「ひげ」の大文字―。それは、何とも風変わりな選挙ポスターだった。覚えておられる福島市民も少なくないだろう。昭和の後半、市議選で街角にお目見えした▼候補者は高湯温泉の旅館のご主人。白いひげがトレードマークだった。威張っていた訳ではない。住民の厚い信頼を受け、議員生活は11期に及んだ。旧吾妻町と市の合併を成功させた立役者と伝わる。地元への宿泊施設の誘致にも力を尽くした。山の名士はなぜか、あのデザインにこだわった▼梅雨空の下、56人が競う東京都知事選。掲示板のポスターが物議を醸している。同じ図柄が多数張られ、風俗店の広告やひわいな画像まで登場したというから、開いた口がふさがらない。苦情の電話が都選管委に殺到しているという。まるで「無法地帯」だ。声を荒らげたくなる。表現の自由を軽々に口にしてもらっては困る▼かの人は選挙にお金をかけず、福祉に寄付していた。名湯を守るお孫さんは、そう振り返る。そのせいか。ポスターはモノクロで目を引いた。永田町には耳が痛いことだろう。豪放らいらくで親しまれた後藤泰治さん。ご存命なら百寿を越え、今のご時世を一刀両断したはず。「ダメ」と、大文字で。<2024・6・27>