その焼き鳥店は、田村市常葉町の中心部で半世紀以上続く。みそとしょうゆを土台にした秘伝のたれは、深みを醸す。甘じょっぱい独特なまったりさが口中に絡み、肉のうまみを引き立てる▼生みの親は、戦地から引き揚げてきた元警察官だ。朝鮮半島の味がベースになっているとか。愛妻と共に店を切り盛りしてきたが、15年ほど前に相次いで亡くなった。跡を継いだのは孫娘の姉妹。廃業を考えた時もあったが、震災と新型コロナ禍を乗り越えた。支えになったのは、祖父母との絆を絶やしたくない―の一心だった▼門外不出の味は、古里の名物として羽ばたく。商工会の催事に2、3年前から出店している。地域を盛り上げるためだ。自慢のたれを塗り、炭火焼きした肉巻きおにぎりを販売する。さっそくファンが生まれ、店の隠れメニューにもなった。今は7月の市内都路町でのイベントに向け、仕込みに忙しい▼人口が減り、集落は維持できるのか…。地方はとかく、寂しい話題が目に付く。しかし、悲観のし過ぎは禁物では。足元には輝きをまとう秘伝の味や技が眠っている。もう一度、探り当てよう。愛する「ふくしま」に、新たな誇りを呼び起こすため。<2024・5・19>