訳ありだけど、実はおいしい―。相馬双葉漁協はヨコエビの食害に遭い、市場に出回らなかったヒラメを「恵比寿(えびす)ヒラメ」と名付け、売り出す検討に入った。見た目が悪いため、これまでは捨てるか、漁師の間で食されてきた。通常の状態より美味との評判もあることから、有効活用に踏み切る。関係者は常磐ものの代表格の新たな魅力を発信しようと意気込んでいる。


 固定式刺し網にかかったヒラメは身動きが取りにくくなり、小型のヨコエビの集団に食べられる場合がある。多い時には漁獲した9割が被害を受ける。

 漁協所属の漁師石橋正裕さん(44)=相馬市=は「エラなどを食べられたヒラメは血抜きされ、臭みがなく、むしろ味は良くなる。廃棄せず、好んで食べる漁師もいる」と打ち明ける。うまさを消費者にPRしようと思い立ち、構想を練ってきた。豊漁の神である恵比寿様などにちなんで「恵比寿ヒラメ」の名を思い付いた。

 漁業関係者と協議を重ね、販売に向けたルール作りを進めている。(1)見た目で50%以上の被害を受けた魚体を恵比寿ヒラメとする(2)体長50センチ未満は売らない(3)通常の競りの後に仲介業者に買い取ってもらう―などを想定している。

 石橋さんは「恵比寿ヒラメがブランド化されれば、収益向上につながる。本格操業を目指す本県の漁業も盛り上がるはず」と期待を寄せている。

 11日、相馬市の漁協で刺し網操業委員会が開かれ、石橋さんが利活用について説明した。今後、拡大操業検討委員会が恵比寿ヒラメの販売について決定する。


■被害、震災後に増加か

 県水産海洋研究センターによると、ヨコエビはヒラメの体内に侵入し、内臓などを食べる。底引き漁などは比較的短時間で漁が終わるため、被害が出にくい。昨年に本県沖で水揚げされたヒラメは統計の残る1969(昭和44)年以降で過去最多の846トン。このうち、固定式刺し網漁で取ったのは310トンで、37%を占めた。

 漁業関係者の話では、東日本大震災後に被害が増えたという。調査が行われていないため、具体的な被害数は分かっていない。茨城県沿岸部でも同様のケースが報告されている。底引き網漁が主流のいわき市沿岸部では、ヨコエビの被害は少ないとされる。

 センターは「震災前から被害はあったが、増えた理由は分かっていない。対策としては、取ってすぐに引き上げるしかないのではないか」と話している。

※ヨコエビ 東京大大気海洋研究所のホームページによると、ヨコエビは多くの種を含むグループ。エビやカニより、ダンゴムシの近縁とされる。藻場や海底に生息している。体長は数ミリから数センチ。