令和5年版高齢社会白書によると、高齢者の就業率は年々伸びており、65歳から69歳の50.8%、70歳から74歳の33.5%、75歳以上の11.0%が就業しています。また収入のある仕事をしている60歳以上の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と考えており、働きながら年金を受給する人は今後も増えていくと予想されます。   本記事では働きながら年金を受給する人が知っておきたい在職老齢年金について解説します。

在職老齢年金の仕組み

老齢厚生年金を受給している人が厚生年金保険の被保険者であるときに、受給している老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があり、これを在職老齢年金といいます。

●基本月額:老齢厚生年金の報酬比例部分の月額
●総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額+直近1年間の標準賞与額の合計)÷12

また70歳以上の人は厚生年金の被保険者でなくなりますが、厚生年金保険の適用事業所に勤務する場合はこの在職老齢年金の制度が適用されます。
 

在職老齢年金の支給停止額の計算方法

在職老齢年金の制度によって年金が支給停止になる場合は「基本月額+総報酬月額相当額」が50万円(令和6年度の支給停止調整額)を超えた場合に限ります。
支給停止額は次のように計算されます。
 
(基本月額+総報酬月額相当額−50万円)÷2
 
例えば基本月額10万円、総報酬月額相当額50万円の人だと5万円が支給停止となり、基本月額10万円から5万円を引いた額が支給されます。
 

年金受給途中から対象になる場合もある

厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の人が、基準日(9月1日)に被保険者であるときは在職定時改定の制度により翌月から年金額が変わります。
65歳や66歳のときは在職老齢年金の支給停止調整額を超えない人でも、在職定時改定による年金額増額により給料などに増減がなくても年度途中から支給停止対象になる場合もあります。
 

在職老齢年金で全ての年金が支給停止になる訳ではない

在職老齢年金で特に多い勘違いは「基本月額には全ての年金が含まれる」と考えているケースです。基本月額は老齢厚生年金の報酬比例部分の月額であり、国民年金や厚生年金の加給年金は含まれません。
そのため在職老齢年金制度により厚生年金が一部支給停止になっても、国民年金や加給年金部分は支給停止されません。加給年金部分だけは厚生年金が全額支給停止になれば支給停止されます。
 

どのくらいの人が年金の支給停止になっているのか

在職老齢年金の制度により支給停止になる人は決して多くありません。2018年度末時点での65歳以上の支給停止対象者の割合は在職受給権者の17%、そのうち全額支給停止の対象者は8%です。そもそも基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超える収入は年収換算で600万円以上です。高齢者の平均所得212万円を大きく上回っています。
 

まとめと注意点

在職老齢年金の制度は厚生年金受給額が多かったり、65歳以降も高報酬だったりする人が該当しやすい制度です。70歳以上で厚生年金に加入していなくても厚生年金の適用事業所に勤務している場合は対象になりますし、在職老齢年金により支給停止されるなら年金を繰り下げようと考える人もいますが、支給停止された年金額は繰下げ加算の対象から外れるので注意が必要です。
 

出典

日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
厚生労働省 年金制度の仕組みと考え方 第10 在職老齢年金・在職定時改定
内閣府 令和5年版高齢社会白書(全体版)第1章 高齢化の状況
内閣府 令和5年版高齢社会白書(全体版)第2節 高齢期の暮らしの動向 1 就業・所得
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー