クルマ好きのゲストを迎え、「これまでに出会ったクルマの中で、人生を変えるような衝撃をもたらしてくれた1台」を聞くシリーズ、「わが人生のクルマのクルマ」。今回登場していただくのは、舞台、テレビ、ラジオなどで活躍するお笑いコンビ「テンダラー」のボケ役の浜本広晃さん。自他共に認める大の旧車好きとして有名で、現在の愛車はケンメリ・スカイラインだ。


ケンメリを買ったのは7年前

大阪港のレンガ倉庫を改造したクルマのミュージアム、「ジーライオンミュージアム」。曇り空のせいか、レンガ塀はとても冷たそうに見え、観光客も肩をすぼめながら歩いている。そんなヒンヤリとした空気をつんざくように、純白の日産スカイライン(C110型:通称ケンメリ)が滑り込んで来た。



驚いたような顔をした観光客が、一斉にスマホを向ける。新車と見紛うばかりにピカピカのケンメリから降り立つのは、漫才コンビ「テンダラー」の浜本広晃さんだ。

筒井カメラマンがレンズを向けると、「おお!久しぶり。いま、撮影しているのよ。雑誌エンジン、買うてや!」と、あたかも友人に偶然出会ったような一人芝居を始めた。

筒井カメラマンは「流石です!」と笑ったけれど、一人芝居をしたほうが自然な表情が撮れるだろうと考えたのだろうか?芸人としてのプロの流儀を垣間見たような気がした。

きっと『エンジン』の撮影に際して、事前にいろいろと考えてきてくれたのだと思う。濃紺のスーツにストレート・チップのシューズという出で立ちも、本誌のテイストを熟考したからに違いない。スラリとした身体にスーツがとてもよく似合っている。「脚、ナガ!」とカメラマン助手が思わず呟いた。

よく見たらストレート・チップのシューズのつま先部分には映画『バットマン』の蝙蝠の刺繍が入っている。オシャレは足元からと言うけれど、こだわりのある方だと推察した。



さて、自分のスタイルをしっかり持った浜本さんがケンメリを買ったのは7年前のことだった。

「1973年式のGT-R仕様になります。ケンメリの前は日産フェアレディZ(1979年式:S130型)に乗っていたんです。それで旧車が大好きになって、いつかはケンメリに乗りたいなと。Zに乗りながらもネットで検索をしていたら、ある時、滋賀県彦根市の旧車ショップのデモカーとして、あのケンメリがあることを知りました。いつもと違って、胸にグッと迫るものを感じました。呼んでるんじゃないか? と」

早速、見に行くと内外装ともにピカピカ。駆動系、冷却系、点火系、足回りなどもすごく丁寧な仕事をしていることがわかり、こういうお店なら安心だと思ったのだそうだ。

「ワタナベのホイール、ガンメタのオーバー・フェンダー、黒いフェンダー・ミラーなど、すべて買ったときのままです。自分で手を入れたのは、リアのバッジぐらいですかね。GT-Rのバッジを外して、スカイラインをダットサンに換えました」

現在の走行距離は9万5000kmほどで、仕事にもケンメリで行くなど、旧車にしてはよく走っているほうだと浜本さんは言う。

日産スカイライン 4代目スカイライン(C110型)は1972年にデビューした。通称:ケンメリ。浜本さんの1973年式GT-R仕様はL28型改造の3リッター直6を搭載するほか、デュアル・マフラー、RSワタナベ8スポーク・ホイールなど手が加えられている。


最初は中古のBMWミニ

浜本さんがクルマの免許を取ったのは18歳だったが、自分のクルマを初めて手にしたのは30代になってからだった。

「20代の頃はバイクでした。30代になって初めて買ったのは、中古のBMWミニです。ちょうどBMWミニが出始めの頃で、これはカッコイイと思いました。購入したモデルはオーバー・フェンダーが付いたシルバーの改造車。これに2〜3年乗りました」

次に買ったのは新車のポルシェ・ケイマンである。

「友人がボクスターを買いに行くというので、付いていったんです。ちょうど、ケイマンというニューモデルが出るという話を聞き、ディーラーのパソコンでパーソナル・オーダーのシミュレーションをやりました。ボディ・カラーはこれ、内装はこれ、オプションはこれでって。で、残価設定ローンはこれぐらいだと」

それを聞いた浜本さんは「いける!」と確信、翌日再びディーラーを訪ね、白いボディにブラウン内装というケイマンを注文した。

「なんとか、なるやろーと思ったんですけどね、1年後なんともならんわと思って売りました」

先輩がいるところにポルシェで乗り付けることに気を使うのも、ちょっと疲れてしまったのだという。

「やっぱり気を使ううちは、ポルシェは乗らんほうがいいと思って」

ポルシェ・ケイマンからジープ・チェロキー(3代目KJ型)に乗り換えたものの、やっぱりアイポイントが低いスポーツカーが欲しいと、日産フェアレディZ(S130型)を購入する。

「Zで旧車の楽しさを知り、その後ケンメリを購入するんですけど、そもそもZを購入したのは、父の影響です。父がS130型のZに乗っていて、あれは良かったなあと思い出したからなんです」

子供の頃からお父さんと二人暮らしだったという浜本さんのクルマ体験は、お父さんが運転するクルマに乗るということだった。

「父はクルマをちょいちょいぶつけていたみたいで、そのたびに代車が来るんです。うちはこんなにクルマを買い替えることができる金持ちなんだと思ってました(笑)。スナックのホステスさんをクルマで送るなんてこともやっていて、後席で子供ながらに寝たふりをしたりしていました(笑)」

三つ子の魂百まで。お父さんと過ごしたクルマのなかでの悲喜こもごもが、Z購入のきっかけになったのかもしれない。



ケンメリに乗り換えたのは、張り出したリア・フェンダーに憧れていたからだと言う。

「いまでも後ろ7:3の姿が圧倒的に好きです。丸いテールランプ、張り出したリア・フェンダー、ワタナベのホイール、もうすべてが素晴らしい。高速道路SAの駐車場でしばらく見とれることもしばしばです。カッコイイなあと」

旧車のマニュアルにも乗りたかった。

「乗り換えて本当に良かったです。乗るたびにワクワクします。ケンメリは運転している感覚がめちゃくちゃあるんですよ。こんなに運転に集中できるんだから、かえって安全なんじゃないかと思うほどです」

ケンメリは自分にとってもうひとりの相方だと浜本さんは言う。

「仕事にも遊びにもこいつと行きますからね。ただし、ケンメリに乗ってネタを思いつくことはないです。運転に集中しちゃうので(笑)」

浜本さんとケンメリの蜜月はまだまだ続きそうだ。

文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=筒井義昭 撮影協力=ジーライオンミュージアム


■浜本広晃(はまもと・ひろあき)
1974年大阪生まれ。白川悟実とともにお笑いコンビ「テンダラー」を結成、舞台、テレビ・ラジオなどで活躍中。1998年、「第19回ABCお笑い新人グランプリ」新人賞、2003年「お笑いワールドグランプリ」優勝、2006年、「第4回MBS新世代漫才アワード」準優勝、2008年、「第6回MBS新世代漫才アワード」準優勝、2009年、「BGO上方笑演芸大賞」改名賞、2013年、「第48回上方漫才大賞」奨励賞、2015年、「第50回上方漫才大賞」大賞を受賞。THE MANZAI マスターズでは常連出演者となっており、2023年の放送では実質的なMVPでもあるたけし賞を受賞した。

(ENGINE2024年4月号)