫才スタイルを貫いてきた2人は、地方でも精力的にライブを行ってきた。来年には結成20周年。ボケの鰻とツッコミの橋本が地方めぐり、芸風へのこだわりなどをENCOUNTに語った。(取材・文=大宮高史)

――今回のツアーは、過去最大規模1万人動員が目標です。

鰻「実はライブの観客動員ってあまり気にしたことがなかったんですが、マネジャー陣と会社が『1万人いけるやろう』とOKを出してくれました。東京と大阪でそれぞれ2回公演を行いますし、1万人に達しなかったら追加公演もやってみようかなと(笑)」

橋本「今年が結成19年目で、来年の20周年を前にここらでひとつ分かりやすい数字として1万人を掲げてみましたが、恥ずかしいですね(笑)」

――毎年のツアーと並行して、47都道府県をめぐる『銀シャリの産地直送漫才〜47都道府県巡り〜』を2019年から続けています。

橋本「ツアーと47都道府県めぐりは明確にコンセプトを分けています。ツアーには新ネタを持って行って、47都道府県めぐりではご当地ネタを多くしつつ、トークやお客さんとの質問に答えたり、クイズをするコーナーも設けてきました」

鰻「同じ北海道でもツアーなら札幌、47都道府県なら函館と行先も違うので、その分、全国隅々まで僕らの漫才をお届けできます。配信もないので、どちらのその場限りの芸を楽しんでほしいです」

――配信がないということですが、(配信に)こだわらない理由はありますか。

橋本「『配信を気にして思考が止まる』ことを避けたい考えがあります。映像が残るので、『炎上しないか』など余計な要素を気にせずに漫才に集中したい。(配信がなければ)いわゆるコンプラや著作権を気にしないで、しゃべり熱が入ってどんどん脱線していけるので、劇場に来てくれるお客さんにとってもメリットは大きいかなと思います」

鰻「ネットが悪いわけではなく、テレビしかなかった時代と違って地方にも伝わるスピードが速くなりました。お笑い番組にしても、地方局よりもネット配信の方が早く見られるようになり、YouTubeもあるので、ブームを起こしたい若手にとっては、昔よりいい環境になりました」

――地方めぐりを精力的に続けている理由は。

橋本「生で漫才を披露する機会を増やしたいんですね。ツアーでは毎年新ネタを作ってネタの差別化もできるし、東京や大阪から『メディアを通じて全国区になる』という図式にこだわっていません。『寅さん』のように地方で顔を売っていって愛されていけばいいのかなと考えています」

鰻「地方の公演で『今日漫才を初めて見る人は?』とお客さんに聞いて、たくさん手が上がる時が一番うれしいですね。ひな鳥が初めて見たものを親鳥だと思いこむように、初めて観る漫才が銀シャリなら、そのまま僕らのファンに取り込んでしまえるのかも」

橋本「ツアーの合間にも『47都道府県巡り』に行きますので、最近は週末に自宅にいることがほとんどありません。家賃払う意味あるのかな(笑)。ライブをやってきて気づいたことに、『ウケる笑いに地域差はない』があります。これはすごく意外でした」

――銀シャリのYouTubeチャンネルでは、地方めぐりの裏で土地の風物を楽しむ様子も配信しています。

橋本「ラーメン、レトロ、古着屋さんと僕らの趣味をそのまま反映しています。せっかく全ての都道府県に行くのなら、動画で舞台裏の公開してみようと考えたのがきっかけです」

鰻「僕はプライベートでよく旅行に行くので、47都道府県全てに行っています。バイクで国道を快走したりとか」

橋本「でも、この人は食べ物はどこに行ってもワンパターンで(笑)。地方に行ってもチェーン店で済ませてばかりで、特にびっくりドンキーへのこだわりもすごいです」

鰻「日本中どこでも同じものが食べられることに安心感を覚えるたちなんです。お酒の方はありがたいことにマネジャーさんが地元のものを勧めてくれるので、助かります。橋本くんはレトロなものが大好きだよね」

橋本「長崎のレトロな商店街や眼鏡橋の情景は最高です。石畳やガス灯が情緒を強調してくれて……桜島や宍道湖で見た夕暮れの綺麗さも覚えています。僕はまだまだ日本の風物を体感していきたい。反対に鰻くんはグローバルで毎年海外旅行に行っていて、今年はアフリカまで行ったよね」

鰻「『北斗の拳の世界』と言われていた南アフリカのヨハネスブルクにも行きました。本当に『1人で外を歩いたらあかん』と言われた街です。危ないところでも構わず現地を体感して、日本人ではなく“地球人”の感覚を持ってみたいなというのが、人生を懸けての夢なんです」

結婚10か月…橋本直が元局アナの妻と同居開始「実感が湧くのかな」

――橋本さんは昨年6月、Daiichi-TV(静岡第一テレビ)元アナウンサーの鳥越佳那さんと結婚されました。鳥越さんは退職後、今年3月まで鹿児島県鹿屋市を拠点に「鹿屋市地域おこし協力隊PRレポーター」「さつまいもアンバサダー」として活動されていました。

橋本「僕はこうして全国を回って、妻は鹿児島に住んでいたので結婚していることを忘れてしまうほど、一緒にいる時間が少なかったです。テレビ通話を時々するくらいで、画面上にしか(妻が)いなくて、『架空の存在か、AIなのかな』と思うほどの“リモート新婚”でした」

鰻「橋本くんは傍から見ていても生活リズムが独身時代と全然変わっていないので、相方の僕でも時々忘れかけます(笑)」

――鳥越さんは協力隊の任期を終了。結婚10か月で東京での同居が始まったそうですね。

橋本「これから結婚生活の実感が湧くのかなと。妻が帰ってくる時に合わせて計画的に家の中も掃除して、後輩芸人ともたくさんご飯に行っていました(笑)」

――さて、銀シャリの漫才は「正統派のしゃべくり漫才」と言われてきましたが。

橋本「うれしくもありつつ、やる身としては『どこが正統派やねん』が本音です(笑)。しゃべりまくるスタイルはどのネタでも共通しているけど、漫才のロジックは毎回変えているので、むしろ、形にはまらない漫才をやってきた自覚があります」

鰻「そもそもしゃべりまくる僕らのスタイルだけが、『正統派』なのかは疑わしいな思っています。歴史をひも解いたら、漫才は盆踊りや浪曲とも結びついた芸でした。だから、僕が好きな河内音頭や弾き語りする芸人をイジるようなお笑いの方が、歴史的には正統派漫才なのかも(笑)。僕らはしゃべりまくる漫才が好きで続けてきて、いつのまにか『正統派』と評価されるようになったなと思っています。コントは得意でなかったですし」

橋本「ネタの中の人物になりきる必要があるコントよりも、しゃべり倒す漫才の方がひたすら話題を広げていけるから好きですね。場の空気に応じて、いくらでもアドリブを展開できます」

――過去最大規模の動員へ。あらためて意気込みを。

鰻「お客さんに『あの時のツアーを生で見たんだぜ』と自慢してもらえるくらいの芸を見せていきます。実はラジオではもっと広範囲に、下ネタでもかまわず笑いを取っていますが、それも含めて銀シャリの笑いです」

橋本「お笑いもコンプライアンスに厳しくなってきた時世ですが、我々は攻める芸風ではないので(笑)、安心して日常の延長線上にある笑いを楽しんでください」

□銀シャリ(ぎんしゃり) NSC吉本総合芸能学院大阪校出身の鰻和弘(1983年8月31日生まれ)と橋本直(1980年9月27日生まれ)が、2005年8月に結成。青いジャケットの衣装をトレードマークに、10年に第40回NHK上方漫才コンテスト優勝。11年に上方漫才大賞新人賞を受賞。16年にはABCテレビ・テレビ朝日系『M-1グランプリ』に8度目の出場で優勝を果たした。19年から『銀シャリの産地直送漫才〜47都道府県巡り』を開催している。大宮高史