安積開拓や安積疏水開削事業に関する日本遺産「未来を拓[ひら]いた『一本の水路』」は、認定から9年目を迎えた。郡山市と「一本の水路」プロモーション協議会は、今年の市制施行100周年に合わせて記念事業を展開するなど周知に力を入れている。新型コロナ禍で足踏みしていた観光振興の各種施策を再び軌道に乗せる絶好の機会だ。節目を祝うとともに、市民が地域の歴史に理解を深め、誇りを育む取り組みも求めたい。

 一本の水路は2016(平成28)年4月に日本遺産とされた。経済県都・郡山市の礎をなす安積開拓の歴史遺産は、開成山公園を中心とした市街地に多い。通水記念で築かれた国の登録有形文化財「麓山の飛瀑[ひばく]」、郡役所だった県重要文化財「開成館」など、日本遺産を構成する文化財38件のうちの18件は徒歩で回れる範囲にあり、観光客の呼び水となっている。

 市は、開成山公園を基点に9月から11月まで周遊イベントを展開し、参加者に日本遺産の文化財や観光スポット、飲食店を巡ってもらう。家族や仲間同士はもちろん、秋の行楽シーズンと重なることから、学校の遠足先として活用するよう市外に発信してはどうか。子どもたちが県内の誇るべき歴史を知るのは意義深い。先人の英知に触れ、視野や興味、関心を広げるきっかけにもなる。

 県外への情報発信も重要だ。全国の自治体が集まる日本遺産フェスティバルが10月26、27の両日、会津若松市を中心に開催される。日本商工会議所青年部の全国会長研修会は11月14日から3日間、郡山市で開かれる。この好機を逃さず、一本の水路が育んだ文化や歴史、食といった郡山地域の魅力を伝えるべきだ。協議会は、モニターツアーの開催などを通して教育旅行の誘致に一層注力してほしい。

 協議会は、挑戦、多様性といった安積開拓のイメージに合った菓子や料理など産品55件、歴史の継承や活用につながるような活動25件をブランド認証している。ただ、新規の申請は近年、年数件にとどまる。認証産品などの積極的なPRや販促機会の拡充を進めるなど、てこ入れも必要だろう。対象としている郡山、猪苗代、須賀川、本宮の4市町の事業所の積極的な協力も欠かせない。(湯田輝彦)