繰り下げ受給を検討する方から、ときどき相談を受けることがあります。その理由はさまざまで、老後への不安や年金受給額の増加、高齢者でも働ける環境の整備、その他人手不足に伴う高齢者歓迎求人の増加など、多岐にわたります。   そこで、63歳時点で貯金が200万円となる場合に「70歳まで繰下げ受給をする」という判断は誤っているのか、考えていきます。

70歳まで繰下げ受給をすると年金はどうなる?

まずは、繰下げ受給の効果を確認していきましょう。繰下げ受給とは、本来なら65歳から受け取る年金の受取開始時期を65歳よりも遅らせる代わりに、年金受給額を増加させる手続きです。
 
繰下げ受給は1ヶ月単位で行うことができます。1ヶ月繰り下げるごとに、受け取れる年金額は0.7%ずつ増加していきます。
 
例えば70歳まで繰り下げると、5年間(60ヶ月)繰り下げることになるので、増加率は42%です。仮に、月額換算10万円の年金を受け取れる方が、70歳まで繰下げ受給をすると、受け取れる年金額は月額換算14万2000円となります。
 

63歳時点で貯金額が200万円となる場合は、繰下げ受給をするべきではないのか

今回取り上げた例のように、63歳時点で貯金額が200万円になる場合でも、繰下げ受給をしても問題ありません。むしろ、貯金額や老後の生活に不安があるからこそ、繰下げ受給をすべきだといえます。
 
なぜなら、自分が老後を経て何歳まで生きるかは分からないからです。その上、何歳まで働きつづけられるのかも、明確には分かりません。
 
一方、年金は生きているかぎり永遠に受け取りつづけられます。繰下げ受給を行って、年金が増額されている場合、その後は一生、増額後の年金を受け取りつづけることができます。
 
それらを踏まえると、63歳の時点で貯金が200万円しかなく、老後を過ごすのに十分な額でない状態であれば、70歳まで繰下げ受給をすることは、むしろ老後に備えてより安心するための選択だといえるでしょう。
 

繰下げ受給の注意点

70歳まで繰下げ受給をする際は、注意点がいくつかあります。
 
そのうちの一つは「繰り下げた分だけ年金の受給開始時期が遅れる」という点です。63歳以降70歳までの間を、貯金200万円で生活していくことは不可能です。
 
そのため、70歳までは働き、その収入を生活費に充てることになるでしょう。また、繰下げ受給を行って年金額を増やすと、税金が発生したり、税金が高くなったりする可能性があります。
 
参考までに、65歳以上の場合、受け取る年金額が110万円を超えると、その他分割で受け取るiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業年金などと一緒に「公的年金等に係る雑所得」として扱われ、所得税が発生します。
 
そのほかにも、住民税が発生したり、健康保険税が高くなったりします。とはいえ、税については居住地や家族構成、その他個別の事情によって取り扱いが異なりますので、注意してください。
 

まとめ

仮に63歳時点で貯金額が想定より少なくとも、70歳まで繰下げ受給をすることは、十分行うメリットがあります。
 
とはいえ、繰下げ受給をすることにはデメリットもあます。繰下げ受給を検討している場合は、メリットとデメリットの双方を十分に検討して、行うようにしてください。
 

出典

国税庁 高齢者と税(年金と税)
 
執筆者:柘植輝
行政書士