2023(令和5)年度の本県沿岸漁業の新規就業者は26人で、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生して以降、最も多かった。30代以下は22人で全体の8割を占める。操業停止や風評などの多大な影響を受けた生業[なりわい]の復興に向け、若手後継者の確保と育成は急務だ。国に強力な後押しを求めたい。

 県によると、沖合底引き網漁業を含む新規就業者は、試験操業が始まった翌年の2013(平成25)年度は4人(30代以下3人)にとどまった。その後は2018年度14人(同9人)、2020年度17人(同13人)、2022年度も17人(同9人)と増加傾向にある。2023年度の26人の所属は相馬双葉漁協20人、いわき市漁協6人で、親や兄弟らが漁業に従事している「漁家子弟」は15人となっている。

 沿岸漁業者が多い相馬双葉漁協では、拡大操業への移行に伴い漁獲量は回復しつつある。現役漁師が次世代に生業をつなぐ意識が高まり、後継ぎを目指す若者が現れ始めたという。漁業子弟を除く11人は高校卒業と同時に就業したか、転職して参入したかのいずれかだった。本県の漁業に魅力とやりがいを感じて飛び込んでくる人材は貴重だ。漁協関係者が一丸となって技術を伝えてほしい。

 海水温上昇の影響で、本県沖でもイセエビやトラフグが取れるようになった。地域ブランド化を目指す動きもあるが、漁業者が不足していれば一定の漁獲量を確保するのは難しくなる。少人数の家族経営が主流の小型船漁では、働き手が足りず新たな魚種に手を広げられない事例も多い。相馬地方の漁業関係者は「地域の内外を問わずに就労者を集める必要がある」と指摘する。

 岸田文雄首相は、本県漁業者の根強い反対を押し切る形で原発処理水の海洋放出を決定した際、「今後数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応する」と約束した。国は水産業の再生や風評対策に加え、人材確保を支援する責務がある。

 産業界で人手不足が深刻化する中、県は新規就業者向けに漁船・漁具の導入費や研修費を補助する制度を設けた。関係機関と連携を強めて県内外への情報発信も強化し、海に関わる職業の魅力を広く伝えるべきだ。(佐久間靖)