能登半島地震で被災した石川県能登町宇出津(うしつ)地区で、350年以上前から続く「あばれ祭」が今年も開かれる。一時は自粛ムードが漂ったが、地区が一つになる"夏の風物詩"から復興への原動力を得ようと開催が決まった。祭礼委員会の幹部は「こんな時だからこそ祭りで元気にならなならん」と準備に汗を流す。
 宇出津祭礼委員会の事務所には、市民や市内外の企業が協賛品や協力金を持ち寄り、長く地域に根差した祭りであることを印象付ける。ただ、今年に限っては「(開催について)反対の方がもしかしたら多かったかも」と会計の蔵伸広さん(68)は明かす。
 あばれ祭は、疫病退散を願い江戸時代に始まったとされる。36町内会が「キリコ」と呼ばれる高さ6メートル程度の約40基の灯籠や、2基のみこしを担いで町内を練り歩く。石川県の無形民俗文化財に指定されている。
 例年は観光の目玉だった。しかし、地震でキリコやみこしが通るルートには依然としてひび割れや段差が目立つ。みこしを奉納する神社も被災。地区によって被害の程度も異なることなどから、中止論が根強かった。ただ、若手を中心に「まちが落ち込んでいる今こそ」と奮起、一転して開催への機運が高まったという。過疎化が深刻なまちにも伝統は着実に受け継がれている―。蔵さんはそう実感した。
 今年は5、6の両日に開かれ、36町内会のうち4町内会が不参加で、キリコを巡行するのは27町内会と例年より小規模となる。通常設置している臨時駐車場も災害ごみの仮置き場となっていることから設けず、観光は自粛するよう呼びかけている。
 ただ、その代わりにポスターには「復興祈願」の文字が目立つ。今年は「地域による地域のための祭り」との位置付けだ。
 祭りのハイライトは、みこしを日本海へと突き落としたり、地面に勢いよくたたき付けたりする場面。「みこしをぞんざいに扱っていると驚かれるかもしれないが、疫病から回復して元気になったことを目いっぱい表現する場面なんよ」と蔵さん。宇出津の街並みを一変させた災いから立ち直るためにも、今年はひと味違った暴れ方になる。(いわき支社・折笠善昭)
 神社再建へ寄付募集
 あばれ祭運営改善協議会では、被災した神社の再建に向けた資金を集めるため、クラウドファンディング(CF)も行っている。CFサイト「キャンプファイヤー」で支援を募っている。

伝統の「あばれ祭」。祭礼委員会の幹部は「祭りを通して地区を元気にしたい」と意気込む(能登町提供)